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012★閑話01 藤田主任&スタッフ達の見解



 和也がカウントと共に、ゲーム内にログインしたその頃。


 「黒沢君のゲーム内へのログイン、成功したもようです」


 コンピューターパネルの脳波計の波形が正常に描かれていることを確認し、男性スタッフが事務的に、和也の様子を告げる。

 藤田主任は頷いて、女性スタッフを振り返る。

 女性スタッフも、端的に別のPC画面を見ながら答える。


 「ログイン状態は良好‥‥‥」 

 「そう‥‥黒沢君が、旅人としてどんなモノを創造してくれるか楽しみねぇ‥‥‥‥」


 藤田主任がそう楽しそうに呟くと、別の男性スタッフが別室から大画面付きの機器を運び込んで来る。


 「藤田主任、研究班から視覚再現装置が出来上がったから、使用してみて欲しいとの依頼です。彼で、試してみますか?」

 「あら、完成したの‥‥‥‥もちろんよ。黒沢君の見ているモノを、私もじかにこの目で見てみたいもの。きっと、リアルでちょっと変わっているわよ。だから、大きい中央パネルに投影してね」

 「はい‥では、中央バネルに接続します」

 「接続スイッチ、正常に作動しました。パネルに投影データー注入開始します。主任スイッチを‥‥‥‥」

 「入れたわよ‥‥うふっ‥‥成功ね」


 藤田主任及びチームスタッフは、和也が体験している光景を中央パネルで見ることになった。

 画面には、和也が見る視界が映像として映し出されていた。

 そう、画面いっぱいに、いちめん砂漠で、遠くにオアシスらしきモノがある光景を‥‥‥‥。


 「成功ね‥‥‥‥ふーん‥‥レアな‥‥砂漠に、行くコトにしたのね。黒沢君ってば、砂漠の冒険が好きなのかしら?」


 藤田主任の素朴な呟きに、データー解析を担当していたスタッフが楽しそうに応える。


 「でも、今までのバイターは、ログイン時、基本的に、街中か村だったから、新しいデーターが取れますね」


 街や村の外の光景を、後で創作する手間がはぶけたスタッフは、嬉しそうに画面を注視する。

 ちなみに、ほんの数日前までは、データーを解析してから、どんなモノが創造されたかを、何日も掛けて検証し、良いモノが創造されていたら、後から賞与として金一封が銀行に振り込まれるようになっていた。


 「本当ね。黒沢君てば、金一封ものね」

 「あっ‥そう言えば‥主任ってば、面白いデーターを取れたら、アルバイト代に更に追加のボーナスがつくって、説明してませんでしたよ」

 「あら‥そうだった‥‥‥バイト代を渡すときに‥説明すれば良いわね‥‥‥まっ、それはおいて‥‥画面に集中しましょう‥‥」

 『はい』


 和也の悪戦苦闘?を藤田主任とスタッフは、データーを取りながら、楽しそうに見ていた。

 和也が行動する度に、新しいデーターが増えていく。


 「代わり映えのしない砂漠を、マジメに歩いているわねぇー‥‥‥流石は‥スポーツマンの部ねぇ」

 「主任。黒沢君のデーターだと、中学時代に全国大会で優勝していますよ。だから、見かけより体力も精神力もあるんじゃないですか?」

 「とにかく、砂漠ですから、そういう距離も必要だと思って‥‥‥‥って、もしかして‥‥‥‥」


 スタッフの1人がハッとして言葉を濁したことに気付き、藤田主任は眉を顰めて訊く。

 

 「どうかしたの?」


 藤田主任の問いに、困ったなぁ~という表情で応える。


 「彼、もしかして《バグ》ってませんか?」

 「あら‥‥‥‥」


 そのセリフに、別のスタッフが確かにと頷く。


 「あっ‥確かに、独り言の中に記憶があるようなセリフが‥‥‥ここです」


 和也がぼやいたシーンを別画面に映して見せる。


 「ほら『三時間って言ったのに‥‥‥‥』って、それに、彼の装備、ここで面接した時のままですよ」


 改めて画面を見直し、藤田主任は苦笑する。


 「あら、やだ、ひどいモンね‥‥‥‥うふふふふ‥‥‥かっつりとデーター取っておいてね」


 嬉しそうな藤田主任のセリフに、その場にいたスタッフ達は楽しそうな表情で頷く。


 『はい』


 滅多に取れないようなレアなデーターに、わくわくしながらこの後の展開を期待しつつ画面や脳波の様子を確認していた。

 ちなみに、和也がぼやきながら延々と歩いた時間は、現実世界では十分ほどだったりする。


 「どうやら、オアシスに到着したようですね」


 画面の中では、湖底から水が湧き上がっている様子が映し出される。


 「うふふふ‥‥‥この後、どうするつもりなのかしら?‥‥‥‥旅人としての装備すら無い状態から‥‥‥‥」


 砂漠のオアシスで一休みと休憩している和也の様子を、興味しんしんで見詰めていると‥‥‥‥。

 和也の行動を見ていた女性スタッフがなるほどという顔で頷いて言う。


 「えーと、デーツを手に入れようとしてますね」


 藤田主任と男性スタッフが、訊き慣れない単語に首を傾げる。


 「デーツ?」


 そこで、女性スタッフが説明する。


 「はい、砂漠の民が、砂漠を渡る為に持ち歩く携帯食料です。色々なミネラルやビタミンが入っていて、カロリーも取れて、美容と健康にも良いんですよ。黒沢君って、ほんとぉーに砂漠が好きなんですねぇー」

 「砂漠って、ロマンですよねぇー‥‥‥‥」

 「ふむ、知識あってこそ‥‥って‥‥とこがイイですねぇ」

 「今回のゲームの始まりは、砂漠もイイですね」

 「そぉねぇー」


 藤田主任とスタッフ達が会話している間に、和也の紡ぐ物語りは、どんどん進んで行く。

 パネルに飛竜と言っても、皮膜の羽ではなく、羽根?羽毛?の翼タイプが映し出された。


 「んまぁー珍しい」

 「随分と変わっているし、別の意味で綺麗な生物ですね」

 「今までのバイターとは、見事に毛色が変わっている感じがします」

 「そうね、私に、ゲーム内にログインしたときに、記憶がデリートされるって説明したときに、文句をつけただけあるわね」

 「ほんとーですよねぇー」

 「大概のバイターは、最先端過ぎるこの技術に、気が付かないで、スルーしちゃうのに」

 「珍しいですよねぇー‥‥黒沢君ってば‥‥軍事機密なのかもって疑っていたかも?」

 「たぶん、疑っていたから、私にアレ以上質問しなかったんだと思ってるもの」

 「ですよねぇー」


 画面の中では、和也が飛竜の角を折って、胸に刺すシーンが映し出される。


 「この飛竜との契約が、パターンから完全にはずれていますよねぇー‥‥まさに‥‥黒沢君のオリジナルって状態です」


 彼らの会話から判るように、和也がプレーヤー支援システムと思っている飛竜の出現は、スタッフ達からは、和也のイメージということになっていた。

 藤田主任は、頬に手を当てて考えながら呟く。


 「そうね‥‥‥幾ら‥ボーナスを加算したら良いのかしら‥‥‥あんまり少ないと‥次回の被験者になってくれないかも知れないから‥‥‥‥」

 「えっ?」

 「黒沢君の意識では、何時間も熱砂の砂漠を歩くって苦労をしているのよ」


 藤田主任のセリフに、スタッフは首を傾げで問い返す。


 「でも、10分ぐらいですが‥‥‥‥」

 「確かに、現実世界ではね。でも、彼の意識では、何時間も歩いているの‥‥こんなキツイバイト‥‥お金が少ないって感じたら、割りに合わないって、別のバイトに行ってしまうもの」

 「そうですよねぇー」

 「黒沢君みたいに、変わった物語りをクリエイトしてくれたのって、初めてですよねぇー」

 「そっ、大概は、ド○クエとかフ○イファンとかモ○ハンとかテ○ルズとかのパターンだもの‥‥‥‥」

 「ですよねぇー」

 「だから、モンスターも代わり映えしませんもんねぇー」

 「黒沢君のモンスターや魔物ってどんな感じでしょうねぇ」

 「わくわくするわね」


 和也が《バグ》ったと判っても、面白いからと、そのまま見ている彼らであった。


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