096★和也の衣装が物語るモノ1
銀嶺は改めて、主である和也を見て、しみじみと思う。
はぁ~…しかし……地の精霊の仕事は見事だな………
私が、母から受け継いだ記憶から…………
ますたーの装束は…古代帝国ラ・アルカディアンの直系皇族……
王位継承権を持っている者の軍服だとわかる…………
そして、ますたーが、今、額に着けているサークレットは
たしか、継承権第二位の意匠…………イイのか?
あの古代帝国が、突然、歴史の表舞台から消え去って
一万年の時を超える時間が流れている
それでも、彼の帝国の残滓はあちらこちらに残っている
あの国は、突然の疫病によって、なす術も無く、あっけなく滅びた
一度に、七つの異なる疫病が流行ったら、対処しようがなくなる
確か、敵対していた国々の呪いとも言われていたなぁ~…………
それでも、皇族や貴族の一部は、他国に逃れて、その命を繋いだ
それ故に、ますたーの姿を、見たものは驚くだろうなぁ………
あぁ………なんという不思議かな……私の祖父は…………
くふふふ……彼の帝国の皇子と《契約》して騎竜となっていた
王位継承権を認めてもらい、皇子となる為には…………
飛竜や羽竜や翼竜との《契約》が必須だったから
そして、皇帝になるには……最低でも…………
四大精霊と守護の《契約》をしなければならない……
くすくす…………偉大なる皇帝は……
四大精霊の他に、光と闇の精霊と《契約》していたはず
ぅん? もしかして、ますたーは、皇帝の転生者なのだろうか?
まっ……どうでも…良いコトだ…私は…ますたーの飛竜だから………
これから起きる様々なトラブルの一部は、銀嶺が和也に、古代帝国のコトを話せば回避可能なものも多々あった…………
が、そんなことは人間ではなく、たんなる翼竜だから………。
なんの注意も忠告もしなかった、結果…雪だるま式に増えていったりする。
そして、精霊は面白いことが好きなので…………おしてしかるべし。
自分の着ている軍服やマントの模様?柄?、銀嶺という特殊な飛竜のお陰で、和也の前途は多難、波乱万丈は確実だった。
でも、今の和也は、銀嶺に乗って空を飛ぶことに盛り上がっていた。
だから、ちょっと生温い視線に気付かなかった。
その和也の周りを、地の精霊以外が飛び回っていたのは言うまでもない。
ちなみに、和也の予想とは違い、銀嶺は、翼を軽く羽ばたかせても、ほとんど羽音がしなかった。もちろん、風音も無い。
それを、和也は、飛竜固有の魔法?とか、精霊魔法?とは思わずに、ふくろうみたいな翼の構造なんだろうと思っていた。
知識が、感動することを阻害するという典型的な和也であった。
そんな和也の為に、風の精霊フウカ達が、あえて守護を緩めて、適度に爽やかな風を頬に感じられるようにしている。
もちろん、火の精霊エン達も、和也が寒くないように、吹き付ける風を温めて温度を調節していた。
そして、乾いた風になり過ぎないように、水の精霊ナミ達が、湿度調節をしていたのは確かなコトだった。
何もすることの無かった光の精霊ヒナと闇の精霊ツキは、和也の隣りに黙って座っていた。
一気に、高高度(こうこうど=8000メートル~10000メートル辺り、ようするにすごく高い)に飛び上がる銀嶺に、和也はあえて何も言わなかった。
というか、飛竜に乗って、空を飛んでいるという事実に和也は感動していたのだ。
うっわぁー……飛行機とは違う……重力を感じる
何より、身体に風を感じられるのが……たまらない……
でも、精霊達が、イイ仕事してくれてるのが、わかってしまいます
あきらかに、バイクよりスピードが出ているのに…………
ほとんど、風圧がありませんから………
これなら、余裕で周りや下を見ることができます…………
和也は、周りをふわふわと飛んでいる精霊達を確認してから、地上に目を向ける。
そこには、何処までも広がる砂漠と、点在するオアシスの緑が見えた。
ふぅ~ん……あちこちに……オアシスが、点在しているようですね
あれは、万里の長城ではなく、緋崎くん達が言っていた道路ですかぁ~?
馬車らしいものが行きかっているのが見えるなんて…………不思議です
道路の左が砂漠地帯で、右が草原地帯なんて…………変です
流石は、わけのわからないファンタジーRPGですね
雲ひとつ無い飛行日和です…………いや、それはマズイです
雲が無いということは、今は乾期というコトでしょうか?
後で聞いてみるしかないですね…………
ところで、どのくらい飛べば、あのオアシスなんでしょうか?
あの時、ボクはどれぐらい歩いたんでしょう?
延々と歩きましたからねぇ…………
和也は、疑問に思ったコトを銀嶺に質問した。
「銀嶺、あのオアシスまでは、あとどのくらい空を飛ぶんですか?」
「あと、2時間ほどです」
「銀嶺のスピードで……2時間…けっこう…遠いんですねぇ」
「そうですね……間に……2国ほど飛び越える必要がありますから………」
銀嶺のさらりとした言い方に、和也は苦笑していた。
そう、和也は距離を完全に間違えていたのだ。
例えるなら、福岡県の人間にとって、ソウルの方が東京より近いし………。
北海道の人間には東京より、ウラジオストクとかサハリンの方が近いし………。
石垣島の人間には、東京より台湾や中国の方が、よっぽど近いという事実。
ようするに、2国を飛ぶという行為を、そんな程度と思ってしまう。
現実的にもそれに近いが、2時間ちよっとで、1000㌔を超える移動速度を和也は、200㌔~300㌔と勘違いしていた。
それほどに広大な砂漠がある、自然環境が破壊されてきている…………。
終わりが近い黄昏の世界が、このゲーム?の世界だった。
その世界に暮らす人間達にとって、一万年前の古代ラ・アルカディアン帝国が有った時代は、大地に水と緑に溢れていた、麗しい時代と憧れを持って語られていたことを、和也は知らない。
なぁーんも知らない和也は、その高さからみる景色に、ただただ感動しているだけだった。
そう、自分が着た衣装のことなど、すっかりと忘れていたのだ。