105★姉弟は、飛竜に乗りたい
エルリックとの会話が決着し、ひとつ深呼吸をしたエリカは、俯いていた顔を上げてにっこり笑って、和也に言う。
「主様、飛竜騎士の秘密について
私達が、曽祖父に聞いた話しを…………」
そのエリカの話しを途中で切り、エリオットが畳み掛けるように言う。
「主様、秘密を話すかわりに…………
僕達を主様の飛竜に乗せて飛んで頂けませんか?」
頬を紅潮させて、瞳をキラキラさせて言うエルリックを見て、和也は微笑む。
そう、どうやって、この2人に、自分と同じような、豪華絢爛な恥ずかしい衣装を着せようかと思っていたので…………。
くすっ……そうきますか? くすくす……
じゃ、一緒にってことで…………
「いいでしょう……秘密と引き換えに
この銀嶺に乗せましょう……」
幼さの残る少年であるエルリックは、思わず飛び上がって心底嬉しいと叫ぶ。
「やったー…………」
そんなエルリックを、和也は可愛いなぁと思いながら言う。
そう和也は、弟が欲しいなぁ………と、何度も思っていたから…………。
ただ、無理難題と思い、諦めていたので…………。
「でも、そのままでは、乗せられません」
和也の天国から地獄へ落とすような発言に…………。
嬉しさに飛び跳ねるエルリックと違い、貴族の姫という気品を滲ませ静かに喜んでいたエリカも、顔をしかめて叫ぶ。
「「えっえぇぇーそんなぁー」」
ガッカリしたという表情の2人に、和也は笑って言う。
「くすくす……飛竜に乗る為の衣装を作らせます
…少し待って下さい…」
和也の破格過ぎる申し出に、エルリックは驚いてしまう。
奴隷の僕達に、飛竜騎士用の特殊な衣装を作ってくれる?
防護魔法を幾つもかける必要があるので、それに絶えられる丈夫な布を使うのだ。
その上で、特殊な糸で刺繍し、染料にも守護の魔法をかけなければならない。
とにかく、飛竜騎士の騎乗衣装は、無茶苦茶な手間と費用の掛かるモノなのだ。
だから、貴族でもそんなに枚数を持っていないモノだったりする。
エルリックの曽祖父には、神官の兄弟がいたので、防護魔法や守護魔法はただでかけてもらい経費を浮かしていた。
そう、防護や守護の魔法の為にも、貴族は神官を輩出する必要があったりする。
閑話休題。
「僕達に、飛竜に乗る為の衣装を
作って下さるんですか?」
驚くエルリックに和也は、飛竜に乗ったコトが無いから、そのままの服装で大丈夫だと思っていたと勘違いした。
思いっきり常識が違う和也と姉弟だった。
「ええ……上空は、かなり寒いですからね………
それに、銀嶺から落ちても大丈夫なように………
衣装に魔法をかけますから……大丈夫ですよ……」
「私達は、奴隷なんですけど……よろしいんですか?」
「別に、地の精霊達に作らせますから……
なんの面倒もありませんよ……」
はい、和也は奴隷制度というモノが無い世界で育ったので、奴隷とはこう扱うモノだという常識が、残念なことにありません。
また、そういうことを嫌う傾向にあるので…………。
もし、和也の前で、姉弟を奴隷だからと、不当な扱いをしたら、きっときっつーい鉄槌が下ることでしょう。
閑話休題。
和也の衣装を作らせるという言葉に、ひょこひょこと現れたチカやチホ、チエは、嬉しそうに言う。
「ますたー……お仕事なの?」
現れたチカ達に、和也はにっこり笑って命令?する。
「ええ……そうです……
この2人に、衣装を作って下さい」
姉弟をじっと見詰めてから、チエがマジメな顔で応える。
「あい……ちょっと…待ってね…………
それと、ますたーの鞍の後ろに
二人用の鞍をつけるねぇ~………
その代わり……槍とか盾とかは付けないよ」
チエの提案?に和也は、笑って了承する。
そうですねぇ~2人分の鞍を着けると
槍とかの装備は付けたく無いですね
いっくら、銀嶺が巨体でもねぇ…………
余計なものは付けない方がイイですし………
「ええ、それでイイです」
「じゃ…ますたー……行ってくるねぇ……」
チカ達は、和也に挨拶して消えた。
それを、姉弟は瞳を丸くして黙って見ているだけだった。
地の精霊達を、何の対価も無しに使役する和也に驚いていたのだ。
そして、2人は思い出す。
彼の皇子は、民の為に精霊達を連れて時空を越えたという伝説を…………。
なんの対価も無しに使役できるなら…………。
対価を与えれば、どんなコトでも叶うのではないかと…………。
民の為に、実り豊かな緑あふれる大地を作り出すことも…………。
溢れるほどの水量をたたえる大河も湖も作り出せると…………。
古代帝国ラ・アルカディアンの栄えていた頃と同じように…………。
飢えも渇きも無い。戦争という嘆きも悲しみも無い。
穏やかな世界が…………。
それを作り出す、皇子に2人は命果てるまで仕えたいと思うのだった。