099★和也の衣装が物語るモノ4 暗躍する者達
和也が、オアシスに降りた、その頃。
サンクト・クロージア教の教皇のもとへ、ラ・アルカディアンの皇子が出現したとの報告が入っていた。
和也が、降り立った大陸は、ガァーディアンズ・ガーデンと呼ばれている。
その大陸を東西南北とまるで、地域ごとに分けるために、存在するかのように巨大な山脈が貫いている。
古代帝国ラ・アルカディアンが存在していた頃は、長大で広大な大河存在していたし、広大な湖?内陸海?も存在していた。
が、今では、幾つモノ国々を流れる河なのに、川幅がかなり残念になってしまいました。
そのお陰で、水争いとなり、何度も何度も戦争が絶えないという状態になっていた。
広大な湖は、無理な取水が祟り、今では、全盛期の1000分の1もあるのか?という体たらく…………。
内陸海にいたっては、流れ込む河の水が勿体無いと、やっぱり激しい取水を繰り返し、ほぼ消滅状態になっていた。
その為、内陸海の周辺に雨が降る度に、地面から塩が浮き出し、毎年、耕作不能の農地が増大していくのである。
農民が頑張っても、作物は実らない………。
だから…飢えた農民達は次々と逃げて、難民と化していく。
難民は、都市に流れ、スラムを作り、都市の治安は悪化して、人々は争う合う。
そんな生活に疲れて果てた人々に…………。
死後の世界の幸福を甘く囁き、サンクト・クロージア教団は、信者を増やしていった。
教団は、独自の治癒魔法などを使い人々や王族、貴族の信頼を掴んで行った。
その結果の国教となり、既存の多神教徒を迫害し、追い払い、少ない耕作可能地を改めて再分配し、教団の地位を固めた…………。
教団は、環境破壊が進んだ場所で生まれ育ち、存在感を増していく。
だか、環境破壊された場所に未来が無いことを教団の上層部の人間達は知っていた。
その為に、教団も、また、ラ・アルカディアンの皇子を求めていた。
皇子を手に入れると同時に、精霊も手に入ると思っていたので…………。
が、残念なことに、教団には飛竜騎士はいない。
教団の支配者は、飛竜騎士が、王に本当の意味で、忠誠を誓っていないことを知っていたから……。
最初から、飛竜騎士を手に入れるという選択肢を捨てていたのだ。
教団の命令に従わない獅子身中の虫(飛竜騎士)を、かなりの費用と長い時間をかけて手に入れることを経費の無駄と弾いたのだ。
それでも、伝説のラ・アルカディアンの皇子を探すことを、教団としても推奨というより、捜索を禁止しないというポーズでごまかしていた。
内心では、なにがなんでも手に入れると、代々の教皇が誓っていたりする。
が、表だって捜索しないと言った手前、飛竜騎士を有している国の様子を見ているだけだった。
実は、飛竜騎士達や神殿の下働きの使用人に、洗脳した忠実な教団員を潜りこませていたのだ。
神官達の会話や飛竜騎士達の会話で、ラ・アルカディアンの皇子が見付かったことを知ったのだ。
神官や飛竜騎士達は、あまりの嬉しさに、そこここで和也の話しをしていたから、簡単に情報は手に入った。
神官や飛竜騎士達が、警戒していたのは、自国の国王や貴族だったから…………。
サンクト・クロージア教団を、気にも留めていなかったのだ。
和也が銀嶺で飛んでいたのは、教団の支配下に無い国々だったから………。
それでも、教団は、色々な場所に教団員を配置していた。
何時か、現れるラ・アルカディアンの皇子を捕まえるために…………。
このガーディアンズ・ガーデンのほぼ半分は、教団が国教となっていた。
残りが、昔しながらの多神教だったのだ。
和也の情報が、魔道具《通信鏡》で、皇子捜索の指揮をとっていた枢機卿に伝わると、すぐに、教皇に伝わった。
教団の本部である聖都サンクト・クロイツェンに、滞在していた枢機卿は全員召集が掛かった。
そして、教皇の間に集まり、御前会議となった。
最初に発言したのは、1番若い枢機卿のセラフィム卿だった。
皇子探索は、教団の情報収集のなかでは、そこまで高い順位では無かったので、代々1番若い枢機卿の仕事だった。
が、実際に、皇子が出現すると、その立場は逆転する。
情報収集で、1番重要な案件となり、その情報を握るセラフィム卿が、これからは、情報部門の最高責任者となるのだ。
これは、強制的に、世代交代が始まる序曲となる。
それを、充分に理解しているセラフィム卿は、晴れ晴れとした笑顔で、幼馴染みで親友でもある教皇アレクサンダー10世及に集まった枢機卿に、改めて報告する。
やっと……やっと……ラ・アルカディアンの皇子が出現した…………
皇子と交渉する為に、若く麗しく《魔力》のある教皇が必要だ…………
巫女姫の予言で、お前が傀儡の教皇になってはや3年…………
いや……たった…3年か……これで……枢機卿の…世代交代は進む
俺達と同年代の者達と……やっと…お前は…その能力を発揮できる
「猊下……夢渡りの巫女姫の…予言通りに…
彼の古代帝国の皇子が、現代に、出現いたしました」
心から嬉しいと顔に浮かべながら、セラフィム卿に告げられた教皇アレクサンダー10世は、その花の顔に、輝くような微笑を浮かべた。
本当に、彼の皇子が出現したのか…………
なんとしても、皇子を我が手にし…………
この荒廃した大地に、緑を取り戻す…………
その為なら、どんな汚い手を使うのも厭わない
皇子を言いなりにさせる為なら…………
媚薬もこの身も使おう…………
その為に、色々な少年を……したのだから……
その確たる確信があると判る報告に、感慨深げな言葉が、その高貴なる唇から零れ落ちた。
「そう……やっと…現れたか…」