表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

第四話 この時から、賢人様の英雄譚が始まるのですね!

「わぁ……」


 コーネさんと一緒にウルナルに入った俺は、視界に広がる光景に感動していた。

 現代日本のような無機質な並びではなく、街並みはどこか雑然とした雰囲気が漂っている。

 しかし、活気はこちらの方が圧倒的に勝っており、今を生きているという活力が人々から溢れていた。


 元気よく客を呼び込む屋台売りや、物々しい装備をしている獣耳の男性。

 通りにはエルフの女性が買い物袋を片手に歩いていて、まさにファンタジーの言葉が似合う。


 す、すげぇ。

 正直、いきなり異世界に連れてこられて怒りを抱いていたが、普通なら一生目にする事がないこんな世界を見られるのなら、転移させられたかいがあるかもしれないなと思える。


「どうですか、ウルナルは?」


「あ、すみません。

 つい、魅入ってしまいました」


「はっはっは。

 この街はセレガナ王国でも有数の都市ですからな。

 ケントさんが驚くのも無理はありません」


 なるほど。

 この街は王国でも大きいのか。

 確かに、この活気ならここが王都だと言われても、戸惑いなく納得できそうだ。


 街を少し進んだ場所で、俺はコーネさんと別れる事になった。

 先行投資として彼から銀貨を五枚いただき、本当に足を向けて眠れないほどの恩を受ける。


 なんでも、今のうちに俺と仲良くなっておけば、将来助けて貰えそうだとか。

 そこまで見込まれて買い被りすぎだと思うが、この恩は必ず倍以上にして返したい。


《良い人でしたね》


「ああ、まったくだ」


 途中で屋台から肉串を買い、貨幣状況を推察しながら歩く。


 一本が三ゴルと書かれていて、銀貨を払うと銅貨が九十七枚返ってきた。

 つまり、銀貨一枚は百ゴル……銅貨百枚分という事だろう。

 わかりやすい百進法で、俺としては助かる思いだ。


 と、この肉固いな。

 タレの味が濃くて不味くはないのだが、値段相応の美味さという感じ。

 現代日本と比べるのはあれだけど、銅貨一枚が十円ぐらいの価値か?


「それに、なんの肉だろう」


《肉としか書かれていませんでしたしね》


「……カエルとか?」


 うん。

 知らない方が身のためだな。

 ある程度異世界に馴染めば、そういう肉とかも食べられるようになるだろうし。

 それまでは、無知のままご飯を食べよう。


 密かに決めていると、コーネさんに教えられたギルドにたどり着く。

 小説や漫画でよくある、冒険者ギルドだ。


 魔物討伐や、護衛依頼。

 他にも、遺跡の探索や街での便利屋等々。

 冒険者の仕事は多岐に渡り、いわゆるなんでも屋というものだ。


《この時から、賢人様の英雄譚が始まるのですね!》


 始まらねーから!

 はぁ……ティナの脳内は、一体どうなっているのか。

 やたら俺を目立たせようとしてくるし、フラグを回収させようとしてくるし。


 ため息をついて気持ちを切り替えた後、俺は冒険者ギルドを見上げる。

 外観は堅牢な建物で、これだけで街での重要さが窺えるだろう。

 扉からは冒険者らしき存在が行き来しており、たまに依頼人と思わしき人も通る。


「……俺、場違いじゃね」


 改めて装備を確認すると、ブレザーの学生服と木の棒。

 それと、ポケットに銀貨と銅貨入りの袋。

 異世界に来ると学校鞄はなくなっており、つまりこれが俺の全財産だ。

 本当は装備を整えたいのだが、あいにくお金がなくてそれも叶わない。


《大丈夫ですよ。きっと、冒険者の方々は優しいですって》


「まあ、ここで突っ立ってるわけにはいかないし……」


 どの道、冒険者になる以外で、俺が生き残る方法はないのだから。

 いや、どこかの店に頼んで住み込みになれば、一般人として過ごせるか?


 まあ、無理だろうなぁ。

 スキルの内容的に、俺の回りには厄介事が憑いているようだし。

 他の人に迷惑をかけてしまう。

 それに、厄介事を解決できるようになるために、俺も強くならなければならない。


 と、こういった切実な理由があるのだ。

 ティナは英雄譚だとかのたまっているが、正直不可抗力なのです。


 渋々と冒険者ギルドに近づき、扉に手をかけて開けようとする。


「ん?」


《発動しましたね》


 身体に違和感を覚え、首を傾げる俺。

 対して、ティナはこれがスキル発動の効果だと伝えてくる。

 つまり、あの〈運命は逃がさない(テンプレメーカー)〉のアクティブが発動したと?


 ……行きたくねぇ。

 面倒事に巻き込まれるのが、確実じゃん。

 しかし、俺の意志に反してなのか、身体の違和感は徐々に不快感へと変わっていく。


《言い忘れていましたが、この効果から逃げようとすると不快になります。

 まあ、端的に言いますと、強制的にイベントが起きるというわけですね》


「マジかよ」


 クソスキルじゃねーか。

 呪われた装備並に、装着者に優しくない仕様だ。


 まあ、とりあえず。

 逃げられないのなら、腹を括って行くしかないという事だな。


 気合いを入れ直した俺は、冒険者ギルドへと足を踏み入れるのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ