027★精霊たちと契約9
内心はさておき、和也はにっこりとした微笑みを浮かべ、まず男性型のほうに声を掛ける。
「キミの真名の字は、炎鬼、呼び名は、エンキで……愛称はホウキ。ボクが呼ぶときは、エン。いざというときは、キミを呼ぶと思う。よろしくね」
たぶん、戦闘とかになったら、彼が1番重宝しそうですからねぇ…………。
今回の精霊さん達の中で、唯一の男性型ですし…………。
それに、火の精霊の男性型を見たら、盗賊とかの類いだったら、逃げてくれるかも知れませんしね。
なんといっても、ちょっと……いや、結構…怖い姿ですから…………。
いや、確かに美しさはありますよ………美丈夫ですし………。
まっ…好みは分かれるでしょうけど…………。
などという感想を持ったが、和也はおくびに出さずに、火の精霊の反応を見守る。
『おれは、エンキなのか……ますたーに、エンと呼ばれたときは、何時いかなるときも、おれはますたーの命に従う』
名付けられた名前をかみ締めるように、口にしたエンは、和也の前に跪きセイイッパイの嬉しさと、忠誠の言葉を言う。
うっ……そういう、忠誠心って重い………。
でも、どう考えてもイーフリートのエンを、1番使うと思うんだよね。
じゃなきゃ……カマイタチって感じの力を使える風の精霊?
水の精霊は……範囲を限定しての水カッターだから……面倒だし……。
…こんなことは、おいておいて最後の名付けをすませよう。
自分の名前が付けられることを、ワクワクしながらじっと待っている女性型の火の精霊に和也は視線を向ける。
「待たせたね……キミの真名の字は炎香、呼び名は、ホノカで……愛称は、エンカで、ボクがキミを呼ぶときの音は、カカちゃんでイイかな?」
無意識に、男性型と女性型で言葉遣いが少し違う和也であった。
が、契約を待っていた2人には、そんなこと気にする余裕など無かった。
『うれしいぃー…わたし…みっつも…名前があるの? でも、字って言ってたから……ますたーは……よっつも名前を付けてくれたの? うふふふふ……力が……増していくのか解かる。ますたーに仇なすモノは、すべて焼き尽くすね』
嬉しそうに、ものすごい内容を笑ってサラッと言うホノカに、内心は色々と突っ込みたい和也だった。
が、疲れていたので、口にするコトは無かった。
和也の座右の銘に、[口は災いの元]とか、[言わぬが花とか]が増えたのは、確かなことだった。
すべての精霊と契約を交わした。
和也のレベルは3に上がった。
特別なスキルとして、火と風の攻撃魔法が手に入った。
なお、風と火を合体させた一体魔法も使えるようになった。
しかし、MPもHPも低下しているので、使えない。
って、状態でしょうね…………今のボクの状態って…………。
RPGとしては…………たぶん、こんな感じかな?
ふっ……藤田主任が、嬉しそうに笑っていそうだなぁ~……。
こんなに疲れるバイトなら、見合うお給料が欲しいです。
はぁー……ほっとしたら……気が抜けました。
おかげで、お腹が空いてしょうがないです。
チカが帰って来たら、魚を獲って食べましょう。
気が抜けた和也の前に、ヒョイッとチバナが現れた。
『ますたー……ミスリル銀の銛…金の銛…銀の銛…鉄の銛…青銅の銛って持ってきましたぁ~』
色取り取りの5本の銛を持って、チバナが和也に話し掛ける。
それを見た和也の内心に浮かんだのは…………。
湖の神様とキコリの童話、金の斧、銀の斧、鉄の斧のお話しだったのは確かなコトだった。
あの童話だと、斧を3本も押し付けられていましたから…………。
慎重に言葉を選んで会話しましょう。
なんか重そうな銛が、けっこうありますしね…………。
所詮、精霊と人間の意思疎通は、微妙ってことですか…………。
とにかく、ボクに使えるモノを…………。
軽くて丈夫が1番です。
使えない装備品は、ゴミと一緒です。
ここは、ファンタジーの世界…………。
ドラ○エと違って、ボクの居るオアシスには、道具屋も武器屋も存在しない。
余分な装備を売って、お金にするコトも、新しい装備に買い替えするのも無理。
余分なモノを買い取ってくれるトルネ○みたいな行商人が居たら便利なのに。
内心では、色々なコトを考えていても、表情にも口にも出さずに、和也はチバナに話し掛ける。
「それじゃぁ………その中で、1番、軽いモノはどれかな?」
和也の問い掛けに、チバナはニコニコしながら答える。
『ミスリル銀の銛です…ついでに……丈夫で長持ちです…通常の生き物も魔物も倒せる優れものです』
和也の性格を見抜いたチバナは、和也が好んでくれそうな説明をつけ加えて答えた。
ふむ、では、ミスリル銀の銛だけもらいましょう。
とりあえず、1本あれば充分です。
「そうなんだぁ~ありがとう……それじゃ、ミスリルの銛をくれるかな? で、残りの銛は…チカのお家に…戻しておいてね」
『はい、ますたー』
チバナのちょっと残念という表情を、あえて無視して、和也は差し出されたミスリル銀の銛を握って軽く振ってみる。
わぁぁぁ~…………軽いのに、すっごく手にしっくりくる。
それに、重さバランスもボクにあってる。
地の精霊の作る武器や道具が珍重されるはずだぁー。
薙刀とは違いますけど……。
長いモノに変わりは無いし…………。
ちょっと型を試してみようかな。
重さとバランスを確認した和也は、ミスリルの銛を手に空を突いたり、なぎ払ったりしてみた。
うん……イイ感じ……です。
これは、使いやすい。
薙刀の型を、軽く試してみましょう。
突く、なぎ払う、打つ、柄の部分を使って突く等の色々な型を、和也は流れるように繰り返す。
その姿を精霊達は、うっとりと見ていた。
『ますたーは、強い』
ぽつりとエンキが呟く。
『うん…………』
『だって、翼竜を身の内におさめて、平気でいるんだもん』
『精神力も膂力も体力もあるよねぇ~…………』
『それに、聖なる神官の才能も…………』
『いにしえの精霊使いを超えてるしねぇ~…………』
『でも、なんか……』
『うん……変……』
『変わってるよぉ~』
『人間らしさが…………』
『なんか……薄いよぉ……』
和也が聞いたら、はぁ~なんですとぉ~と言うのは確実なコトを言っていた。
が、とうの和也は、演武に夢中だったので…………。
精霊達の会話は耳に入らなかった。