155★ロ・シェールの街18 奴隷商と風の精霊
嬉々として現われた風の精霊に、和也は疑問符付きで呼びかける。
「フウカ?」
和也の言葉に、にっこりと笑って、フウカは奴隷商のゼスラに言う。
「ますたーの探し人の誰かが見付かったら
人気の無い場所で
『風の精霊よ
アレックス様に伝えたいことがある』と言って
そしたら、あたしの妹達があなたの声を
ますたーに伝えるから………
だって水鏡は使えないでしょ…あなた達は……
それに…商人は風の精霊と縁があるから
大丈夫よ…」
フウカの申し出に、和也は驚いてしまう。
精霊達は、穢れを嫌う性質を持っているから、奴隷商のように人などを売買する者達を嫌うのに、和也とゼスラの連絡係りをさせると言うのだから…………。
「フウカ、君の妹達を
ゼスラに貼り付けてくれるんですか?」
驚く和也にフウカは、さらりと要求する。
「周りを飛ぶだけです
お仕事が上手くいったら
妹達に名前を付けて欲しいんです」
フウカの要求を和也は了承し、ゼスラの為に1つ命令する。
「イイでしょう
見付かった奴隷が、ボクの手元に来たなら
名前を付けましょう
では、ここに呼び出して下さい
姿を知っている方が
ゼスラも呼びかけ易いでしょうから……」
和也の命令に従って、フウカは妹達に呼びかける。
「はい、ますたー…おいで…妹達……」
その呼び掛けに応じて、可愛い声が響く。
「「「「あい」」」」
フウカの呼び掛けに、半透明な風の精霊達が何体も現われる。
和也の目からみたら、確かに精霊として半人前?半精霊前?な姿だった。
それを見た奴隷商ゼスラは、その訪れた(聖なる精霊を目にする)幸運を、溢れる涙を流しなから、小さく呟く。
「数年前に、一族の占い師の言葉に従って
なるべく、侍女奴隷を手に入れるように
していて良かった
穢れ者、不浄なる者と言われている我等が
精霊を見るコトが出来るとは…………」
ゼスラの呟きを、和也は不思議に思って尋ねるコトにした。
「レオに、奴隷商をやめたいと話したのは
占いのセイなんですか?」
和也の問い掛けに、ゼスラはコクコクと頷き、本音を吐露する。
「はい…奴隷商をやめて…家族(一族郎党)と
普通の暮らしをしたいと思っておりましたので…」
ゼスラの言う、普通の暮らしの意味が理解らなくて、和也と浅黄は顔を見合わせる。
「…? …? ……」
怪訝な表情で、自分を見る和也と浅黄に、何か普通か理解っていないと感じて、ゼスラは自分が求める普通が許されない現状を口にする。
「私達は、神殿に入るコトを許されておりません
神殿の外にある祭壇に詣でるコトしかできません
もちろん、神官様方に声を掛けるコトも
許されておりません
医師や薬師に話しかけても無視されます」
その理由を聞いて、和也は再び浅黄と顔を見合わせてから、常識的に考えてもおかしいと思うことを、ゼスラに言う。
「ちょっと、いや、それは
かなりおかしいですね
神殿の神官に話しかけられないのなら
結婚式とかお葬式はどうなるんですか?
特に、お葬式というか弔いをきちんとしないと
悪霊化するんじゃないですか?」
確認する意味でそう和也が言えば、ゼスラは視線を伏せて哀しそうに言う。
「はい…その通りです」
ゼスラの答えに、和也は眉を顰めて言う。
「その通りって…それは…かなり危険でしょう?」
そこに潜む危険性を無視することが、常識化しているという事実に、和也は愕然とする。
その隣りでは、浅黄が不愉快そうな表情で考え込んでいた。
普段ならけして不条理と思っていても口にしない、ゼスラだったが………。
自分達奴隷商人のおかれている境遇を、風の精霊を見た幸運と、話しを真面目に聞いてもらえる嬉しさから、ボロボロと吐露してしまう。
「でも、神官様に弔ってもらえるのは
貴族とか豪商と呼ばれる者達だけです
庶民とか私達は、自分達で弔うだけです…
その結果…悪霊化されて…被害が出ても
しかたないって思って生活しています」
このRPGの世界ってそういう設定もあるんだ………と、和也と浅黄は顔を見合わせて思う。
突っ込みたいところがいっぱいあり過ぎて、思うような言葉が出てこない和也が、戸惑いを浮かべて、何と言おうか迷いながら口を開く。
「えっとぉ~……? ……」
和也の言いたいことを、ゼスラなりに気付き、切なそうな表情で言う。
「あまりに被害を出す悪霊になると
冥王神の神官様達が浄化しますから…
それまでやり過ごすせば、大丈夫です」