136★ロ・シェールに入ろう
「俺達が運んでやるから…ちっとばっかり…
運び賃をくれないか?」
レオニードの唐突な申し出に、和也は首を傾げる。
「えっ?」
驚く和也に、レオニードは説明する。
「トゲムシを買い取りしてくれるハンターギルドに
運んでやるから、運び賃をくれって言ってんだ」
自分を渡りの戦士と名乗ったレオニードの説明に、和也はつい疑問を口にする。
「今、レオニードさんには雇い主がいるでしょう?
勝手に話しをつけるのは……」
和也とレオニードの会話に、手をもんでいる商人達が乱入してくる。
その中には、レオニードの雇い主もいた。
大量のトゲムシの死骸は、はっきり言って交通の邪魔だった。
それを、和也達が、ちんたら運ぶとなると何時になったら、ロ・シェールに入れるかもわからない。
だからと言って、命の恩人に文句を付けるのは、非常識な恩知らずになってしまう。
どうしたら良いかと商人達は、こっさりと会話していたのだ。
できれば御礼もしたいし、今後も和也達とお付き合いしたいと思っていた。
桁違いの強さを持つ少年は、どう見てもその服装と剣でかなりの上位貴族だと思われるから…………。
それに、和也達は、馬を連れていなかったうえに、旅人の装備も持っていない。
そこから導き出されるのは、飛竜に乗って旅をしているというコト。
飛竜を手に入れる金額も、それを維持する金額も、貴族や王族、または、国家以外では無理だったから…………。
裕福な貴族である和也なら、トゲムシを運ぶ代金取っても構わないと、抜け目のない商人達は思った。
だから、親切ごかしに口々に和也に言う。
「いやいや……若君…ここにいる商人を代表して
言います…ぜひ運ばせて下さい…」
「なんと言っても、若君のお陰で、ここにいる者達
誰一人怪我をしていませんし、馬も荷物も無事でした
から、本当は無料でと言いたいところなんですが……」
「ここで、売るために色々と運んでいますので……」
「荷物の上に、少しずつ乗せてどのぐらい運べるか
を確認しますので…………」
商人達の強引な申し出に、和也は苦笑する。
ほんとぉ~に、商魂たくましいですねぇ………
まぁ…トゲムシを倒したのは…ついてですからね……
ふむ……いちいち商談するのは面倒ですねぇ………
ここはレオニードさんに、全部ポイしましょう
「わかりました。ボク達は、ロ・シェールの街中を
ゆっくりと見て歩きたいので……レオニードさんに
トゲムシの売買をお願いします
ついでに、トゲムシの運び賃も、現物かお金で清算
して下さい
そして、レオニードさんの仕事に対する対価は………
ボクには、適正価格が判断できませんので、必要と
思われる分だけ取って下さい
では、レオニードさんお任せしますので、よろしく
後でハンターギルドの前で、待ち合わせしましょう」
商人達の勝手な提案に、あっさりとのってみせてから、和也は、レオニードにお願いという命令をする。
和也の言葉に、繁殖期のトゲムシの対価は、結構な金額になると知っているレオニードはちょっと焦ってしまう。
自分で、運び賃が欲しいと言ったけど…………
商人達が、運ぶからと言い出すし……これじゃ…
儲けは少ないなぁ…って思っていたのに…………
俺に…運び賃からトゲムシの売買の対価も…仕事の
報酬も勝手してイイなんて………
渡りの戦士を信用するんだなぁ~……貴族の若君が…
しかも…随分、丁寧な扱いをしてくれる
これは…もしかして……俺の……いや…まさかね……
ちょっとばかり、内心で期待を持ちつつも、それを振り払って、和也に言う。
「おいおい……たった今…会ったばかりの俺に……
丸投げしてイイのかよ?」
自分に、トゲムシの売買その他を丸投げするコトに驚く、レオニードを見て、和也は笑ってしまう。
「くすくす…こんなに多くの目撃者がいますし…
レオニードさんは、ギルドにも所属しているんで
しょう?
ネコババなんて、バカなマネしないでしょう…
だから…お願いするんです
それじゃ…ハンターギルドで会いましょう……」
図太い?図々しい?申し出をしたクセに意外と、誠実なレオニードを和也は、気に入ってしまう。
そこで、レオニードを雇っている商人に、和也はひと言断りを入れることにした。
「あっ…そうそう……レオニードさんの雇い主さん
彼を借りてもイイですか?」
和也の問い掛けに、小太りな商人がニコニコ笑いながら答える。
「どーぞ…どーぞ…レオニードとの《契約》は…
ロ・シェールまでなので…大丈夫ですよ
なんの支障もありません…………」
「そうですか…助かります」
その答えに、和也は頷いた。