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第一話 〈水梨賢人サポートAI──お約束事管理プログラム〉と申します

「……はっ?」


 気がつけば、俺は見知らぬ森の中にいた。

 心地よい自然の匂いが鼻腔をつき、辺りからは木々の揺れる音が響く。


「な、なんでこんなところにいるんだ?」


 いつも通り、朝起きて準備を済ませた後。

 学校に行こうと玄関を抜けると、何故かそこは森の中だった。


 うん、意味がわからない。

 現状を把握しようとしたのに、逆に戸惑う結果になってしまう。


 夢か?

 ここは俺が見ている、夢の中なのか?

 理解不能な出来事に頭を抱えていると、不意に脳内から声が聞こえてくる。


《おはようございます》


「ん?」


 顔を上げて見渡すのだが、付近には俺以外見当たらない。

 おかしいな。確かに、なにか聞こえたんだけど。


《おはようございます、水梨(みずなし) 賢人(けんと)様》


「うぉっ。やっぱり、幻聴じゃなかったか」


《はい、幻聴ではありません。私、水梨 賢人様のサポートを任された者です》


「サ、サポート?」


 この声の主の女性は誰なのだろうか。

 サポートとか意味がわからない事を言っているが、さっきから怒涛の展開で思考が追いつけない。


 目を白黒させていると、再び脳内で彼女の声が駆け抜ける。


《簡単に状況を説明しましょう。水梨 賢人様は、現在異世界にいます》


「い、異世界? 異世界って、あの魔法とかがある?」


《はい。その、美人や美少女がいる異世界です》


「いや、なんだよそれは」


 今の状況と、異世界の顔面偏差値は関係ないだろうが。

 思わず呆れた表情を浮かべた俺に、彼女は不思議そうな声を掛ける。


《年頃の男性は美しい女性に目がないと聞いたのですが》


「みんながみんなそうじゃない……って。今、その情報はいらないだろ!」


《そうですか。

 では、次の説明に移ります。水梨 賢人様が異世界にいる理由は、神様に選ばれたからです》


「はぁ?」


《そして、私はその神様に創られた〈水梨賢人サポートAI──お約束事管理プログラム〉と申します。

 名前が長いので、どうぞ“ティナ”とでもお呼びください》


 ちょっと待て。

 なんだ、そのお約束事管理プログラムというのは。

 その名称から、嫌な予感をひしひしと感じてしまうのだが。


「というか、神とか選ばれたとかって?」


《その辺はこちらの事情ですので、深く気にしても仕方ありません。

 とりあえず、水梨賢人様は異世界転移させられた。その事だけを理解していただければ、と》


「いやいやいや! そんなんで納得できるわけないじゃん!

 こっちにはこっちの事情もあるし、なにより早く学校に行かなきゃ遅刻しちゃうから」


《それでしたら心配ご無用です。

 地球への哀愁や、現在冷静な理由等々。

 その他諸々のアフターケアはバッチリですから》


 無駄に威張った声色で、そう告げた女性──ティナ。

 そんな事を言われても……と、確かにホームシック的な感情を抱いていないな。

 つまり、今の俺は外堀を埋められ、この神様達に従わなければいけないのか?


「……はぁ」


《ご理解いただけたようなので、早速チュートリアルを始めたいと思います》


「そっち方面のアフターケアもできてるのね」


 もう、なにも言えん。

 俺の思考や感情まで弄られているんだし、ここで喚くだけ喚いても無駄だろう。

 さっさと、現状を把握した方が健全だ。

 そもそも、そういうヒステリーな思いは、抱けなくなっているし。


《では、説明します。

 現在、水梨 賢人様には二つのスキルが付与されています》


「スキル? なんだかゲームっぽい単語が出てきたな」


《まあ、そのような物と捉えていただいて構いません。

 それで、話の続きですが。二つのスキルの内、アクティブスキルの方の使用法を教えます》


「んー、話の流れからすると。

 常時発動のパッシブスキルと、任意発動のアクティブスキルの一つずつがあるんだな?」


 ゲームとかではお馴染みだから、この辺に関しては理解が早い。

 それに、たまに読むネット小説でも、こうしたスキル等は出てくるしな。


《その通りです。

 パッシブスキルの方が、〈運命は逃がさない(テンプレメーカー)〉。

 そして、〈便利な異次元収納空間(アイテムボックス)〉がアクティブスキルです》


 ほうほう。

 アクティブスキルの方は、名前的に凄く良さそうなスキルだ。

 恐らく、無限にアイテムを収納できるとか、中では時間が止まっているとか、その辺だろう。


 ……で、もう一つがなんだって?

 俺の耳がおかしくなったのかな。いやーな響きの名前だったんだけど。


《〈運命は逃がさない(テンプレメーカー)〉です》


「聞き間違いじゃなかった!」


《効果をお聞きになりますか?》


 頭を抱えていた俺は、ため息をつきながら頷く。


「……ああ」


 どうせ、ろくな効果じゃないんだろうなぁ。

 聞きたくない。全くもって聞きたくないが、聞かないわけにはいかないだろう。


 げんなりする俺をよそに、ティナは滔々とスキル効果を説明していく。


《一言で表しますと、様々な出来事に襲われる感じですね》


「でしょうね」


 テンプレと言うぐらいだから、きっと厄介事の方なのだろう。

 盗賊に襲われるとか、貴族さんに絡まれるとか。

 あるいは、王道的に姫様とのストーリーが始まるとか。


《その辺はそのうち実感するでしょう。

 という事ですので、次のアクティブスキルの説明に移ってもよろしいでしょうか?》


「お願いするわ」


 話を聞くだけで疲れた。

 しかし、いま考えを投げだすわけにはいかない。

 思考放棄した先に待っているのは、異世界で野垂れ死ぬ未来なのだから。


 というか、森の中で話をしていて大丈夫なのだろうか。

 野生動物や、異世界らしく魔物等に襲われる可能性があるのだが。


 そんな事を考えていた矢先、物音が耳に入ってくるのだった。


 ……あれ、これってフラグ?





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