103★オアシスにて、奴隷の姉弟との会話2
和也の前で、肩を震わせながら、エリカは吐息にも似た口調で言う。
「それは、どうでもイイんです……
権力者が…いえ…宰相達が…ワーグリンを…
排除したいと思ったからです……
そして、曽祖父以来、我が家には飛竜騎士が
輩出されませんでした……だから……
いらない貴族だったんです」
飛竜騎士を輩出できなかったという慙愧の思いに沈む、エリカの隣りで、エリオットはもっと切なそうにうつむく。
その姿は、きっと…………。
『僕が飛竜騎士に成れていたら………』
と、いうモノが読み取れるような表情だった。
和也は、こちらでの常識とかを知らないので、素朴な疑問と言うように問いかける。
「もしかして、飛竜騎士じゃなかったら……
貴族じゃないんですか?」
和也の質問に、今度はエリオットがはっきりと答える。
「貴族を名乗るなら、一族に最低でも1人は
飛竜騎士が必要です………それ以外は………
神官を…2名排出しなければ…断絶ですね」
その答えに、和也は小首を傾げて、問い返す。
「では……神官はいなかったんですか?」
その質問に、隠す必要もないので、エリカが端的に答える。
「4名おりました」
エリカから答えに、和也は眉をひそめて言う。
「では、断絶はされないはず?」
どうして?という思いが滲むエリオットは、溜め息を禁じえない口調で言う。
「でも、反逆罪と言われれば、終わりです」
和也は、今聞いた情報を元に、なにがどうしてどうなったを連想し、ひとり納得して、質問をする。
「もしかして………ワーグリン家の領地では
かなり農作物が収穫されていたのでは?」
「はい、国内でも有数の穀倉地帯でした」
飛竜騎士としての秘密に抵触しないので、あっさりと帰って来た答えに、和也は頷く。
「………はぁ~……だったら…………
その豊かな穀倉地帯を手に入れたいと
国王や宰相達が思ったってコトですね」
「……? えっ? ……」
意味がわからないという表情の姉弟に、和也は確認の意味も込めて言う。
「聞きますが? 貴方達の父や祖父は
国王や宰相達など有力者と、婚姻を結ぶという
選択肢を無視して、生活していたんでしょうね……
たぶんに……曽祖父の飛竜騎士が死んでさほど経たずに
反逆罪になったのでしょう……違いますか?」
そう和也に確認され、エリカはどうして、そういうことがわかるのか?という表情で答える。
「えっええ……そうです……」
和也は、やっぱりという表情で頷き、続けて事実確認するように言う。
「ワーグリン家は、飛竜騎士を婿に入れるとか…
国王、または皇子に………嫁を出すとか………
有力貴族と婚姻を結ぶという………
貴族としての手間を、サボったというコトです……
穀倉地帯という領地を有しているわりには…
残念ですが、お粗末ですね…………
貴族としての政治的配慮が足りなかった
というところでしょう……………
周りに…うらやましいと思われているなら…
それを、配り、味方を増やすべきでしたね……
だから…奴隷で放逐されたんでしょう………
ムゴイ話しですが……それなら、ありうる話しですね」
どうしてこうなった?の答えを教えられたエリカは、呆然と呟く。
自分さえ、我慢していればというモノを滲ませて…………。
「そんな……私が…あの王子に…側室として…………」
エリカの悔恨に、エリオットは憤りを持って首を振る。
「でも、姉上……あの王子には…
もう、正室も側室もいましたから………」
2人のやりとりを確認し、さらりとするべきだった選択を口にする。
「だったら、有力者と婚姻を結ぶとか
飛竜騎士と婚姻を結ぶという選択肢を
取るべきでしたね」
和也の言葉に、そうしていればというモノを滲ませ、姉弟の切なさの詰まった言葉が漏れる。
「「……そんな……」」
俯いてしまった2人に、和也はにっこり笑って、前向きなコトを言う。
「でも、それは、もう終わったコトですね……
だったら……建設的な方に動きましょう………
まず、残りの売られた人達を買い戻しましょうか?」
あまりにも、当たり前のように言う和也に、エリカは困った表情で言う。
「主様……でも…私達には…なにも………
この身以外ありません…なにも……」
「ありますよ……飛竜騎士の秘密が……」
「……えっ…?」
「王に忠誠を誓わない理由を教えて下さい……」
「なぜですか?」
「ボクが、飛竜に乗るからです」
「あのどこにも、飛竜はいませんが?」
「はぁ~出て……銀嶺……」
「はい…ますたー」
和也の命令?とともに、銀嶺は突然その巨体を現した。
その姿を見たエリカとエリオットは、信じられないという顔で、瞳を見開いた。
それは、飛竜の最上級種、翼竜だったから…………。
ラ・アルカディアンの皇族以外、人間は真っ白な翼竜を従えた者はいなかったコトを2人は知っていたから…………。
これから、和也は、苦悩する日々を送るコトになる。
その手始めが、この2人との会話だったりする。