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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
76/135

33 新手





 チアキたちを囲むように展開する黒い人影が、刻一刻と深まっていく闇へと溶け込んでいく。明確な敵意を放ちながら、影はじわじわとその間合いを詰める。

 もっとも、チアキたちにはそれほど慌てた様子はない。隣のカナメに視線を向けると、涼しい顔で言う。

「カナメ、あなたは何人いける?」

「そうだね、五、六人ってところかな」

「私もそんなものね。向こうが二十、こちらが四人だからちょうどいいわ」

「あ、そろそろ来るね」

「生徒会の力、見せてやろうじゃない」

 そう言って二人うなずくと、背中合わせになって敵の襲撃に備える。初めてと言っていい実戦だというのに、自分が不思議なほど落ち着いていることにチアキは少々驚いていた。厳しい訓練に裏付けられた自信がそうさせるのか。

 闇に紛れ、黒い影が少しずつ迫ってくる。

 そして、影は波となって押し寄せてきた。

 弾かれたかのようにカナメから離れると、チアキは敵の中へと飛び込んでいく。影からは一斉につぶてが投げつけられた。うなりを上げて迫りくるつぶてを前に、チアキは片手を正面に突き出すと、手のひらに精霊力を集中させる。

 直後、チアキの手のひらの前に赤茶色の岩のような盾が出現した。地の精霊術、『大地の大盾アース・シールド』だ。彼女を襲ったつぶてが、その盾の前に空しく弾き返される。

 それに怯むことなく、黒い影がチアキへと殺到してくる。その数六つ。そのうちの二人がチアキの目の前まで迫ると、振り上げた剣を躊躇なく振り下ろす。わずかに残る夕日の光を浴び、刃が不吉にきらめく。

 だが、振り下ろされた先にチアキの姿はなかった。苛立たしげに顔を上げた影の眼前に、少女の引き締まった足首が迫る。

 チアキが放った蹴りは影の顔面を綺麗に捉え、そのままその身体を吹き飛ばしていく。返す一閃でもう一人の鳩尾をえぐり、瞬く間に二人を戦闘不能へと追い込んだ。

 それに怯むことなく、残る四つの影がチアキを襲う。殺意に満ちた剣を軽やかにかわしながら、チアキがそのしなやかな脚を鞭のように繰り出す。そのたびに、プリーツのスカートがひらりとはためく。

 敵の身のこなしから察するに、相当訓練された者たちのようだ。純粋に体術だけで戦うならば、苦戦は免れなかったかもしれない。体術だけ、なら。

 影が振るう剣に、チアキの袖口から突如現れた触手のようなものが巻きつく。動きが止まったところに、すかさず鋭い蹴りが叩き込まれる。

 迫りくる影たちも、突如階段を踏み外したかのように姿勢を崩す。いや、実際彼らの足元にはちょうど階段一段分ほどの窪みが出現していた。チアキが地の精霊術を行使し作り上げたものだ。

 チアキにはそのわずかな時間で十分だった。一瞬動きが鈍った敵に、次々と一撃を加えていく。気づけば彼女の周囲には六体の影が転がっていた。

「ふう……やっぱり格闘系の相手には、こういうのが効くわね」

 一息ついて、チアキが周囲を確認する。どうやら他のメンバーも一段落したようだ。カナメがこちらへと駆け寄ってくる。

「大丈夫だった? チアキさん」

「愚問ね。ご覧のとおりよ」

「本当だ。連中、見事にのびてるね」

 チアキの周囲に転がる影に、カナメが感心する。向こうからは、二年生が手を振って安否を確認してきた。大丈夫です、と返事をする。

「それにしても、いったい何者なのかしら? 彼ら」

 地面に伏す影を見下ろしながら、チアキは首をひねった。どうやら精霊術の心得はないようだが。

「彼ら、僕らを狙ってたのかな」

「どうかしらね。生徒会にこれほど殺意を向けるなんて、普通じゃないと思うのだけど」

「そっか、学院の関係者なら生徒会が活動停止したら困るんだったね」

「そういうこと。となると、彼らは……?」

「ひゃあ、全員やられちまったよ。まだガキだってのに、生徒会ってすげえのな」

 唐突に聞こえてきた声に、チアキたちの思考は中断された。声の方向を見れば、木陰から二人の男がこちらを見つめている。一人はいかにも軽薄そうな若い男、もう一人は四十歳前後であろうか、長身で中肉の重厚な雰囲気をまとった男だ。

 その時、彼らからなじみ深い力の波動が伝わってくることにチアキは気づいた。精霊力の流れだ。ということは、彼らもまた精霊術士なのか。

 カナメもそれに気づいたらしく、再び全身に緊張をみなぎらせていく。男たちの側に近い二年生の二人は、先ほどより遥かに厳しい顔つきで戦闘態勢に入る。

 出し抜けに、若い男が声を上げた。

「大将! こいつらどうします? てか、オレがヤっちゃっていいっすか?」

「やめろと言っても、言うことを聞くつもりはないんだろう?」

「へへ、よくご存知で。さっさとここを片づけないと、あいつらだけじゃ荷が重いでしょうからね。てか、こんなガキどもオレ一人で十分なんだけど!」

 そう言うと、若い男が木陰からこちらへとふらふら近づいてきた。チアキの身体に緊張が走る。

 あの二人、さっきの相手とは格が違う。チアキは直感でそれを感じ取っていた。正直、あの若い男一人だけでもここにいる四人より強いかもしれない。

 だからと言って、何もせずに引くわけにはいかない。カナメと視線を交わすと、チアキは己を奮い立たせるかのように大きな動作で構えをとった。





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