プロローグ
「お気の毒ですが、世界は滅亡してしまいました」
そう言って、目の前の綺麗な女の人はにっこりと笑った。
「…………」
それに対して、俺はただ唖然とすることしかできない。
まさに、開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
だって、急に目の前に現れて、「世界が滅亡した」なんて……。
新手の変質者だろうか?
確かに今日の朝母さんが
「最近暖かくなってきて、変な人が増えてるんだから気を付けなさいよ」
とか言ってたな。
けど、俺だってもう中二なったし、
そんな奴とは滅多に会わないと思って適当に返事してたけど。
綺麗な人だからといって、惑わされちゃいけない。
変なことを言って、相手を混乱させて、手に隠し持った刃物でいきなり刺してくるかもしれない。
大丈夫、伊達に陸上やってるだけあって足には自信があるんだ。
とにかくここは走って逃げるしか……。
そう思った瞬間、俺は女の人に腕を掴まれた。
「うわっ」
「ですので、私と一緒に新たな世界を作って下さいませんか?」
そう言ってまた、女の人は綺麗な笑顔で笑った。
「……は」
いや……いやいやいや、何言ってんだこの人。
どうやら本当にただ頭がおかしいだけらしい。
世界を作るとか、お前は神様かよ!
…………というかもしや、宗教の勧誘だったりするのか?
てことは、さっきの発言からしてこいつが教祖?
最近の宗教は教祖が直々に勧誘してくるのか……。恐ろしいな。
とにかくそういうことなら断らなくては。
「あの……、本当そういうの良いんで!神とか信じてないし!」
そう言って俺は女の人の手を振り払い走り出した。
その人が、何かを言った気がしたけど、俺は気にせず走り続けた。
「……あーあ、逃げられちゃった。
まぁ、でも、私から逃げることはできないと思うけどね。
…………うーん、にしても、女神を前に『神なんか信じてない』だなんて。
………心外だなあ。」