※彼は詐欺師です
午後七時、レストランで恋人同士の真由美と洋介が話し合いをしていた。
「真由美、いつも悪いな」
「いいのよ。新しく店をを建てるんでしょ」
真由美がテーブルの上に、風呂敷に包まれた二百万を置いた。
それをすかさず、洋介が奪う。
「そうなんだ。そのためには、どうしてもお金が必要なんだ」
※彼は詐欺師です
「じゃあ、良いお店を建ててね」
「もちろん。そしたら、一緒に暮らそうな。俺はお金なんていらない。お前さえいれば、それでいいんだ」
※彼は詐欺師です
「嬉しい」
真由美は頬を少し赤らめた。
「あ、そうだ。この書類にサインをしてほしいんだけど」
彼女はカバンから、一枚の書類とボールペンを取り出した。
難しい単語がたくさん使われている。
「何でしないといけないんだ」
「どうしても今の会社で保証人が必要なの。お願い」
「しょうがないな」
洋介はボールペンでサインをした。
「これでいいか」
「ありがとう、洋介さん」
※彼女も詐欺師です
「いいんだよ、これくらい。いつも迷惑かけてるわけだし」
※この書類にサインをすると、多額のお金を請求されます
「お待たせしました」
そこでウェートレスがたくさんの料理を持ってきた。
真由美と洋介の前に次々と料理が置かれていく。
「ちょっと、待て」
突然、洋介が浮かない表情でウェートレスの動作を止めた。
「いかがしましたか」
「これは、何だ」
「豚肉のソテーでございます」
「メニューに載っている写真と全然違うじゃないか」
ウェートレスは困り顔で、
「同じだと思いますけど……」
「写真の方がうまそうだぞ。何だこれは。俺たちを騙したな」
※彼は詐欺師です
真由美もウェートレスをにらみつけて、
「そうよ、人を騙すのは犯罪よ」
※彼女も詐欺師です
「申し訳ございません」
「謝れば済む問題かよ」
「代わりに、これを」
そう言って、ウェートレスはバラの入った花瓶をテーブルの隅に置いた。
「何だよ、これ」
「わたくし達のささやかな気持ちでございます」
「意味が分からんやつだな。さっさと行けよ」
「は、はい」
※このウェートレスは何かを企んでいます
ウェートレスは頭を下げると、そそくさと去っていった。
「悪いな、大声を出して」
「いいのよ。洋介さんは当たり前のことをしただけなんだから」
こうして、二人は料理を食べ始めた。
「うまいな。この唐揚げ」
※それはマグロの竜田揚げです
「洋介さん、それは唐揚げじゃないよ。ちょっと変なコロッケよ」
※だから、それはマグロの竜田揚げですって
「コロッケじゃないだろう。なんか、肉を揚げた感じだぞ」
※いい加減にしてください
このあとも、二人は楽しそうに会話をしながら時間を過ごしていった。
料理を食べ終わった真由美と洋介の間には、沈黙が続いていた。
「なあ、真由美。ここからの夜景、キレイだね」
※このあと、彼はクサい台詞を言います
「本当だ。キレイ」
「この夜景よりも、キミの方がキレイだよ」
※クサい台詞を言い終えました
「まあ、嬉しい。魔法使いみたいだね」
※意味が分かりません
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるね」
洋介が立ち上がって、トイレに向かおうとしたとき、
「あっ」
コワモテの男とぶつかった。
「おい、お前さん何してくれるんだよ」
「す、すいません」
「腕が折れたじゃねぇか。慰謝料、払えよ」
※三人目の詐欺師です
「そんな、払えませんよ」
「はあ、ケンカ売ってんのか」
コワモテの男が洋介の胸倉をつかむ。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、早く出せよ」
怒鳴り声がレストランに響いた。
「あの、うるさいんですけど」
そこに、レストランのお客さんがやってきた。
「なんだと、ゴラ」
すると、他のお客さんたちも文句を言い始めた。
「うるさいんだよ。せっかくの休日に家族と刺身を食べてるというのに」
※この方は、漁師です
「そうだそうだ、うるさくするんだったら、レストランから出ていけ」
※この方は、猟師です
「Are you carrot?I'm potato!」
※あなたは、何者ですか?
コワモテの男は舌打ちをすると、洋介から手を放してレストランから出ていった。
「助かったぁ~」
「大丈夫、洋介さん?」
「ああ、なんとか」
そう言って、洋介は真由美に微笑みかけた。
しばらくの間、沈黙が続く。
「真由美はさ、どういう生活を送りたい?」
真由美は少し悩んでから、
「やっぱり、幸せで楽しい生活かな」
「じゃあ、俺と一緒にそういう生活を送ろう。うまいもん食ったり、欲しいものを買ったりする生活を」
※このあと、彼らは牢獄の中で生活を送ります
「そうね。でも、洋介さんは私を幸せにする魔法をかけられるかな」
「なに言ってるんだ。俺なら、その魔法をかけられるよ」
※魔法がかけられるのではなくて、手錠がかけられます
「じゃあ、私と一緒に歩んでいきましょう」
※歩みません
「これで決まりだな」
※決まりません
真由美と洋介は笑いあう。
そのとき、ウェートレスがやってきた。
「何だよ」
洋介は不満げにウェートレスをにらみつけた。ウェートレスの彼女はひそひそと、
「実は私も詐欺師なんです」
「はあ、なに言ってるんだ」
「あなたたちも詐欺師なんでしょ」
ウェートレスは不気味な笑みを浮かべた。
「変なこと言わないで、自分の仕事をまっとうしろよ」
「あなたは彼女からお金をもらってたでしょう。三回ほど。しかも、そのお金をギャンブルに使った」
「そ、それは……」
ウェートレスは真由美の方に顔を向けた。
「あなたも結婚詐欺師でしょ。これまでに三人の男を騙してきた」
「なぜ、それを……」
「いいですか、二人とも。あなたたちに警察の捜査の手が伸びています。それを私が助けてあげましょう」
「何だって」
「良い隠れ家があります。とりあえず、そこに避難しましょう」
洋介は腕を組んで悩んでいる。
「勘違いだったら大変なので、もう一度聞きます。あなたたちは詐欺師ですか」
真由美と洋介はお互いに顔を見つめてから、うなずいた。
「俺はそうです」
「ごめんなさい。私も詐欺師です」
「では、行きましょう」
ウェートレスは真由美と洋介に手錠をかけた。
「お、お前、まさか……」
「はい」
※このウェートレス、実は警察官です
「俺たちを騙したな」
「仕方がありません。これしか方法がないので」
「じゃあ、証拠はあるのかよ」
「証拠ならその花瓶に録音機が仕掛けられています。今の会話も録音されていますよ」
真由美が口元を手で押さえる。
「お前、よくも……」
「最初は食事の時に証拠になる発言をしたら捕まえる予定でしたが、なかなか言わないから、この作戦に変更しました。結果としては成功でしたね」
洋介と真由美の顔が青ざめる。
「や、やめろ、俺は金持ちになって優雅な生活を送るんだ」
※金持ちにはなれません
「そうよ、牢獄の中でごはんなんて食べたくないわ」
※一日三食ですよ
「では、行きましょうか」
ウェートレスを装っていた警察官は二人を連行する。
「待ってくれよ。俺は明るい未来へ行くはずだったんだ」
※刑務所になら、行けますよ
「私は金を使って、たくさんの男と付き合うはずだったのに」
※取調室で刑事さんの尋問に付き合うことになりますよ
「二人とも、詐欺をするのが悪いのです」
※正論です
「働かないで稼ぎたかったのに」
※理想論です
「私はお金とイケメンしか信じないから」
※無茶苦茶です
こうして、二人は無事に捕まりましたとさ。
※おしまい
※最後までお読みいただき、ありがとうございました!