033★やっと、ごはん?1
和也は、今、自分がするべきことを自分に確認し、内心で頷く。
女神様達へ、加護のお礼の言葉を言わないとなりませんね。
これが終わったら、銀嶺とお魚を食べましょう。
もう、お腹が、空いて、グーグーで…………。
思考がまとまりません。
そうだ、言葉だけじゃ足りないから、獲りすぎた怪魚を押し付けましょう。
銀嶺とボクが食べる分だけ確保しておけばイイんですから…………。
和也は、銀嶺に呼びかける。
銀嶺、キミが食べたい怪魚に印しを付けてくれる?
残りは、全部、加護を下さった女神様や八百万の神様に奉げるから。
和也のエネルギーを消費しないように、半分意識を眠らせている銀嶺は、その呼びかけに嬉しそうに応える。
はい、ますたー…………。
そして、その心情から、そそくさと意識をすべて覚醒させ、その翼を広げる。
次の瞬間、和也の中から、銀嶺の力の一部が外に飛び出した。
そして、3番めに大きな怪魚に、純白の羽根がサクッと突き刺さった。
ますたー……コレが1番美味しそうです……
それを見て、和也は感心した。
羽根で自分の印しをつけたのかぁ~…………
うん……おしゃれです
後は、チカが作ってくれたデーツのお酒を、3壺ほど奉げると言えばイイかな?
思考がまとまった和也は、胸に手を当て、跪いたまま言う。
『 ここに 加護によりて 倒せし怪魚が多数おります
ですが ボクと銀嶺には この量は必要ありません
すべからく 命の重さは等しいものです
かれらの命を奪ったのですから ただ1つの命も
無駄にしたくありません ですから
すべてを抱きとめ 安らぎを与える麗しき冥府の女神よ
数多の命を育む 輝くウロコを持ちし美しき水の女神よ
そして 世界のすべてを護りし八百万の神々よ
ここにほふりし怪魚と この地の精霊が作りし
デーツの酒の壷を3つほど奉げますゆえ
ぜひに おおさめください 』
和也の口上が終わると同時に、銀嶺の羽根の刺さった怪魚とデーツ酒壷が3個残っただけで、残りは跡形も無く消え去ったのだった。
その時に、多くの方々の笑いさざめきが微かに聞こえたのは確かな事実だった。
累々と転がる怪魚の群れと、鎮座する3つの酒壷が眼前から綺麗さっぱり消えた光景に、和也はホッと胸を撫で下ろす。
あ~良かった
おおさめしてくれたようですね
はぁ~……ボクも銀嶺も、これで、やっとごはんですね……
和也は、身の内に潜んだ銀嶺に問い掛ける。
銀嶺、銀嶺は、ボクの内から出れるの?
和也の問い掛けに、銀嶺は素直に答える。
出れます…………ただ…………
言いよどむ銀嶺に、和也は首を傾げる。
ただ? どうしたの?
言葉の続きを促され、銀嶺はシブシブっぽい感じで答える。
ますたーと 契約した時ほどの姿は 維持できません…………
あの魂魄にまで食い込み 我が身に侵食していた呪縛を
振り切るために ますたーと誓約の契約を結び
死と再生に 膨大な魔力を消費しましたので…………
和也は、銀嶺の説明に、なるほど頷く。
あの銀嶺の身体に巻きついていた墨のような模様って、魂魄にまで絡んでいたんですか?
そう言えば、女神様が神竜って言っていたような…………
もしかして、やっぱり、銀嶺って飛竜の中でも特別なモノなのかな?
じゃなくて、今はごはんのために、ボクの中から出れるか聞かないと
和也は、再度問い掛ける。
じゃあ、コンパクト………えぇーと小さい姿なら…………
ボクの中から実体で出現できるの?
銀嶺は和也の問いに、考えるように首を傾げてから答える。
…………たぶん……卵から孵ったばかりの……
子竜並み………よりも だいぶ小さい姿だとは思いますが
へぇ~……ちっちゃい翼竜姿の銀嶺かぁ…………
肩乗りぐらいになれるかな?
そう思いながら、和也は小さいを強調した銀嶺の為に、ハヤブサを肩に乗せたイメージを送って問い掛ける。
こんな感じになれるのかな?
和也からのイメージ投射を受けて銀嶺は、こっそりと溜め息を吐き出す。
ますたーは、私の力や能力を欲していない…………
だから、愛らしい姿の私の方を好むのか…………
嬉しいような……哀しいような…………
本当に、人間としての欲が限りなく薄いのですね
でも、ますたーの望む姿をとるのが、誓約の証…………
自分の中で、折り合いがついたらしく銀嶺は和也に話し掛ける。
ますたーでは、ハヤブサの大きさの私を思い浮かべて下さい
その思いにのって、ハヤブサの大きさで外にでます
うん……わかった……イメージするね
肩乗り翼竜かぁ~可愛いなぁ…………
この設定は、嬉しいなぁ……
ふふふ……ドラゴンって……良く財宝を護っているから…………
けっこう……ひかりもの……っていうか、宝石が好きだと思う
後で、銀嶺に似合う装飾品を、地の精霊達に作ってもらおう
一石二鳥になるしね…………
和也のイメージにのり、銀嶺はハヤブサほどの大きさで外に出現した。
真っ白な羽根に包まれた愛らしい翼竜の銀嶺に、和也はクラクラした。
うっ可愛い……相沢センパイやサクラちゃんが見たら、大騒ぎしそうです。
ボクと一緒で、RPGが好きな緑川くんも、盛り上がってしまいますね。
でも、銀嶺には言えないですね。
さてと、どのくらい怪魚を食べられるか聞いてみましょう。
内心とかなり乖離したことを、和也はシレッとした顔で言う。
「銀嶺、この怪魚をどのくらい食べられますか?」
『この大きさだったら、残さず全部食べられます』
「……えっ?……」
『もとの大きさがありましたので、充分食べ切れます。それに、再成長する為にも大量に食べなければなりませんので…………』
「ああ……そうだね……だったら、ボクが食べる分だけ、切り取るよ」
そう言うと和也は、怪魚の尻尾の付け根部分を、銀嶺の角から出来た剣でサクッと切り取った。
ソレを見た銀嶺は、和也に許可を求める。
『ますたー残りの部分を食べても宜しいですか?』
「うん、出来るだけ残さないで食べてね。命たから……」
『はい、ますたー』
銀嶺は、和也に返事をすると同時に、怪魚にかぶりついた。
そして、一瞬ですべてを食べ終えた。
チュルンッという擬音がつきそうな食べっぷりだった。
えぇ~とぉ~どうして?…あの大きな……怪魚を…
ハヤブサの大きさの銀嶺が…………。
ぜぇーんぶ…綺麗さっぱり…食べられるんだぁぁぁ……。
不条理過ぎる…………。
…………でも、ファンタジー設定のRPGだったら……。
有りなのかも…………。
ボクも食べよう。
でも、調理器具が無い……。
怪魚の刺身はちょっと…………。
色々と苦悩している和也の前に、天幕や調理器具など色々なモノを持った地の精霊達が現われた。
そして、和也に褒めてもらおうと口を開こうとする。
そこへ、エビやカニ、貝などを大量に携えた水の精霊が現われる。
和也の食事はまだ遠い…………。