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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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12 仕事の引き継ぎ



 少し赤みがかった秋の日差しが、窓から差しこんで生徒会室を夕暮れ色に染める。

 生徒会も新体制となり、メンバーたちは新たな役職や仕事で大忙しであった。先輩たちの指導を仰ぎながら、新三役をはじめとした生徒会役員たちが早く一人前になろうと必死に目の前の仕事をこなす。

 今、ヨウは会長席に座るノリコの隣で書類の仕分けをしているところであった。ヨウの反対側には、新副会長のイヨが座っている。

 会長席といっても、実際には六人用の長机なのでこうやってみんなで寄り集まって仕事をすることも多い。ノリコの向かい側にはタイキが座り、新会長と会長補佐にあれこれとレクチャーしていた。

 あちらの方へと目をやれば、新会計のイッペイと会計補のチアキが前会計のヒサシから教えを乞うている。イッペイなどは時折頭をかきむしりながら、必死な顔でノートに何やらペンを走らせているようだった。

 それにしても。会長席に座る幼なじみに、ヨウは内心舌を巻いていた。

 前会長のタイキから助言をもらいながら、ノリコは同時に新副会長のイヨに仕事の進め方をレクチャーし、さらにはヨウにもアドバイスを送る。どれか一つをこなすだけでも大変だろうに、それを全て同時にこなすノリコの事務処理能力の高さには目をみはるものがあった。

 自分もてきぱきと手を動かしながら、視界の端で彼女の仕事ぶりを見つめる。それに気づいたのか、ノリコが書類に目を通しながら声をかけてきた。

「ヨウちゃん、どうかした?」

「ううん、ノリコは凄いなって思って」

「あたしが?」

 ヨウの方を向いて、ノリコが少し不思議そうに首をかしげる。

「うん。会長の仕事の引き継ぎだけでも大変なのに、副会長の引き継ぎもして、さらには僕の面倒までみて」

「そうかなぁ。引き継ぎって言っても、会長の仕事はずっと見てきていたし、イヨちゃんもヨウちゃんも飲みこみが早いから。そんなに苦労はしてないよ」

「そうなの?」

「そうそう」

 ノリコが笑うと、正面のタイキも感心したように口を開いた。

「確かにノリコは大したものだね。でも、それはヨウ君のおかげかもね」

「僕の、ですか?」

 ヨウの問いに、タイキはノリコの方を向いた。

「ノリコ、ヨウ君が渡してくれる書類、目を通しやすいんじゃないのかな?」

「そうですね、優先度別に分かれてるのですっごく見やすいです。さすがヨウちゃん、ちょっとアドバイスしただけなのにもう完璧だよ!」

「そう? よかった、ノリコの教え方が上手なんだよ」

 笑って答えると、タイキがノリコの書類を指で示す。

「ヨウ君が的確に書類を仕分けしているから、ノリコの負担が軽くなっているんだよ。早くも会長補佐としての役割を果たしているね」

「そんな、恐縮です」

「その調子でノリコを支えてあげてね。イヨにも言えることだけど、会長というのは副会長と会長補佐のサポートがあってこそ力を発揮できるんだから」

「はい、がんばります!」

「任せてください、会長!」

 ヨウとイヨが背筋を伸ばして返事する。

 それを聞きとがめたのか、ノリコがぼやいた。

「も~、会長はあたしだよ、イヨちゃん~」

「あ、ごめんなさい。まだ慣れなくって」

「どうせあたしは会長っぽくないですよーだ」

 そんな風に拗ねてみせてから、嘘嘘、と舌を出す。こんなやり取りをしている間も手は止まらないのだからさすがだ。

 ヨウが感心していると、山積みの書類を両手で抱えたフィルと、同じく書類を小脇に抱えたノリコの補佐、アキホ・ツツミがやってきた。

「ひえ~、こんなに一杯の書類、集めるだけで大変っすよ」

「書類集めは会長補佐の補佐として大事な仕事だからね。今の時期は特に大変だけど、男の子なんだからがんばって!」

「オレやっぱムリっすよ、会長補佐の補佐なんて~」

 泣き言を言いながら、ヨウの目の前にどかっと書類を置く。委員会や部活などから生徒会に上がってきた書類を集めてきたのだろう。さっきから生徒会室中を、アキホと二人ぐるぐると回っていた。

「ありがとうフィル、お疲れさま。おかげで仕事がはかどるよ」

「そ、そうか? へへっ、お前の力になれるならまあいいんだけどよ」

 少し照れたように、フィルが右手の人さし指で鼻の下を左右にこする。さっきのような泣き言を言いながらも、彼も今では生徒会の一員としてしっかりと働いてくれていた。

 アキホはと言えば、フィルから離れるとイヨの補佐を務めるハナエ・ミヤモトとミナミ・カワグチに副会長の補佐としての仕事をレクチャーしている。その二人も、先ほどまでカナメの補佐であるマナブ・フクザワに書記の補佐として必要な仕事を教えていた。会長席のすぐそばで作業しているカナメも、時々イヨに呼ばれては何事か指示を受けている。

 こうして経験や知恵が先輩から後輩に継承されていくんだなあ、と感慨深げにヨウがあたりを見回していると、ノリコがやや不満げにつぶやいた。

「でも、ヨウちゃんって飲みこみが早すぎて、せっかく教えてあげてもそこですぐ終わりなんだよね。何だかもの足りないよ」

「そ、そんなこと言われても」

「いっそわざとわからないフリして、あたしにもっと甘えてくれればいいのに。あたしだって先輩としてもっと世話を焼きたいのに、ヨウちゃんってば、どうしてそのあたりのことがわからないかなあ……」

「えっ、ええええ!? そんな、無茶苦茶だよ!」

 ノリコの理不尽な要求に、ヨウもたまらず抗議する。

「そんなことできるわけないじゃない! だいたい手を抜いたりなんかしたら、ノリコならすぐ見抜いて僕のこと注意するでしょ? わざと手を抜くなんて何事だ、って」

「もう、わかってないなあヨウちゃんは。それも含めて後輩をかわいがってあげたいんだよ。さあ、わかったらヨウちゃん、早くミスしてよ! あたしがたっぷりこってりとしぼってあげるから!」

「り、理不尽だ!」

 二人の漫才を、タイキが楽しそうに見つめている。

「二人とも、仲がいいのは結構だけど、仕事の方もよろしくね。と言っても、手は一向に止まらないあたり、二人ともさすがだと思うけどね」

「あ! ごめんなさい!」

「す、すみません!」

 ヨウが生真面目な顔で頭を下げるその隣で、ノリコがちろりと舌を出す。好対照な二人に苦笑すると、タイキは再び自分の書類へと目を戻した。

 ヨウも目の前に山積みされた書類に目を向けると、よし、とほっぺを両手でぱんぱんと叩いた。そして、隣でがんばる新会長のためにもと、書類の束をつかみとって一心不乱に仕分けしていった。




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