表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
え?自殺したら勇者には成れないんですか?!  作者: としょいいん
第一章
8/11

第8話 復讐の狼煙(2)

「お帰りアリシア。どこか痛むところは無いかい?」


「ゆうチャンタダイマダヨ、マダチョット心ノアタリガ痛イカナ。デモ大丈夫! アノ人タチヲぐちゃぐちゃニシテヤレバきっとスグニ直ルと思ウノ」


「でもその前にソフィーを治してやってくれ。まだ微かだが生きてるはずだ」


「オッケーモウヤッテルヨ、ウフフフフ。水精霊ガそふぃーオ姉チャンヲ治癒シテルカラ大丈夫ダッテ」


 まだ目を閉じたままのソフィーをジョシュアの横に寝かせる。

 精霊魔法による癒しは続いているがまだ安静が必要な状態なので起こしはしない。

 それにオレたちがこれからする事をソフィアには見て欲しく無かった。


「アレ?、オレ死ンダンジャナカッタカナ?ありしあトてぃあなモドウシテ生キテルンダ?」


「ジョシュア、お前はまだ夢を見ているんだ。次に目が覚めたらきっと元通りになっているから今はソフィーの隣で安心して休んでいてくれ、おやすみ」


「ソウカ、コレハ夢ダッタンダナ、ソレナラ早ク寝テ、モウ一度目覚メナイトイケナイナ」


 何故か突然起き出してびっくりしたが、ジョシュアにだけ記憶の混濁が認められる。

 このまま活動したらマズイと感じたオレは彼をスリープモードに切り替えた。

 後で原因を調べないといけないが今はまだその寸時が惜しい。

 ヤツラに殺された順番から考えると死後で一番”新鮮”な状態だったのはジョシュアだったはずなのに、もしかすると魂の復活には適性に個人差があるのかも知れない。



「おい! 増援が必要だと本隊に言ってきたのはここか?」

「おうよ! 何人か殺られちまったがまだ二十人くらいは生き残ってるぜ」


 ジョシュアを寝かせていると敵兵から安堵したような声が聞こえてきた。

 ティアナの魔の手から運よく逃れられる事が出来た伝令が五十人ほどの増援を連れて戻って来やがった。


「そやつらが反魂の禁呪を使った者たちなのだな?!」

「その魔法はもう失われたと聞いていましたがこれは面白い。是が非でも神都へ連れ帰る必要がありますな」


 もう必要な数の生贄は集め終わっていたので後は残ったヤツラの料理方法を思案していたのだが、今回はちと具材が多くなりそうな感じになってきたな。

 ティアナとアリシアの二人には地面に寝かせたままのジョシュアとソフィーを守るように頼んでから、オレは敵兵たちの真正面に立った。


「大人しく捕縛されれば殺しはしない。たったの三人で何が出来る?」


「そうかな、きっとイロイロ出来ると思うぞ。例えばお前たちを一人残らず皆殺しにするとかな?」


「ハッハッハ、たかがダークエルフのガキ如きが偉そうに何を言うか。こちらの人数を見て尚その口が利けるとは大したものだ。気に入った。お前だけは決して殺さずに必ず捕えて隷属紋をその首に彫ってやろう」


 その男の合図によって敵兵たちが隊列を整えると、最前列に居た者たちが盾を構えて何歩か前進する。


「オレたちが三人しか居ないって、本当にそう思うか?」


 弱かったオレたちが敵兵たちに追われるまま逃げて来たこの場所は村の墓地だ。

 死霊術師として覚醒したオレがこの場所に居る限り、あんな中途半端な規模の軍団に遅れを取るなんて事はありえないだろう。

 何故ならここにはヤツラの十倍ではきかないほどの味方が地面の下に眠っているからだ。


 ご先祖様たちには少し悪い気もするが、ここでオレたち子孫が皆殺しにされれば悔しくて眠ってなんかいられないだろう。

 だからオレは彼らにも活躍の場を用意する。


「暗黒属性浄化魔法ダークピュリフィケイション」


 最初にここら辺一帯の地面に暗黒属性を付与をして、味方戦力を作り出す為の下準備を行う。

 この魔法に包まれた範囲がオレの眷属を呼び出す力場のような役割を果たすのだ。


「おい、何かヤバそうな呪文を唱え出したぞ! 詠唱を邪魔して中断させるんだ!!」


 敵兵の前衛部隊が一斉にオレに向かって駆け出すがもう遅い、準備なんて既に終わっているからな。


「我が血の系譜を辿りて死の国より舞い戻れ! サモンズソウル・エンデ・クリエイトアンデッドオブ・ノスフェラトゥ」


 するとここら一帯の地面からは数え切れないほど多くのスケルトンやゾンビたちが這い出すや否や敵兵に襲い掛かって行った。

 眷属たちの手には古びた剣や弓など生前から得意としていた獲物が鈍い光を放っておりそれが過去の歴戦の勇士であった証明だ。

 中には両手に魔力光を宿した一目でメイジと判る者たちも多く混じっていて想像以上の戦力となっていた。


 その数およそ数百体!


 まだまだオレの魔力には余裕があるが、もうこの辺りにはそれ以上の素材となるべきモノが無さそうだ。

 だが七十人ほどのザコを縊り殺すには十分すぎる戦力だろう。


「た、たかがアンデッド如き、我ら栄えあるエルダール聖堂騎士の敵では無いわ!」


 オレ特製のアンデッド様たちは素材にダークエルフたちの遺骨を惜しみなく使用した高品質な個体揃いだ。

 だからそこら辺の迷宮に沸いて出るザコなんかと一緒にして貰っては困るんだよな。

 オレたちダークエルフは人族と比べて基本ステータスが高いから、ただのアンデッドだと侮っていたらオレが楽しむ前に終わってしまうぞ?


 最初のうち声だけは威勢が良かった敵兵たちだったが、さすがに自軍の十倍以上もの敵を見て身体が竦んでしまい動けなくなったようだ。

 それでも後から来た聖堂騎士隊長の叱咤激励によって何とか戦おうとしているのは褒めてやってもいいんじゃないかな。

 全員で三角錐を作って魚鱗形を構築しているのは、ご先祖様たちの包囲を食い破ってオレに突撃する為だろう。


(おいおい、オレは殺さずに捕まえるんじゃなかったのかよ?)




「ゆうチャン、乙女ノ胸ニ穴ヲ空ケタ罪ヲ償ワセタイノダケド、イイカシラ?」


 言葉使いこそ丁寧だがアリシアの周りに浮かぶ氷の槍からは、思わず身を竦ませずには居られないほどの怒気というか重圧感が発っせられていて、彼女の問いに目だけで合図をするとまだ布陣が完了していない敵兵たちに向けてこれでもかと云う数のマジックミサイルが撃ち込まれた。


 魔法の氷で出来た槍に身体を貫かれて敵兵たちが倒れてもアリシアの怒りは収まらない。

 敵兵たちが身に着けている鎧ごと穴だらけにされた死体が量産されれば死体はすぐに屍となり果て、その屍は最後に挽肉状となって血煙を撒き散らしながら周囲に四散する。

 それをただ見ている事しか出来ない敵兵たちの顔は、まだ生かしてやっているというのに完全に血の気が引いてしまい死人のような顔になっている。


 先ほどのティアナもそうだが、アリシアも復活してから性格が変わったんじゃないかと思える程の変貌を遂げていた。

 言葉使いこそ変わっていないものの以前にはあった気弱さは微塵も感じられなくなったし、ティアナに至ってはどこかの残念侍みたいにヘンテコな言葉まで使うようになった。


 きっと死という大きな体験をした事によって、それまで深層意識に閉じ込められていたものが表の性格と混ざって出て来てしまったのだろうか。

 絶対に何か別のモノが混じっていたとか、そんなんじゃ無いよな? 誰かそうだと言ってくれ……。


「どうだお前たち、一方的に殺される者の気持ちが少しでも判ったか?」


「お願いです!命だけは助けて下さい。家には妻と産まれたばかりの子供が居るのです」

「ハイ、オレも誓います!神でも悪魔にでも!」

「貴様ら!聖堂騎士としての誇りは無いのか!!」


「殺される側の気持ちが理解出来たのなら今度は死ぬ体験もさせてやろう。そして死んだらゾンビにして魂が無くなるまで扱き使ってやるから覚悟しておくんだぞ」


 オレがそう言い終わらないうちにご先祖様たちが一斉にその包囲網を縮める。

 何も指示をしなくてもそれぞれの個体が自分で判断して周囲の状況に合わせて連携を取ってくれるから有難い。

 一カ所に集まり固まったままの敵兵たちが必死の形相で大きな盾を構えて、お互いを守り合うようにして支え合っている姿はどこか微笑ましいな。


「死にたくない、オレはまだ死にたくない!」

「私は何も間違っていない、神よどうか我らをお助け下さい!」


「もう遊びの時間は終わりだ。だが安心しろ、お前たちは皆殺しにしてやるが誰も死なない。いいや”死ねない”と言った方が正確か? 未来永劫この世界が無くなろうとその魂は囚われたまま輪廻の環へ帰って行く事はオレが許さん!」


 こんな所でいつまでも時間を掛けている訳にはいかない、まだ村の人たちが生き残って戦っているかも知れないからな。

 父と母はまだ生きているだろうか? みんなの家族も無事だと良いが……。

 オレは目の前のゴミどもを屠殺してから村全体にアンデッドを召喚して、倒れた敵兵がゾンビとなるように呪いをかけてやった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ