014★水の精霊と契約?
014★水の精霊と契約?
和也は、再び自分の右手に握ったままの、翼竜・銀嶺の額の角から出来上がった細身の剣に視線を落として呟く。
「ふぅ~…やっぱり…幾らゲームの世界でも、剣を抜き身のまま持ち歩くのは…ちょっと……ですよねぇ………」
それに、さっき偶然にも手に入れられた貴重な食料となるデーツや飲み水を持ち歩く事も考えないと………。
いくらコンパクトになるからって、次々と契約したりしたら、ボクの体力が持ちませんよねぇ…………たぶん、きっと。
でも、とりあえず、オアスシの水の精霊とだけは契約しないと、この先がキツイですよねぇ…………。
確かに、これから砂漠を渡る事を考えたら、余分な手荷物は少ないにこした事は無いんですけど…………。
でも、護身用の剣を手離す事は出来ないし…………。
それに、コレは銀嶺の角だし………。
そんな和也の悩みに、ちょー略式の契約と儀式で身の内に同化? したらしい翼竜・銀嶺が提案する。
〔我ガ主ヨ…何ヲソンナニ憂イテオリマス………〕
頭の中に響く銀嶺の問い混じりの声に、和也は取り敢えず、今現在の悩みを口に出して言う。
「うん……とりあえず、君の角から出来た、この剣を、どうにかしまいたいんだけど……って、えっ? ……あれ? ……もしかして、ボクに同化? したのに、ボクの思考とかは共有してないの?」
和也の素朴な疑問に、銀嶺は苦笑を滲ませながら答える。
〔我ハ…主ノ慈悲デ…忌マワシイ呪縛カラ逃レ……身ノ内ニ隠シテ貰ッタ身…思考ヲ覗クヨウナ事ハシテオリマセン〕
「ああ…そういうモンなの? ………ボク…その辺は全然考えてなかったから……じゃなくて、君の角から出来た剣だけど…どうやってしまったら良いのかな? コレに鞘とかあるの?」
〔我ノ角ノ剣ニ鞘ハ存在シマセン…タダ…主ガ望ンダ姿ニ変化シマスノデ…アクセサリー等ニ変移サセ…装備シテオク事ガ出来マス…念ジルダケデ思イ通リノ形ヘ変ワリマス〕
「へぇ~…そうなんだ……それじゃ…取り敢えず……指輪…いや……腕輪にしておくね。元の剣の形状に戻す時も、念じるだけで良いのかな?」
〔ハイ…瞬時ニ剣ノ姿トナッテ…主ノ御手ニ出現シマス〕
そんなにかしこまった口調で答えなくても良いのに…………。
こうもっと砕けて喋っても良いのに…………って言っても、たぶん銀嶺の性分だろうから…………。
じゃなくて、今は………腕輪に変化しろ…………。
銀嶺の堅苦しい口調での応答に、和也は微苦笑を浮かべながら、剣を行動の邪魔にならない姿へと変化させる。
「へぇ~………思ったより簡単に姿を変えるもんなんだ………後は………あのデーツを入れる袋みたいなモンと……なんか、飲み水を入れる容器が欲しいんだけど………」
あまり、精霊や神様を多用するのはちょっと…………。
自分の基礎的な努力も必要ですよね。
オアシスなんだから、水を入れる皮袋の一つも落ちているかも知れないし…………。
「とにかく、もう一度探してみよう………まっ…ダメだったら、水の精霊と契約という手もあるし…………」
首を傾げながら小さく呟いた和也は、改めて小さなオアシスの周囲を見回し考える。
銀嶺に欲しいって言ったら、何か出してくれるのかな?
…いや、幾らゲームでも、そんなに甘くないよね。
それに、こういう事は自分で考えなくちゃ…………。
すぐに誰かに頼るのは良くないしね。
和也は初心に返る為に、いまだこんもりと山積みとなっている完熟デーツを落とした、幹の根元へと戻り座り込む。
当然、自戒の為だ。
取り敢えずの食料になりそうなモノは目の前に、たぁ~んとありますから、後は運ぶ為の入れ物を探さないとね。
とはいえ、よくよく見回しても、ここから見回す限りは、なんか落ちてなさそうなのは確かですよねぇ~…………。
まっ…座っていたってはじまらないから、探してみましょうか………。
「よいしょ…………」
掛け声とともに立ち上がり、とりあえずと言うことで、自分が座っていた周辺から、先刻ちょっと休んだ木の根元を丹念に見て歩く。
はぁ~…………まっ………そう、都合良く…皮袋なんて落ちてないか…………。
やっぱり、オアシスの水の精霊に捧げモノ(恋歌)して契約するしかないかな?
んぅ~……銀嶺の知識からすると………恋歌がイイらしいですねぇ…………。
カラオケはわりと好きだから、歌えるモノは多いけど…………でも、どういうのが好みかな?
恋歌って言っても、失恋とか、初恋とか、未練とか、幸せな恋とか、色々とありますからねぇ~…………。
水の精霊に好きな歌は? 好みはなに? って、尋ねるには………呼び出しの為の言葉が必要…なんですか…………。
ちょっと小首を傾げ、和也は銀嶺の知識を得た自分自身の奥底に、とりあえずしまった知識に問い掛ける。
浮かんできた答えに、和也は苦笑いを浮かべる。
ふふふ……そんなに……簡単にいくはず……無い……ですね……修行も何もしていないんですから…………。
えーとぉ……恥ずかしいセリフのオンパレードですね。
でも、呼びかけないと、何もはじまりませんから…………。
「 麗しきヒレ持つ水の女神が、眷属たる精霊達よ。
この泉に住まう美しきウロコを持つ者達よ。
しばし、我が前に現れ給え、
さすれば、人の世に在りし、歌を御身らに捧げん 」
はぁー……恥ずかしい……なんで……こんなコトを……。
でも、ボクは、精霊の加護を生まれながらに持っている銀嶺とは違うんだから…………。
諦めるしかないんですよねぇ…………。
内心では、かなぁーり深く苦悩している和也の耳に、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
ん? なんとなく、女の人の声?
が、和也の前に姿を現すことはなかった。
その上、何かを要求するコトもなかった。
その状況に、和也は脂汗を浮かべる。
うっわぁー……最悪…の…パターンだ…。
これは、ボクが、先に何か歌わないと、水の精霊は現れてくれる気がしないってことですね…………。
ようするに、先渡しのモノがなければ、姿すら見せてくれないってことですよね…………。
このままじゃ、契約なんて夢のまた夢…………。
和也はちょっと考え、最近、クラブの仲間とカラオケで歌った曲を思い出す。
はぁー……切ない……切ない系の……歌でいきますか。
って…やっぱり…アカペラ……ですよねぇー…………。
ボク、今、楽器が無いし…………。
うっわぁー恥ずかしい…………。
いや、ガンバレ……ボク……大丈夫……相手は……人間じゃない。
ファイトォー……はぁー……やりたくない。