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え?自殺したら勇者には成れないんですか?!  作者: としょいいん
第一章
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第10話 ある将軍の手記

 エルダール教国軍はその日、ダークエルフたちが隠れ住んでいる森の奥にある集落を取り囲んで火を放ち住民たちへの攻撃を始めていた。

 教会からは悪魔とも魔族とも云われているダークエルフたちの抵抗によって多少の犠牲者を出してしまったが、戦闘開始から半日を過ぎたあたりから一方的な虐殺へと変わりつつある。


 この集落には凡そ三百人ほどのダークエルフが居ると事前に報告を受けており、聖堂騎士団百名を含む総勢約千人の部隊が派兵されていた。

 いくら強力なダークエルフとはいえ、その中には子供なども含まれているから実際の戦力比は五倍以上となるだろう。


 魔族の殲滅は教国が自国の使命として日々行われているが、今回の派兵については総司令官であるシュナイダー将軍に密命が齎されていた。


『あの地に大いなる禍が生まれた。小さき芽のうちに必ず摘み取るのだ!』


 本当にこんな小さな村が将来我が国を脅かす程の脅威となりえるのか? いつもなら敵国を壊滅させれば女や子供などの非戦闘員は捕えて奴隷にするのが通例だ。

 そして戦場と常として略奪などの行為も行われるが、軍として一定範囲までの行いは兵たちのガス抜きとして黙認されている。


 目に見える範囲の敵を粗方退けたのを見計らって主力部隊を集落の中へと進攻する指示を出す。

 驚いた事に村の中にはまだ予備兵力があって物陰からこちらを攻撃して来る者たちが残って居たようだった。


「騎士団は下馬せよ、この狭い村の中で戦うのに馬上は不利だ」


 劣勢なダークエルフたちが建物の影にまぎれてゲリラ戦を仕掛けて来る。

 彼らは個々の戦闘力が高く聖堂騎士たちが相手をしなければ無用の犠牲を強いられてしまうが、こちらには圧倒的な数の有利があり制圧するのにさほどの時間は掛からないと考えていた。






 最初の異変は斥候に出していた小隊からダークエルフの子供たちを発見したと報告を受けた時だった。

 我が軍の主力が集落の南側から内部へと侵攻し敵の第二波攻撃を退けてた頃にその者は伝令としてやって来た。


 網の目のように張り巡らせた我が軍の隙間をついて逃亡を成功させようとしていた者たちが居たらしく、このまま森の奥へと逃がしてしまえば追跡が困難になる上に今回は秘密とされている作戦が他国へ漏れるのは面白くない。


 その伝令により後の掃討作戦の為に待機をさせていた聖堂騎士五十名を向かわせて後の憂いを絶っておくようにと命じておいた。

 それからも時折あの憎きダークエルフどもによる規模こそ小さいが手痛い反撃を受ける事もあり、目の前の戦況に集中していたと言う事もあり、あの伝令と共に追撃に出た部隊の事など忘れてしまっていた。


 その状況の中で更に次の異変が起こる。


 それが目に見える形となって現れたのは作戦終了の伝令たちを各所にて展開中の部隊へと一斉に送り出した時であった。

 まだ太陽が中天を少し過ぎた頃にも関わらず、集落を包む一帯が黒い影で覆われ始めていたのを覚えている。


 何処からともなく現れた黒い霧は我が軍を集落ごと押し包み、精鋭揃いの聖堂騎士達に混乱は無かったものの、それ以外の兵卒たちが怯えて小さな騒ぎとなる。


「静まれ! 静まらぬか! このバカものどもが!!」


 各部隊で隊長クラスの者たちが兵士らを鎮静化させようとしているが、経験した事の無い現象を目の当たりにした馬たちが一向に落ち着かず、また信仰心の厚い兵士ほどこの霧を恐れてしまい部隊を通常の状態へ戻すにはまだ少し時間が掛かりそうだった。


 そして最後の異変。


 そう、あの邪悪な黒い霧が晴れない中で漸く各部隊の混乱が静まろうとしていた時だった。

 昼間なのに薄暗く遠くが見渡せない集落の至る所からそいつらはやって来た――いや、現れたと云うべきか?


 すると自軍のあちこちから悲鳴や怒号、そして金属が打ち合わされる音が響く。

 兵士たちはそれまで自分の隣や後ろには自身の戦友達が並んでいると思っていたが、其処には地の底から蘇った異形の者どもが立っていた。

 黒い霧によって前後左右の連絡を絶たれたまま小隊毎に声を張り上げ必死の応戦を試みる兵士らをアンデッドの一軍が押し包んでゆく。


「この村は呪われているぞ!」

「やはりダークエルフは司教様の言う通り邪悪な者たちだったのだ!」

「いったいどれくらいの数のアンデッドどもが居るんだ?!」


 集落の中央にある広場に主力部隊を配置しているため、集落にある家や樹木が死角となり敵の数を特定する事が出来ない。

 村の住民であるダークエルフ達を包囲し殲滅が終わり密集隊形となっていた事で、今度は自軍が魔物どもに再包囲される形となってしまった。

 しかし敵はただのアンデッド。

 女神様の祝福を受けている我が軍ならそれを打ち破る事など容易いはず――それが軍の将校たちの共通見解であったのだが……。


「おいみんな、このアンデッドどもかなり強いぞ!!」

「神官!神官はどこだ?!早く浄化魔法で消し去ってくれ!!」


 敵のアンデッドどもと既に混戦状態となっていた我が軍の前衛部隊たちであったが、予想以上に敵が強く伝令からは次々と部隊・小隊の損害報告が齎される。

 その中には神官戦士による浄化魔法も効果が認められず、徐々に敵のアンデッドどもが味方の兵士達をすり潰して行くのが容易に想像された。


「各隊は散開し敵の援護魔法を警戒せよ! 結界魔法展開 !これより全軍を挙げての反撃を開始する! 女神様の守護がある限り我が軍に敗北は無い!」


 味方の士気を鼓舞して各隊同士を一定の距離毎に編成し直す。

 日頃の練兵の成果もあり短い時間で反撃が可能な体勢を整える事が出来たが、それこそが敵の真の狙いであったなどと誰が信じる事が出来ようか? だが本当の悲劇はそこから始まったのだ。


 混戦状態の密集隊形から一定間隔毎に並び直した各隊がそれぞれの役割を果たすべく進撃を開始しようとしていたその時、敵の範囲魔法を警戒して散開していた場所からは新たな敵が味方の兵士たちを背後から襲い出したのだ。


 新たな敵――それはアンデッドによって生命を奪われた味方の兵士達であった。


 まだ死して間が無い死体が黄泉の縁から蘇り、まだ生きているかつての戦友達に掴みかかって噛みつき、また手に持っていた武器で襲い掛かる。

 さすがの我が軍もこの攻撃には肝を潰して大混乱となった。


 夥しい数のゾンビとスケルトンが我が軍を押しつぶして行く様子が兵士たちの上げる悲鳴によって聞こえてくる。

 もう再編が不可能な迄に混乱を極めた味方の兵士たちが次々と倒されて行く。

 そして倒された兵士が今度は敵となって甦ると次に更なる被害者を生み出して行く。


 もう誰の目から見ても味方の壊滅は秒読み状態で、逃げ出す者たちが続出するが戦列を離れて一人になった彼らを敵が見逃す事は無かった。

 今も抵抗を続けている者たちからすれば、もう誰が味方でどれが敵なのかも分からず、いつ後ろから刺されるかも知れない恐怖を抑えながら、それまで戦友であった者に剣を突き立てなければならない狂気と戦っている。

 しかし一度傾いた運命の針を止める事は出来ず味方の兵士たちは見るみるうちに食い潰されて行った。


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