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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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3 あらぬ誤解




 生徒会新体制の発表の翌日、ヨウとフィル、チアキとスミレは朝早くから玄関前の掲示板に掲示物を貼り出していた。

 紙にはまず生徒会三役候補の名が大きく書かれ、その下に一年生の役職がやや小さめに書かれている。一年生、二年生側の玄関にはヨウたちが、三年生側の玄関にはカナメたちが掲示物を貼りつけていた。

 まだ朝早いためか生徒もまばらではあったが、ヨウたちが掲示物を貼りつけると徐々に人が集まってきた。次第にあちこちで噂話が始まる。

「ああ、やっぱり副会長が会長候補かあ」

「そりゃそうさ、他に誰がいるんだよ」

「イヨちゃんが副会長候補!? 凄いわね!」

「会長も副会長も女子って凄いな、こんなの初めてなんじゃないのか?」

 周りでノリコが話題に上がるたびにチアキが嬉しそうな顔をする。

 その一方で、こんな声も聞こえてきた。

「一年生は……よくわかんねえなあ」

「会長候補のマサムラって誰だ?」

「知らねえよ。今年の一年はパッとした奴がいなかったからな、クジョウも生徒会入らなかったし」

「大丈夫なのか? 再来年の生徒会は」

 先輩たちの容赦ない言葉に、気をつかっているのかスミレが声をかけてくる。

「ヨウ君、気にしないでくださいね? ヨウ君の凄さは生徒会のみんながわかってますから……」

「ありがと、大丈夫。全然気にしてないから」

 むしろ二年生たちはヨウたちのことなど知らなくて当然だろう。だからこそ、ヨウたち一年生はこれから一年間学院の生徒たちのためにがんばって、みんなに知ってもらい認めてもらわなければならないのだ。

 そのうちヨウたちのことを知る一年生も集まってきたようだ。

「あ、会長候補マサムラだってよ」

「あの天才君か。納得と言えば納得だな」

「カナメって凄い精霊使ってるんだよな。俺はあいつが会長補佐かと思ってたんだけど」

「ねえ知ってる? マサムラ君とイワサキ君って、二人ともかわいい顔してるんだよ?」

「知ってる知ってる! あの二人、どっちが攻めでどっちが受けなのかしら?」

「やだー!」

 ……何だか妙な話題も聞こえた気がする。笑いを必死に押し殺そうとするフィルを、ヨウはじろりと睨みつけた。

「おいお前ら、あのマサムラって奴のこと知ってるのかよ」

「あ、先輩。ちーっす。バケモンっすよ、あいつ。学科ほとんど満点だし、精霊術以外の科目はほとんど全部トップっすから」

「何だそりゃ!? ミナヅキと変わんねえじゃねえか! クジョウはどうしたんだよ?」

「そのクジョウより上ってことっすよ。総合はクジョウがトップっすけどね」

「この前の試験の時に、副会長が直々に君ならトップになれるって言いに来たらしいっすよ」

「マジか……おい、あの会長補佐の奴、ミナヅキ二世みたいな奴なんだってよ」

「そうなのか? 詳しく教えてくれよ」

「……それマジか!? ホントに人間なのかよ!」

 ……何だか噂に尾ひれがついて広がっている気がする。これは多分、まずい。

 もう帰ろうよ、とチアキに声をかけようとしたその時、黄色い声がヨウのすぐ近くで弾けた。

「うそっ、マサムラ君、会長補佐なの!? すごーい!」

「おはよマサムラ君、会長補佐おめでとう!」

「シキシマさんも会計補おめでとう。頭いいもんね」

 ヨウのクラスメイトの女子生徒たちが、一斉にヨウたちへと詰めかけてくる。その中には、ショートカットが活発そうな印象を与えるシズカ・ミナトの顔もあった。

「ほら! シズカも何とか言いなさいよ!」

「う、うん……マサムラ君、会長補佐おめでとう! やっぱりマサムラ君って凄いんだね!」

「ありがとう、ミナトさん。任命されたからにはがんばっていこうと思ってるよ」

「マサムラ君ならきっと立派にこなせるよ! ……あ、ごめんなさい、お仕事中だよね?」

「ううん、大丈夫。ありがとう。みんなもありがとう」

「うん、また教室でね!」

「お仕事がんばってね!」

 ヨウの言葉に、女子生徒たちは口々に返事をしながら去っていく。思った以上の反響に、正直少しうろたえてしまった。

 ヨウたちを囲む人だかりからは、先ほどとは少し異なる反応が生まれつつあった。

「あいつがマサムラだったのか……」

「何だ今の……女の子が殺到してたぞ?」

「あいつ、そっち方面も完璧なのかよ」

「というか……あいつ、俺たちの敵なんじゃないのか?」

「え、え? あの子がマサムラ君なの? やだ、超かわいい!」

「マサムラ君ってもっとガリ勉っぽい人かと思ってた……ちょっとカッコいいかも」

「でもライバル多そうだよ? さっきの子たちも狙ってそうだったし」

「噂じゃ同じ生徒会の子とつき合ってるらしいよ。あの二人のどっちかじゃない?」

「そんな、二人とも凄いかわいいじゃない! あーあ、私はお呼びじゃないかあ……」

 ……明らかに妙な方向に話が流れている。見ればスミレは顔を真っ赤にしてうつむき、チアキも頬を赤く染めて手をぷるぷると震わせている。

「あ、あの、チアキ……」

「ちょっとヨウ、これどうするのよ! 何だか変な誤解が生まれてるじゃない!」

 声をかけると、小声ながら凄い剣幕でチアキに詰め寄られた。

「そ、そんなこと言われても……」

「いいわ、この場は私が何とかする! こんなところで副会長……生徒会のイメージまで悪くなったら大問題だわ!」

 そう言ってチアキが前に一歩出る。そうだよね、やっぱりイメージ悪いよね……。特に何をしたというわけではないはずなのだが、ヨウは少し肩を落とした。

 そんなヨウを尻目に、チアキは集まった人だかりに向かって口を開いた。

「皆さん、おはようございます! 生徒会一年、チアキ・シキシマと申します! 今回、生徒会の新体制を告知させていただきました。生徒会一同、これからも皆さんのお役に立てるよう精いっぱいがんばっていきますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします!」

 突然始まったチアキの演説に、集まった生徒たちも思わず雑談を止めて耳を傾ける。若干怒気が混じったチアキの演説には、何とも言えない迫力があった。

「それともう一つ。一部で生徒会メンバーの異性交遊の噂が持ち上がっているようですが、私たちの中に不純な異性交遊に励んでいる者はおりません。先輩たちの中にはおつき合いされている方もいらっしゃいますが、全て健全なおつき合いです。そこはどうぞご安心ください」

 チアキの言葉に、その手の話をしていた生徒たちが鼻白む。どうやらチアキの迫力の前に気圧されているようだった。

 と、人ごみの中から一人の生徒が、ぱちぱちと手を叩きながらヨウたちの下へ歩み寄ってきた。

「その通りです、シキシマさん。よく言ってくれました」

「ふ、副会長!」

 微笑をたたえながら現れたのは、ヨウが子供の頃からよく知っている人物――生徒会副会長ノリコ・ミナヅキであった。人ごみからは今までと異なる波長のざわめきが起こり始める。

 拍手を止めると、いつもの副会長モードでノリコは生徒たちに言った。

「彼女が言う通り、生徒会は常に皆さんを支えるべく全力で職務に取り組んでまいります。不肖このあたし、ノリコ・ミナヅキもこのたび生徒会会長に指名されました。九月の総会で皆さんの信任を得られるよう、これからもがんばっていきたいと思います」

 そこまで言い終わるや、周囲から割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がる。やはりノリコのカリスマ性は群を抜いていると言わざるをえない。一瞬にしてその場の全ての生徒を味方につけてしまった。

 そう感心するヨウに、ノリコはなぜかまっすぐ歩み寄ってくると、笑みを浮かべたまま尋ねてきた。

「ところでマサムラ君、先ほどは女子学生との関係について何かと噂になっていたようですね?」

「え? あ……はい、そうみたいです」

「そうですか。それでは放課後、そのことについて生徒会室で少しお話を伺いたいと思います。よろしいですね?」

「は、はい……」

 ノリコの目が笑っていないことに気づき、ヨウの背筋を悪寒が走り抜ける。これは……もしかして、いろいろと疑われている!?

 表面上の笑顔を崩さぬまま、ノリコは再び生徒たちへと向かい合った。

「もしも生徒会の中で問題や疑惑が生じた際には、あたしの責任の下に徹底的に調査いたします。どうかご安心ください」

 ノリコの言葉に、再び周囲から拍手が起こる。

 その拍手に応えながら、ノリコは優雅にその場を去っていった。彼女の説明に納得したのか、集まっていた生徒たちも解散していく。

 後に残されたヨウたちも、互いの顔を見合わせる。

「私、副会長に褒められちゃった……」

「そろそろ戻るか、こいつもいつもの副会長病で使いものにならなくなったし」

「そ、そうだね」

 フィルにうなずきながらも、ヨウの表情は晴れなかった。

 放課後、きっとノリコは僕にあれこれと聞くんだろうな……。いつからこの場にいたんだろう。ヨウのあらぬ噂が立っていたあたりか、それともクラスの女子に囲まれていたところだろうか。


 いずれにせよ、ノリコのあの目を見る限り自分は無事には済まないだろう。重い足取りで、ヨウは教室へと戻っていった。





活動報告などでもご報告しましたが、MFブックス&アリアンローズ 第2回ライト文芸新人賞 MFブックス部門において、本作と私が投稿している『せっかく異世界に転生したので、転移魔法でのし上がる』が無事一次選考を通過しました。『一年遅れ』はこれまでにも何度か一次選考を通過したことがありますが、今回は二次通過となるでしょうか。


今後も頑張っていきたいと思いますので、『一年遅れ』をどうぞよろしくお願いします。

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