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え?自殺したら勇者には成れないんですか?!  作者: としょいいん
第一章
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第9話 生まれた記憶

 死を司る神様から送り出された先は真っ暗な空間だった。


 最初は真っ白な空間に居たせいで目がおかしくなったのかと思った。

 ここは先ほどまで居た真っ白な空間とは違って何もしなくても自我が保つ事が出来るし、何故か温かいものに包まれて守られているような気がする。

 ここなら眠っても自我が自然消滅するなんて事は無さそうだ。


 本当にここは何処なんだろう。

 もしかしたら送り先を間違えてしまったとか……ありえる。

 あの神様なら無いとは言い切れないぞ?

 早く次の世界へ行かないと、妹の身に何かあっても助ける事が出来ない。


 それにしてもヒマだ……。


 あれからどれくらいの時間が流れたのだろうか? 今のオレにそれを知る術は無い。






《どうじゃ、元気でやっておるかの?》


(ん?その声は……)


《そう言えば何も教えずに送り出してしまった事をついさっき思いついての。わざわざ来てやったのじゃ》


(でもオレには何も見えませんよ?)


《それはお主が受肉したからじゃろう。妾たちは精神のみの存在、それはエネルギーの塊みたいなものじゃ。

 今の見えない状態を簡単に説明するなら、そうじゃな……信号の周波数がズレてしまったとでも思っておけばよい》


(それなら声が聞こえるのは何故かなんて、聞いたらダメなんでしょうか?)


《視覚も聴覚も波長を捉えるための器官じゃが、お主のそれはどちらもまだ形にもなってはおらん。じゃからあの時と同じく念話によってお主の心へ直接語りかけているのじゃ理解したか? ならば、そろそろ行くとするかの》


(ちょ、ま、オレまだ何も聞いてないんですけど?)


《おお、そうじゃった、そうじゃった。お主は今母親の胎内におる。以上じゃ》


(な、なんでそんなに早く帰ろうとするんですか?!)


《転生したお主の状態が気になったので様子を見に来たのじゃ。それとあの時は急いで送り出してしまったからの。ほら、あれじゃ。異世界へ旅立つお主に”ちゅーとりある”を施すのを忘れておったというか、何というか……》


 他の神様たちに見捨てられたオレに手を差し伸べてくれた恩人……いやこの場合なら恩神様か。

 なのに何でだろう、今になってもの凄く後悔の念が押し寄せてくるのは。


《何故そんな可哀そうなモノでも見るような目をしてるのじゃ。決して忘れておったのではないぞ。お主の状態が落ち着くのを待ってからだな、だから地味に心を抉るその目をやめるのじゃーーー》


 こうして身体を持たない心だけの存在となったオレだが、この残念な神様から異世界の事などについて色々なと学ぶチャンスを得たのだった。




《じゃから今のお主のような状態でも魔力の感知は出来るし、それを体に巡らせたりする事も出来るじゃろ? ここに居る間はヒマなはずじゃからこれを毎日続けるのじゃ。いい子にしてたら産まれた時に妾からプレゼントをやるからの》


 とにかく何でもいいから打ち込めるものが欲しかったオレは、神様に教えて貰った魔力の訓練を喜々として繰り返す日々を過ごした。


《そうそう、まだ身体の外側に魔力を漏らしてはダメじゃぞ、メンドウなヤツラが嗅ぎつけたら困った事になるからの》


(困った事とは?)


《この世界では性格がすこぶる悪い”聖なる女神”たちが居っての、何故かは知らんがこの世界では多くの国々で信仰されておるのじゃ》


 それはきっとチンチクリンじゃなくて、スラリとした美女神様なんだろうな。


《誰がチンチクリンじゃこの戯けめ、しっかりと聞こえておるわ! まぁ良い、これは重要な事じゃからな。それでその”女神”たちを信仰する教会では暗黒属性の魔法を酷く嫌っておって、邪な禁呪などと決めてつけて封殺しておるのじゃ》


 魔法には多くの属性が存在するが、それらを大きく区分するとほとんどのものが光、闇、火、水、風、土など六つの系統に分けられるが、実際には光と闇の敵性を持つ者はほとんど居ない。

 だから普通に魔法と言えば火から始まる四つの属性魔法を指す。

 これらの属性たちはお互いに相関関係となっていて闇属性だけを禁呪とするなら他の多くの魔法に影響が出るはずなんだけどな。

 だってそうだろ、光が存在するって事は必ず闇も存在しなければならないはずだ。


《それでお主の魔力には妾の加護が宿っておっての、それを教会が嗅ぎつけるとイロイロとメンドウ事に巻き込まれるじゃろうな》


 どうやら次の人生(?)でも平穏に生きる星の下に産まれる事は無いということか。それってあれですか、オレは産まれた瞬間からこの世界ではアウェー的な存在なんですね?


《決してそんな事は無いぞ。お主は家族と友人たちの愛情に育まれながら幼少時代を過ごすはずじゃ。じゃからそんな情けない顔をするでない。もしお主の身に何かあった時の為に妾の力を封じた守護石を其方の父となる者に託しておけば、将来お主の助けにあるであろう)


 こうして死神様と二度目の邂逅が終わると、オレはこれから毎日のように魔力を練り上げる訓練を続けて行った。

後に、この時の修行のおかげでオレは他の者たちより多くの魔力と術式を得るようになる。


 やがてこの世に二度目の生を受けたが、産まれたばかりでまだ目も見えない状態が続く。

 それでも近くに来た人物に宿る魔力の色や形を感じるようになると、その後も魔力の濃さやそれぞれが持つ固有の周波みたいなもまで判別が出来るようになってきた。

 まだ視覚を得ていないにも関わらず父や母を知覚出来るようになり、そして魔力操作がイメージ通りに行えるようになる頃には目と耳が機能するようになった。






「こんにちはユーディス。私はソフィー、貴方のお姉さんでちゅよ~w」


「この子が生まれた時に実家から駆けつけてくれたのは本当に嬉しかったわソフィー。でも貴女そろそろ実家へ帰らないと姉さんがカンカンに怒ってやって来るわよ?」


「あっちの村では私より年下の子供が居なかったから、ヒルダが赤ちゃんを産んだって聞いたらもう居ても立ってもいられなくて気が付いたら旅に出ていたのよね~。でももうちょっとユ-ディスの顔を見ていたいから、まだここに居てもいいでしょ? カシュー義兄さん」


「いいに決まってるじゃないか、な、ヒルデガルド。ソフィーもこう言ってくれてるし。それに俺たちが手が離せない時はソフィーになら任せられるしさ?」


「そう言うと思ったわカシュオーン。全く貴方って人はソフィーに弱いんだから……」


 少しだけ周りが見えるようになるとオレは驚いた。

 何故って、それはオレの顔を見に来た人達がみんな人間とはほんの少しだけ違っていたからだった。

 肌の色は元居た世界と同じような肌色だけど、こちらの方がより白くて微かに薄紫っぽい色と言えばいいかな。

 それに耳の先が尖っててとてもお洒落な感じがする。


 そう言えば前世で人間に生まれ変わるのは嫌だと神様に言っておいたが、こんな美男美女ばかりの種族に転生させてくれるなんて、今度また神様に会ったらお礼を言わないといけないな。


 まだ身体が動かせない日々が続くが、脳内での魔力操作に慣れて次の目標を探しているとまた神様がやって来て魔法の術式を教えてくれるようになった。

 ――といっても黒魔術の基礎から始まって死霊魔術に関するものばかりだったんだけど、これって英雄っていうより敵キャラっぽくないかな><?


 だけどオレの身体が成長すと共に何故か元の意識が薄くなるというか、オレとは別の新しい自我ボクが育って来て、徐々にではあるがその二つが融合していくのが解る。

 でもその新しい自我ボクもやっぱりオレである事に間違いは無くて、その融合してゆく過程はとても安らかで気持ちの良い状態だった。


 こうして元の世界から来た古いオレは深い眠りに落ちて行ったのだった。


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