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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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2 新体制の発表





 その日の生徒会室は、いつになく落ち着かない空気に支配されていた。ヨウたち一年生のみならず、いや、むしろそれ以上に、二年生たちはどこか浮足立った様子でその時を待っている。

 今日は生徒会メンバーによって特別な日――次期生徒会三役候補の発表日であった。同時に一年生役員の役職も発表される。十月からの新体制がほぼ決まる重要な日だ。

 生徒会三役に推される三人は、三年生役員の話し合いによって決められる。その決定は全会一致を原則とし、選ばれた三人が九月の信任選挙に臨むことになる。

 周りの雰囲気にあてられたのか、ヨウも少しそわそわしながら生徒会室の片隅で待機していた。こちらも落ち着かない様子のカナメが話しかけてくる。

「ヨウ君、何だか落ち着かないみたいだけど? お昼のことなら言わないから大丈夫だよ?」

「ち、違うよ! 発表が気になってるだけだってば!」

「あはは、わかってるわかってる」

「それと、お昼のことは本当に何でもないからね? 変なこと言わないでよ?」

「それもわかってるよ。大丈夫、その話には触れないから安心して」

 笑顔で胸を張るカナメに、ヨウは一抹の不安を覚えながらもあいまいな笑みで返す。

 フィルやチアキたちも交えて気を紛らわせるように雑談をしていると、ソファ席で話し合いをしていた三年生役員たちが会長席へとやってきた。

 会長席の後ろに三年生四人がずらりと並ぶと、タイキ生徒会長が口を開いた。

「さて、みんな集まっているようだね。それじゃ前の方に集合してもらおうか」

 その言葉に、メンバーたちが待ってましたとばかりに会長席の前へと集まってくる。前の列には二年生、後ろの列には一年生が並ぶ。三年生補佐の面々は三年生役員の両側に集まった。

 全員が集まったことを確認すると、タイキはメンバーに向かって話し始めた。

「さて、今年もこの日がやってきました。思えば去年の今頃、僕たち三年生も今の君たちと同じように先輩たちの発表を待っていたものでした……と、そんな話はいらないね。それではさっそく発表に移るとしよう」

 発表と聞いて、わずかにざわめいていた一同がぴたりと静まり返る。

 特にもったいぶるでもなく、タイキが言葉を続けた。

「まずは生徒会長からだ。我々三年生は、ノリコ・ミナヅキさんを生徒会長に指名する」

 その瞬間、生徒会室は割れんばかりの拍手に包まれた。若干恥ずかしそうに頬を染めるノリコに、周りから祝福の言葉が送られる。三年生の判断が満場一致で受け入れられているのは明らかであった。

 場の熱気も冷めやらぬ中、その他の役職も発表される。

「生徒会副会長にはイヨ・タチカワさんを、会計にはイッペイ・キノシタ君を指名します。ミナヅキさんは言うまでもなく生徒会、いや学院史上最高水準のその実力に期待して指名しました。タチカワさんはその冷静な判断力とサポート能力を、キノシタ君は会計補としての経験と各方面との調整能力をそれぞれ買っての指名です」

 タイキの説明にヨウも納得の表情を浮かべる。会長が言う通り、次期生徒会を担うのにふさわしい顔ぶれだ。

 発表を受け、周囲を祝いの言葉が飛び交っていた。隣にいたチアキも、前に立つノリコに抱きつかんばかりの勢いで迫る。

「副会長! 会長指名おめでとうございます! ついに会長になられると思うと、私感激です!」

「ありがとう、チアキちゃん。でも、まだ信任選挙もあるから気は抜けないよ?」

「はい! もちろん私も死ぬ気で信任選挙をサポートさせていただきます!」

「相変わらずだね、チアキちゃんは。おめでと、ノリコ。自分のマスターが会長とは、私も補佐として鼻が高いよ」

「ありがと、アキホ」

 ノリコの補佐のアキホ・ツツミも、嬉しそうにノリコの肩を叩く。ヨウも一声かけようとすると、ノリコがこちらを振り向いてVサインを送ってきた。

「ヨウちゃんヨウちゃん! あたし会長だって! どう、凄いでしょ?」

「うん、凄いね。おめでとう、ノリコ」

「ありがとう! ごめんねヨウちゃん、会長の座奪っちゃって」

「いやいや、初めから僕は対象じゃないから」

 子供のようにはしゃぐノリコに、ヨウの頬も自然にゆるむ。昔からノリコは周りから褒められると恥ずかしそうに頬を染め、それからヨウを見つけてははしゃいで喜びを露わにするのだった。それはもちろん本心なのだろうが、一方では、それはヨウに向かいはしゃいでみせることで照れや気恥ずかしさをごまかすノリコなりの方法なのかもしれなかった。

 ある程度場が落ち着いてきた頃合いを見計らって、タイキが再び口を開いた。

「では次に、一年生の役職を発表したいと思います。こちらは例年通り、二年生と一緒に話し合って決めました」

「おお、来た来た」

 フィルが待ってましたといわんばかりにつぶやいた。相変わらずこの手の話は大好物らしい。まったく、野次馬根性というか、彼のそういうところには感心する。

「まず生徒会会計補には、チアキ・シキシマさん。彼女の真面目さ、勤勉さとその明晰な頭脳を鑑み、この役職に任命しました」

 タイキの言葉に、チアキが恥ずかしそうにうつむく。面と向かって褒められることにはあまり慣れていないらしい。ヨウが一言「おめでとう」とつぶやくと、チアキはこちらを見ることなく「ありがと」とうなずいた。

「次に、生徒会書記にはカナメ・イワサキ君。高位の精霊と契約を結んでいる実力に加え、みんなを影で支える誠実な仕事ぶりを評価しました」

 うんうん、カナメ君が書記か。納得の表情でヨウは一人うなずいた。ゆくゆくは副会長となって生徒会を切り盛りすることが期待される重要な役職だ。彼なら実力から考えて申し分ない。

 ということは、生徒会長につながるポストである会長補佐に任命されるのはアキヒコ君か。ちょっと意外だけど、彼も生徒会の役員として立派に働いてきた。きっと会長補佐の仕事もしっかりこなしてくれるだろう。

 がんばってね、アキヒコ君。同じ一年生役員のアキヒコ・セリザワを見つめながら心の中でエールを送っていたヨウの耳に、タイキの声が聞こえてきた。

「そして会長補佐には、ヨウ・マサムラ君を任命します。彼の能力の高さは、生徒会で共に仕事をしてきたみんななら全員よくわかっていると思う」

 前を向いたヨウは、思わず左右に立つフィルとチアキの顔を交互に見る。

「……僕?」

「他に誰がいるってんだよ」

「納得の人選ね。副会長を補佐するのなら、どう考えてもあなたが最適でしょう」

 さも当然と言わんばかりに二人はうなずいた。会長補佐を務める者は次期会長の最有力候補だということを、この二人は本当にわかっているのだろうか。

 カナメもヨウに声をかけてきた。

「ヨウ君、おめでとう。僕が会長補佐になれなかったのは悔しいけど、ヨウ君がなるのなら悔いはないよ」

「僕はカナメ君がなるとばかり思っていたんだけどね」

「あはは、なぐさめてくれなくてもいいよ。これからも一緒にがんばろうね」

「うん、よろしく!」

 そう笑って、二人固く握手を交わす。

 そしてもう一人、ヨウが会長補佐になるということの意味をよくわかっていなさそうな人物が声をかけてきた。

「ヨウちゃん! 会長補佐おめでとう! これからよろしくね!」

「う、うん、よろしく」

「あたしの補佐になったからには、これからは容赦なく働いてもらうからね。覚悟しててね?」

「どうかお手柔らかにね」

 そんな彼らに、生徒会の面々からあらためて拍手が送られる。

 選ばれた以上は、しっかりと自分の役割を果たさねば。周囲の祝福を受けながら、ヨウは一人決意を新たにするのだった。




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