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第2話 プロローグ(2)

 あれからどれくらい寝ていたのだろ? オレの意識が戻ったのは自宅のベッドの上だった。


 テーブルの上には美咲さんの書置きがあってオレが警察署で倒れてからの顛末が書かれていた。

 ある意味で必要十分な睡眠をある意味強制的に取ったおかげで頭は冴えており、これからすべき事について考えを巡らせてみる。


 先ず最初にすべき事は里奈の壊れた携帯のメモリーと彼女のPCに残っているメールやSNSの記録を確認する事だが、これらは既に証拠品として警察署に提出されていると美咲さんのメモには書かれていた。


 ベッドから起きたオレは里奈の部屋へと入り中を物色し始めた。今オレが探しているのは妹のメールやSNSのアカウントIDとそのパスワードが書かれている何か。

 几帳面な里奈の事だからきっとノートか何かにまとめてメモっているはずだ。


 そしてオレは一日がかりの探索作業の末にそれらを見つける。


 自室に戻り自分のPCを立ち上げて妹のアカウントでログインしたオレは、里奈のSNSリストからブロックされている相手を見つけ、そのアカウントを持つ相手のログを辿り始めた。


 驚いた事にその男は同じ街に住む里奈の元同級生でオレの後輩だった。そいつの名は福山聖寿。アカウント名はセイジュ……そのままかよ……。


 それから後はとてもカンタンだった。


 そいつのSNSを調べていくといくつもの写真がアップされており、オレはその中の一枚に里奈の手掛かりを見つける。

 最初は見逃してしまうほどの小さな手掛かりだったが、男の後ろに自室のテーブルが写っていてその上にスマホが置いてあったのだが、何故かピンク・ゴールドの色をしていて男が持つには不似合いだなと思った。

 それに里奈のスマホと同じ色だとすぐに気づいて日付を確認すると里奈が行方不明となった日と同日だった。


 それから同じ日付の写真を全てダウンロードして原寸表示をしてみるとその中の一枚に決定的なものが写っているのを見つけた。


 テーブルの下で影になっていたせいでWEBページのサムネイル画像では判らなかったのだが、その暗がりの中に女の脚が少しだけ写っているのが確認出来た。

 白地にピンクのラインが入ったソックスはあの日の朝に里奈が身に着けていたものと同じだった。


 もしこの事実を警察に知らせたらどうなるだろう?


 日本の警察だからきっと証拠を集めて逮捕はしてくれるだろう。


 でもその後は……?


 裁判であの男を死刑にしてくれるなら、それが一番良いとは思う。


 しかし未成年の容疑者に対して死刑判決なんて期待出来るのだろうか? それでなくても昨今のニュースでは一人殺したくらいではなかなか死刑判決とはならないのが現実だし、ましてや人権派弁護士なんてシロモノがしゃしゃり出て来て、殺人犯の人権とか更生の可能性がどうたら言って死刑を回避したがる。


 それに未成年で無期懲役になったとしても早ければ十年から十五年ほどで釈放されてしまうだろう。

 そして、その後の行方については被害者の遺族には秘匿されるのが通例で、そうなればオレはあの男を探す手立てを失ってしまうだろう。


 本当にあの男をこのまま警察を始めとする司法の手に委ねても良いのだろうか?


 きっと十数年後には二人目、三人目の里奈を生み出すであろうあの犯罪者を。


 再び野に放つと判っている司法判断の場へ任せても本当に良いのだろうか?


 オレの苦悩は終わらない……が、ある時オレの頭に天啓のような言葉が思い浮かぶ。


 目には目を、そして歯には歯を。


 ならばそれが命だったらどうだろうか。


 奪われた命なら奪い返せば良いのか? でもそんな事をしても里奈の命が戻らない事くらいはオレも理解している。


 普通のなら殺人の代償が自分の命だという事で多くの人はその行為を心理的に忌避しているが、それは相手を殺した後にも自分の人生や家族の立場を考える必要があるからだと思う。

 だがオレのように最後の家族を無残に奪われてしまい、その後の人生をキッパリと諦める事が出来る場合ならどうだろうか。

 それでも美咲さんのように恩のある親戚は居る訳だから、あの人たちに迷惑を掛けてしまうのはオレの本意では無い。


 だからオレは最後の家族を失い人生の全てに絶望した人間として、自殺をほのめかすような遺書を書き残してから自宅を離れる事にした。

 遺書だから自殺をするのは確定事項なのだが、まだ書き手であるオレの心の中に迷いがあってすぐには生命を絶たないだろうと思えるギリギリの文章を作るのははなかなか難しかった。


 復讐に残された時間はそれほど多くは無い。


 警察が容疑者を特定する前にあの男をオレの手で確実に縊り殺し、その後で迅速に死体を処理する必要がある。


 オレが世間から姿を消すのはその後だ。


 ただの高校生でしかないオレが誰の協力も無く捜査の手から逃れ続ける事は出来ないだろう。


 でも警察があの男を容疑者として特定してから行方が分からない事に気づき、行方不明者として捜査が開始されるまでの間は捜査の初動の遅れもあって少しは時間を稼げるはずだ。


 いずれオレの家のインターネット接続ログをプロバーダーから取り寄せてあの男のSNSにアクセスした事を知られるだろうが、逆に言えばそれまでの間はオレが新たな事件の容疑者として警察の捜査線上に浮かび上がる事は無いという事でもある。

 それに万一オレが容疑者として特定されたとしても、オレの身柄さえ押えられなければ容疑者行方不明のまま確実な証拠も無しに犯行を立証するのは難いだろう。


 そこまでやりきれば後はオレの遺体が発見されない場所まで逃げ延びて、人知れず自分の生命を絶てば全てを終わらせる事が出来る。


 それに微粒子レベルの確率だが、もしかするとあの男がただの行方不明者として処理される可能性もある。

 この計画で一番時間が掛かり難しいと思うのはやはり死体の処理だろう。

 だから殺した後で死体の処理に失敗して逃げる事になったとしても、あの男の死亡推定時刻より遥か前の日付でオレの遺書を残しておけば少しは捜査の目を誤魔化せるかも知れない。




 こうしてやるべき事を頭の中で整理したオレは計画を実行に移す。




 結果から言えば大成功だった。


 最後の死の間際に里奈を殺した事を白状させてから丁寧に切り刻んでやった。


 死に際に「命だけは助けてくれ!」なんて醜い命乞いまでしてきたが、それは里奈も言った言葉だと思うと更なる殺意しか湧いて来なかった。

 そして最後に骨ごと切り刻んで細切れミンチにしてやると汚物として公衆便所の便器から流してやった。


 あの男には相応しい最後だろう。


 こうして一連の作業を終えてから公衆便所内部の清掃まで済ませると、表に立てていた「清掃中」の看板を仕舞ってからその場を去る。

 清掃作業の時に真水で自分の身体もついでに洗ったが何故か冷たいとは感じなかった。

 人気の無い郊外の公園だからそこで焚き木をしていても通報されない事は事前に調べてある。

 ここで血の付いた作業着を燃やしてから足早に公園の外へ出ると、目撃者が居ないか目だけを動かして周りの状況を確認する。


 その時に見えた周りの景色から色が完全に失われていた事にオレは気づかなかった。


 人生最後の仕上げはあの有名な樹海が良いだろう。


 そこで大量の睡眠薬と一緒に農業用の薬品を飲めばこの煩わしいだけの世の中とさよなら出来る。

 解体作業をして血だらけになった服は燃えカスになったし身体もキレイに洗ったから、オレの遺体からあの男のDNAが検出される可能性は限りなく低い。

 以前なら人を殺すなんて考えられなかったけど、今はもう何も感じないなんて心のどこかが壊れてしまったのかな……もうどうでもいいけど。


 そしてオレの人生に最後の時が訪れた。


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