030★精霊の常識と和也の常識の相違2
先刻の二の舞に陥った和也を不憫に思い、エンキは首を振りながら言う。
『ますたー……水の精霊の耳って……飾りだって有名です』
エンキの言葉に、和也は自分は何を聞いたのという気分で生返事をする。
「はぁ~…………」
疲れきっている和也に、エンキは言葉を更に重ねる。
『あれって、所詮ヒレですよ…音が聞こえる機能がついたヒレです………』
エンキの言葉に、和也は言葉に詰まってしまう。
「うっ…………」
和也の様子を確認しながら、水の精霊の特質を告げるために、エンキは説明する。
『確かに、水の精霊は、人間に狙われて使役されましたが…………』
エンキの隣りで黙って成り行きを見守っていたホノカが、合いの手を入れる。
『そうそう……命令の半分も聞き取れたら………そういう風に使役できる水の精霊ならば………最高級って言われるほどなのよねぇ………』
うぅ~ん……なんか、ボクがゲームで知っている、水の精霊とはかなり違うような気がしますねぇ…………。
まるで、ソリ犬のシベリアンハスキーって感じかな?
雪原を走るという意味では最高級でも、たっぷりの訓練が必要みたいな…………。
それとも、設定が面倒なソフトとかアプリって…………。
まぁ高級品で、ちゃんと使えるとすごぉーく便利なのは確かですね。
では、火の精霊は?
ちょっと、聞いてみよう。
和也は、ちょっと疑問に思ったコトを聞いてみた。
「だったら、エン達は、どんな風に人間に使役?されているんです?」
『我々、火の精霊を捕まえて使役しようとする者は、ほとんどいません』
「どうして?……火の精霊って……獣や悪霊?を寄せ付けないし、暖をとったり、料理をしたりって、色々と使えると思うけど?」
『ううん……違います……』
「どのへんが?」
『ますたーのように、生活に必要な存在としての火を、いえ、火の精霊を人間は欲していません』
えっとぉ~………じゃあ、何に使うの?
精霊って、生活を便利にするためじゃないの?
疑問に思いはしたが、それ以外の使役用途が想像できず、和也は黙って考えていた。
「…………」
和也の沈黙と、不審そうな表情から、自分達火の精霊がどういう風に使役されているかを知らないことに、エンキとホノカは頷きあう。
『ますたー………人間は、私たちを…戦争で相手の国を、いえ、兵士を焼き尽くす為に使うんです』
その衝撃的な内容に、和也はびっくりして、自分の知る火の精霊の役割を口にする。
「えっ?火の精霊って……浄化の炎でしょ?……その使い方だと真逆だと思うけどぉ~……怨霊を作りたいの?……」
嬉しい……ますたーの為なら、何でもする。
ますたーは、本当に、いにしえの精霊使いよりも、私たちを聖なる存在として扱ってくれる。
ますたーは、悪しきコトに、精霊を使わない。
自分の欲望で、俺たちを使役することは無い。
おれの炎は、黒く染まることは無い。
ますたーの命令を、絶対に果たしてみせる。
和也の言葉に、そういう風にだけ自分達を使ってくれるならという思いを感じながら、ホノカが端的に言う。
『戦争に勝ちたいだけです』
その端的な言葉に、和也は現在の情報を自分なりに整理してみた。
大地は焦土と化し、戦う能力のある国民達(男)は、ほぼ全滅。
せっかく、戦争に勝っても、なんの意味もない。
それって、無駄って言わない?
戦勝国が、戦後の日本に要求した莫大な賠償金みたいなモンなんて、それじゃぜんぜん取れないじゃない…………。
むりやり農作物を買うように仕向けて、ぼろもうけするとか。
食料という、鎖をつけて(逆らったら、食料を売らない。飢えろ)と脅かして言いなりにするとか…………。
なんていう、後々までの金儲けがまるっきりできないのに?
それじゃ、戦争費用の回収すら出来ない思うけど?
それに、そんなことしていたら、悪霊とか怨霊とか…………。
そんな存在が、やまのように増えたら…………。
悪夢を見まくりで眠れないとか…………。
農作物も実らないとか、キャラバンも邪魔されて来れないとか…………。
色々な不具合が出ると思うんだけどぉぉ。
うぅ~ん、ちょっとRPGの設定としては、重過ぎなんじゃ…………。
それにボクの好みじゃない。
どういう人が、基本を作ったのかな?
じゃなくて、いくらRPGでも、そんな戦い方するメリットってあるのかな?
いや、とりあえず、続きを聞いてみようかな?………。
思考が追いつかなくなった和也が、エンキに、再度、質問する。
「そんな勝ち方して、なんになるの? どう考えても、愚かの極みとしか思えないけど?」
和也の質問にエンキは、この世界の強欲な人間たちとの考え方の違いを実感する。
『勝ったら、相手の国の人間を奴隷にします。でも、全員を食べさせることは出来ない…………』
えっとぉ~………そういう設定なの?
「……えっ?……」
困惑する和也に、ホノカが続ける。
『それに、反乱の可能性がある……王族、将軍、戦士、兵士は…いらないんです』
えっとぉぉぉぉ…………いらなって?
どういうことぉ?
わかんないよぉ~……この根幹部分の設定……。
とにかく、ボクの常識にある言葉をふってみるか?
そうすれば、少しはこのRPGの設定がボクにも理解できるかも?
「占領地政策って……言葉も無いの?……」
和也の問い掛けに、ホノカが切って捨てるかのように言う。
『そんな言葉、知りません』
あぅぅぅぅ~…………カカぁぁぁ~…………わかんないよ、それぇぇぇ…………。
いや、もう一度、聞きなおしてみよう。
「…………戦争に負けた国の人間は……奴隷?」
和也の問いに、コクっと頷いてホノカが言う。
『そうです……そして……奴隷から生まれた者は、すべて奴隷です』
「一般市民や農民、貴族、王族も?」
『もとは、王族や貴族でも、奴隷として他国に売られます』
「もしかして、その国の王族や貴族を根絶やしにするため?」
『根絶やしにすれば、反乱はありません。それに、自国の貴族や市民、農民に褒美を与える為です』
あまりの設定に、和也は無意識のままボソッと言う。
「………愚劣だな」
自分が何を呟いたかも気付かないまま、和也は古代世界の戦争の歴史と、その結末などを思い出す。
でも、確かに、古代の戦争って、奴隷を作るっていうか、欲しいからだったよ。
うん………確かに………。
古代ローマとカルタゴの戦いは有名だし…………。
結局、カルタゴが、滅ぼされて終わった…………。
でも、カルタゴの大地に塩をまいて、雑草が生えるのがやっとという……。
不毛の大地にするコトはないと思ったっけ…………。
せっかく、作物が取れるような大地に何すんだって思ったよなぁ…………。
確か、奴隷になるのを嫌がって、死を選んだ者が多数だったから…………。
カルタゴの人間(民族)自体が存在しなくなり、滅んだんだよなぁー。
でも、カルタゴと日本って、何度も同一視されて、日本もいずれ滅びるって言われていたよなぁー…………。
いやいや、こんな不毛な会話は…………。
和也と火の精霊による真っ暗で重たい会話と雰囲気は、唐突に終了する。
原因は、水の精霊によるものだった。