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第五話 神の寵愛を受けし者!?

 冒険者ギルドの中は、思ったより綺麗だった。

 依頼受付カウンターと酒場が別れており、なんとなく大きい病院を思わせる内装だ。


 左手の酒場では冒険者が騒いでおり、どうやら依頼の終わった後らしい。

 右手のカウンターでは、これから依頼を受けるのか冒険者が並んでいる。

 その列の長さは様々で、恐らく対応をする受付嬢の人気で変わっているのだろう。


 小説とかでは定番の、人気受付嬢だな。

 つまり、この場合は一番列が少ないところに並べば、俺は無難に冒険者登録ができる。


《変ですね。イベントが起きる気配がありません》


「まあ、気のせいだったんじゃないか?」


《それはないと思うんですけど……》


 納得がいっていないのか、ティナの声色は訝しげだ。

 まあ、俺も拍子抜けした。

 てっきり、初っ端から冒険者に絡まれ、ボコボコにされると思っていたのだが。


 とりあえず、ラッキーラッキーとポジティブに考えておこう。

 そう結論づけた俺は、視線を巡らせて列の長さを観察していく。


 と、ここで。

 明らかに、不自然な列を発見した。

 どの列も最低十人ほどの冒険者がいるのだが、何故かその列には誰も並んでいない。

 よくよく見れば、なにやらカウンターに札が置かれている。


 なるほど。

 書類整理かなにかで、受付の人は手が離せないのか。

 となると、俺が並ぶ列は──


「あ、新規登録の方ですか?」


 不意に聞こえた声に、俺はそちらの方に目を向ける。

 そこは先ほどまで札を置いていたカウンターで、受付嬢が笑顔で手招きしていた。

 思わず自分の顔を指差すと、彼女は頷く。


《なるほど》


「……嫌な予感がする」


 恐る恐るカウンターに近づくのだが、両脇の列から無遠慮な視線をビシバシと感じてしまう。


 というか、おかしいだろ。

 普通、カウンターが空いたら、並んでいる人達を優先するはずだ。

 しかし、実際には何故か俺が呼ばれ、こうして冒険者達を差し置いている。


「こんにちは、新規登録の方ですよね?」


「あ、はい。そうですけど」


「良かったぁ。間違っていたら、どうしようかと思っていたんですよ」


 安堵した様子で頬を緩めると、受付嬢は豊かな胸に手を添えた。

 輝く金髪から覗く長耳がふにゃりと下がっており、その心境が容易に窺える。


 どうやら、彼女はエルフのようだ。

 全体的に愛嬌のある顔立ちをしていて、垂れ気味の緑目が可愛らしさを引き立たせている。


《フラグ、フラグ》


 不穏な呟きを漏らすバカ(ティナ)をよそに、俺は身を縮こまらせて口を開く。


「あの、自分の話は後でいいので」


「ああ、いいんですよ。

 新規登録は時間がかかりますので、他の人に冒険者は任せておけば。

 それより、冒険者ギルドは新人さんを優先しますので!」


 パタパタを手を振り、苦笑いした受付嬢。

 そういうものなのだろうか?

 左にいる中年男性が、俺の事を凄い目で睨んでいるんだけど。


 ……もしかしてこの受付嬢、かなり人気がある人なんじゃないか?

 だから、優先的に対応されている俺を見て、腹が立っているのでは。


 うわぁ。

 これがスキルの効果かよ。

 凄く面倒な展開が予想でき、内心で憂鬱な気分になる。

 受付嬢は悪くないのだが、それと感情は別だからな。


《面白くなりそうです》


「では、早速冒険者登録しましょう!」


「は、はい」


 受付嬢が張り切った表情で屈むと、なにやら水晶を取り出した。

 その際、柔らかそうな胸が揺れ、自然と俺と両隣の冒険者は目を逸らす。

 いや、左の中年男性はガン見していていたが。


「この水晶に手を乗せてください」


「あ、あのーこれは?」


 見た目は透明な水晶で、美術品として価値がありそうだ。

 台座に乗っているそれを指すと、受付嬢が手を打って口を開く。


「ああ、貴方……えぇと、名前を聞いてもいいですか?」


「賢人です」


「ケントさんですね。私はソフィーと言います」


 うんと元気よく頷いた受付嬢──ソフィーは、次いで指を立ててくるりと回す。


「では、改めて。

 これは【叡智を見通す物(ステータスプレート)】という魔道具で、これを使うとケントさんの才能を調べる事ができます」


「才能?」


「はい。

 その人が持っているスキルの有無や、大雑把な身体能力等々。

 これを導入してから、冒険者の死亡率が激減したんですよ」


 えっへんと胸を張り、ソフィーは得意げな顔だ。

 豊かな果実が強調されて目に毒だとか、かぶりついている中年男性をゴミの目で対応している受付嬢がいるとか。

 色々と思ったが、それより俺は嫌な予感を覚えていた。


 つまり、これは他人のステータスを暴けるという事だよな。

 実際、便利なのだろう。

 利便性の良さはわかるし、俺だって素直に感心した部分もある。

 しかし、これが俺のスキルも見られるとなれば、話は別だ。


 恐らく、俺が持つ二つのスキルは、ユニークスキルだろう。

 少なくとも、〈運命は逃がさない(テンプレメーカー)〉の方はそうに違いない。

 それがバレるとなると、色々と騒ぎになって厄介事に巻き込まれる。


 というか、この状況そのものが、スキルのせいなのではないか。


「なんてこった……」


「ケントさん?」


「あの、これって他人にもスキルを見られてしまうんですか?」


 自然と強ばった顔になるのも、仕方ないだろう。

 唾を飲んでそう尋ねた俺を見て、ソフィーは柔らかく笑んで首を振る。


「その事に関しては、大丈夫です。

 受付嬢には、守秘義務がありますから!」


「つまり、俺のスキルをソフィーさんが見ても、それを誰かに教えたりしないってことですか?」


「はい!

 ですから、ケントさんは安心してこれを使ってください」


 なら、大丈夫かな。

 守秘義務があるのなら、他の冒険者に知られる事もないだろうし。


 胸をなで下ろして水晶に手を乗せると、水晶は淡く輝いた。

 暫くするとそれも収まり、いつの間にかソフィーが持っていたプレートに文字が浮かび上がる。


《でましたね》


「ああ」


 俺の予想通り、プレートには二つのスキルが書かれていた。

 それを見たソフィーは、目を丸くしてガタリと立ち上がる。


「【神の寵愛を受けし者(ユニークホルダー)】!?」


 ちょっ!?

 普通に喋ってるじゃねーか!?

 守秘義務はどうした受付嬢さーん!


 内心で絶叫していると、どうやらソフィーは我に返ったらしい。

 慌てた様子で口元に手を当て、子供のように視線を周囲に巡らせていく。


 不自然に場は静まっており、冒険者達から様々な視線が俺達に注がれている。

 多くは瞳に驚愕を含み、また何人かは懐疑的な眼差しだ。


 ……終わった。

 俺の地味な冒険者生活が、この瞬間途絶えた。

 思わず項垂れながら、涙目で何度も頭を下げるソフィーにどう説明するか考えるのだった。






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