064★浅黄君の異世界バイトは?2
浅黄は、ちょっと肩を竦め、ひとつ溜め息を吐いてから説明を続ける。
「ふぅー…でっかいウサギを前に、どうしようって悩んでいたら…………」
「いたら、どうかしたんですか?」
和也の合いの手に救われながら、浅黄は説明を続ける。
「うん………ちょっと細い声の……クゥーンって声が聞こえてきたんだ」
浅黄の説明に、和也が頷き、青木はわくわくした表情で聞く。
「なぁー……犬か? 緋崎の苦手な犬か? ……もしかして、子犬か?」
青木の問い掛けに、浅黄はちょっと肩を竦め、苦笑して説明を更に続ける。
「俺も犬かなぁーて思って…声の方に行ったら…犬じゃなくて…大きな銀色の狼? が、居てさ…………その足に…矢が刺さっていたから……食べ物を与えて、手当てしてあげれば、懐くと思ってさ…………」
その時の状況をうらやましく思いながら、和也は頷く。
イイですねぇ~…狼なんて……ボクの場合…動物ですらなかったから…………
「確かに、ファンタジーだったら、懐く可能性が高いですねぇー」
内心を綺麗に隠しての合いの手に、浅黄は嬉しそうに言う。
「黒ちゃんも、そう思うだろ……だから、俺はウサギを与えたんだ………いやぁー………あんだけの巨体だと……とにかく、重くて重くて…とぉーっても大変だったよぉ……いや、マジで……青ちゃんや紫ちゃんが、ココに居てくれたらって思った」
ボクもそういうこと思いましたね……意味は違いますけど……
神妙な顔で、和也はゆっくりと頷き、浅黄の話しに合いの手を入れる。
「確かに、青木君や紫島君がいたら、楽に運べたでしょうねぇ………」
和也が同意してくれたことが嬉しくて、浅黄はこくこくしながら続ける。
「うん…マジでそう思った………んで…とにかく、治療するにしても、矢が邪魔だったから……足に刺さっていた矢を取ってやったんだ……」
「傷口は、どの程度だったんですか?」
「かなり酷かったよぉ……傷口が酷くて…可哀想だったから……なんとか、治療しようと思って…………」
浅黄の説明に、緋崎が好奇心満載で聞く。
「なぁなぁ……ホイ○とか言ったのか? ……」
緑川は処置無しという雰囲気で言う。
「緋崎……君って…バカなのかい?……新しいゲームのゲームクリエイターなのだよ、俺達は……ドラク○の呪文を使ってイイはず無いないのだよ…………」
同じ感想を持った、青木と氷川と紫島は黙って、緑川にやり込められた緋崎をあわれみの視線で見るが、あえて何も言わなかった。
「…………」
問いかけと、微妙な沈黙を、浅黄は無視して、和也に説明する。
「だから…俺は…前に読んだ本のマネって感じで『癒しの女神よ…このものに…その御手の力を…我が手に……ヒール…』…って言ったんだぁー……ヒールは、OKだろうと思ってさぁー……」
浅黄のセリフに、和也はコクコクと頷く。
「わかります……ボクも…一瞬…ホイ○を使いたいって思いましたか……でも…それじゃ…つまんないって思って、やめたんですよねぇ………」
大好きな和也から共感を得られたことに喜び、浅黄はにこにこしながら、その時の状況を説明する。
「でしょ……そしたら…俺の手から光がぶわぁーって溢れて…狼? の傷が、見る間に綺麗に治ったんだ」
「ふぅ~ん……で、女神様にお礼は?」
和也の疑問に、浅黄はさらりと答える。
「足から抜いた、矢の部分を使って、ウサギの耳と尻尾を切っておいたから………ソレをお礼に奉げますって…やったんだ…」
「へぇー……そんなんで……イイんだ」
「昔の猟師がやっていたって、聞いたことがあったからさ…………」
「いいんじゃねぇーの……うまくいったんなら……」
「……浅黄君…続きを…」
「……あっああ……そしたらさぁー…その銀色の狼は……幻獣で…『我が命を救いし、あなたに、忠誠を誓います……名をお与え下さい……』って言われて…」
モフモフの動物が好きな和也は、心底うらやましいと思いながら、気の無い合いの手を入れてしまう。
「そうですかぁー……」
が、そんなこと気にしない浅黄は、えらいでしょ俺というような表情で、話しを続ける。
「うん………そんで、ファンタジーの定番の『名隠し』をもとに、幾つか名前を付けたんだぁ………とりあえず、乗り物と知識を手に入れたって感じかな?」
なるほどと頷いて、和也は気になったコトを聞く。
「そうですか…………で、その後は…出会ったのは? ……特に…人間は?」
「生きている人間には、会ってないよぉー…………」
「それって……お足の無い人ってことですか?」
「うん……銀狼に乗って…草原を渡って、道路に…出たらキャラバンがいたんだ」
「それが……幽霊? ……」
「……ああ…キャラバンだぁー…人間に会えたぁって……ほっとしたら…銀狼が唸るんだよ…」
「銀狼は、喋ったんですか?」
「……唸った後に…『あれは、生きていない…これ以上……近付くのは危険だし…主よ……私は…穢れに…近付くのは苦手だ』って…言われたから……赤い塩を…その辺にあった石を使って…細かくしてまいたんだ」
「お清めの塩ですか」
「そうしたら……キャラバンが…走っていなくなったんだ…」
「そうですか……逃げたんですね……」
「それで、俺のゲームは終わったんだ。だって……日が暮れたから…焚き火をして銀狼によりかかって眠ったら…ログアウトしたからさ」
そして、浅黄の話しは終わったのだった。