大魔法使い転生する
神話の時代。
魔王を裂き、神をも切り伏せる剣を打った男がいた。
その男、名をミストという。
「神だの、魔王だの力をひけらかした癖に、人の時代が来るのがそんなに怖いのか?」
荒れ狂う風にかき消されないミストの声が、荒野に布陣する天使と魔物の軍勢に向けられる。
天使と魔物を合わせてその数は十万、さらに両軍のトップである神と魔王までそこにいた。
そんな神と魔王の大連合軍とミストが対峙することになった理由は単純だった。
ミストは神族と魔物を殺す魔剣を作りすぎたのだ。
「やり過ぎたのだ。ミスト! 貴様は!」
神の軍団長の一人、六枚羽根の天使がそう叫ぶ。
その通り、ミストはやり過ぎた。
その結果が、ミストの背後に広がる荒野に突き刺さっている十万本の魔剣だ。
その一本一本が神殺し、または魔王殺しを成し遂げられる力を持つ魔剣である。
ミストは魔剣を作り過ぎたせいで、神と魔王の時代を終わらせる力を生んでしまった。
そのせいで、魔王は滅ぼされることを恐れ、神は人間が反旗を翻したら抑えられないことを察した。
ミストという人間がいる限り、神も魔族も人によって滅ぼされる、そう思わせてしまった。
だからこそ、本来は手を組むはずの無い神と魔王が手を組んだ。
もちろん、一時の協力関係でしかなく、ミストを倒した後に魔剣を一本でも多く奪い去り、相手を滅する企みがあることを承知の上だろう。
それでも、手を組まないとならなくなるほど、ミストという人間は脅威だった。
なにせ、ミストは魔剣の作り手だけでなく、最強の剣士であり、魔法使いでもあったからだ。
「神だ。魔王だ。偉ぶって力を人間に与えて、いざ自分が滅ぼされそうになったら掌返して殺そうとしてくるその腐った性根! この俺が叩き直す!」
ミストが吼え、十万の魔剣が大地を割って宙に浮かぶ。
そして、宙に浮かんだ魔剣は、火、水、風、雷、土、光、闇、それぞれの属性に対応した輝きを放ち、矢のように神魔連合軍に降り注いだ。
この一撃で天界と魔界は分かたれ、残された世界を人間界と呼ぶことになった。
○
っていうのが、俺の前世の最後の記憶だ。
神と魔王の軍勢相手に全ての魔剣に俺の持つ全ての魔力を注ぎ込んだせいで、神と魔王が死に際に放った呪いを避けられなかった。
なにせ神と魔王が命を代償に放った強烈な呪いだ。
魔力が残っている時ならいざ知らず。使い切ったら防ぎようが無かった。
さすがに呪われたまま生きるのは面倒なので、呪われていない身体を手に入れるために転生の魔法を使った。
そうして、あの神話の時代って言われる時から二千年後、俺はミストの記憶と技術を持ちながら赤子として転生した。
でも、転生したのは良いものの、この世界に残されている歴史は俺の知っているモノと異なっていたんだ。
それに気付いたのは、礼拝堂で毎週末おこなわれる日曜学校の授業に参加した時だった。
文字と言葉を教えるために、シスターが言い聞かせてくれる古の物語の内容が、どうしても俺の知っている古の物語と違うのだ。
「神様は魔王を倒し、十万の聖剣で魔王軍が二度と人間界に攻め入られないように世界を断ち切ったのでした。でも、神様もその戦いで力を失い、天界へと帰りました。この世界は神様によって人間に託された世界です。神に感謝し、今日も生きていきましょう。神と聖剣のご加護があらんことを」
シスターは物語を締めると、祈りの言葉を俺も含めた子供達に求めた。
その言葉に従い、俺の周りの子供達が手を組み、無邪気な声で祈りの言葉を捧げる。
「「神と聖剣のご加護があらんことを」」
俺は嘘だと指摘したい衝動を抑えて、他の子を真似して祈りの言葉を口にする。
なにせ神様は人間の敵になったんだ。信仰しても救われないのは分かっている。
そんな本当の歴史を知っているのに、わざわざそんなことをする理由は、この礼拝堂でご神体のように飾られた剣にあった。
「ねぇ、シスター、その聖剣を俺も欲しいんだけど、どうやって手に入れるの?」
「神と聖剣を信じ、信仰から得られる力を教会に示せば、聖剣を与えて下さります。ちなみに、もうミスト君は候補に選ばれているから、悪いことをしなければ守護者として試練を受けられます。ミスト君に神と聖剣のご加護があらんことを」
ざっくり言えば、聖剣は強い者に与えられるらしい。
その選定方法は、まず各地区から毎年数人の守護者候補として、少年少女を集める。
そして、その集めた少年少女を聖剣教会の学院で育て、最も優秀な者達を聖剣の守護者として認定し、聖剣を与えているそうだ。
奪っても良いんだけど、さすがに犯罪者になるのは生んでくれた両親に申し訳ないし、強さを示すだけなら簡単だ。
なんたって俺は神と魔王を倒した魔法使いだからな。
魔物を適当に倒せば認めて貰えるだろう。
この時はそう思っていた。
でも、またもや俺は上手くやりすぎた。
この後、村が大騒ぎになる事件があって、俺は神の子扱いされてしまうことになるのだから。