054★黒の剣
和也は、その手応えにゴクリっと喉を無意識に鳴らす。
へぇー……黒の剣…ってば…すっごい切れ味…………
こんなに大きな【すなわに】なのに、簡単に首を切り落とすコトができました
それに、切り落としたあと、ピクリとも動かない
これは、確実に命の焔が奪われていますね…………
さぁー………残りもサクサクいきましょうか…………
動かない【すなわに】を斬るのは簡単ですから…………
でも、ヴァルキューレの黒い槍で、命の焔を奪えないのはなんででしょう?
それでも【すなわに】を押さえ込めるんですから、精霊達よりも、ヴァルキューレ達の方が、チカラ? が、あるんでしょうねぇ?
まっ……今は、どうでもイイって……ポイッと投げておこう
…………にしても、こんなに【すなわに】が存在するってコトは…………
捕食される側のさんど・わーむも、たぁーっぷりと存在しているんでしょうねぇー…………きっと
小型のさんど・わーむは、条件とかチカラがある程度あれば、人間でも狩れるんでしょうけど…………
流石に、ここまで、大型に成長すると、人間の力では無理ですよねぇー
ボクだって、精霊達や翼竜のチカラ、冥府の女神様達の助力がない状態で、巨大さんど・わーむと戦うなんて…………ぜぇーったいに、イヤですから…………
緋崎くんや浅黄くん達は、どんな人達とパーティーを組んで、イベントをこなしているんでしょうか?
明日、部活で聞いてみましょう…………
などと現実逃避をしながらも、和也は的確に【すなわに】を斬っていく。
最後の【すなわに】を斬ると、和也は辺りを見回して確認する。
これで、最後のようですね……
さて、この黒の剣は、箱に入れて返品すればイイんでしょうか?
とりあえず、何か布で拭いておきましょう
居合いで真剣を扱う和也は、使い終えた刀を綺麗にする癖があった。
だから、着衣のポケット?を探って、ハンカチ?の色鮮やかな布を取り出して、黒の剣を丁寧に拭う。
あれ?……血も…油も…付着していない?
黒の剣に、空牙をまとわせていた?
そんなはずは無い…………
もしかして、黒の剣って神器だから、直接物体を斬らないってコトかな?
はぁー聞きたいコトがいっぱいです…………
和也が、黒の剣を布で拭いているのを見て、エンキが箱を持って寄って来た。
『ますたー黒の剣を仕舞うんですか?』
箱を差し出しながら問い掛けるエンキに、和也は頷く。
「ええ、もう……生きている【すなわに】は存在しませんから……ヴァリキューレ様達に返すべきでしょう」
和也の応えに、エンキは箱を開けて、差し出しながらうっとりとした表情で言う。
『人間の中にも、黒の剣を作る者が居ますけど……内在する力は……天と地ですね…もっとも…冥府の女神様の黒の剣を使えるのは…ますたーだけでしょうね』
「人間も黒の剣を作れるの?」
その箱の中に、和也は黒の剣をそっと納めた後にエンキに質問する。
『極まれに、黒の名を冠する、黒の剣や黒の槍を作る者がいます。確か、冥王神の神官だったと思ます…階級は……かなり…上…だったと……聞いています………』
和也の質問に答えると、エンキは、箱の蓋を閉める。
そこへ、何時の間にか、和也に黒の剣を手渡したヴァリキューレがやってきた。
「翼竜を宿す 少年よ
黒の剣を 受け取りに来た」
「ご助力感謝致します……【すなわに】が…動けなくなっていたので…斬りやすくて、たすかりました……この後……ボクで…命の焔を結晶化出来ますか?………」
和也は、黒の剣を納めた箱を、ヴァリキューレに手渡しながら質問する。
ソレに対して、箱を受け取ったヴァリキューレは、微笑みながら応える。
「いつものように 結晶化と言えば良い
貴方の霊力は 冥王神に仕える
どの神官や司祭よりも 遥かにある
そして 黒の剣を使い 【すなわに】を
軽々と斬る 戦士としての能力もある
我が母たる 冥府の女神が 加護や助力を
与える 唯一の存在なのだから
黒の剣を 必要とするならば いつでも
私が 貴方に 届けよう 望むが良い」
ヴァリキューレの破格の申し出に、和也は驚いた。
うっわぁー…これは、もう……あれですね………
和也は【すなわに】を倒したことにより、ヴァリキューレの信頼を得た
それによって、究極の武器……なんでも……殺せる黒の剣を手に入れた
チャラッララァー…………和也のレベルは、3上がった
新たに【すなわに】殺しの名前がついた
…………というところでしょうかねぇ?
ここは……名乗ったほうが……イイんでしょうか?
じゃなくて…………お礼を言いましょう
ひとつ深呼吸してから、和也はにっこり笑って言った。
「ありがとうございます…でも…黒の剣を使う必要がある事態に、そうそう遭遇するとは思いませんから……」
清清しい笑顔をみせる和也に、ヴァルキューレは薄く笑った。
お前ほどの霊力と戦士としての能力がある者を
我らが母上が、こき使わずにいると思うなぞ………甘すぎるわ…
今日だけで、怪魚とさんど・わーむと【すなわに】を倒し
その命の焔を奪い獲ったお前に…………
その辺にいる人間と同じ扱いをしてやるほど
運命を紡ぐ女神達は優しい存在じゃないんだぞ
何度も、若き神や古き神々や忘れ去られた神々などと
係わる人生を嬉々として、織り上げるに決まっておるわ
縦糸は、お前が係わる……神々や精霊などの聖なる存在
横糸は、お前が倒すべき邪なる存在
その間に入る色とりどりの糸は、人間や獣人などの弱き存在
というところだろう
お前の人生の織物=タペストリーは、どれほどの輝きを放つのか?
じっくりと、直ぐ側で、見させてもらおう
和也が聞いたら、かんべんして下さいというようなコトを考えながら、ヴァルキューレは慈愛を滲ませて微笑む。
そんなヴァルキューレに、和也はあえて何も聞かなかった。
藪を突いて蛇を出したくなかったのだろう。