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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
71/135

29 アキホの助言






 やはり、今日は身体が相当つらい。

 午前中は精霊力容量の強化を中心に訓練したのだが、昨日コツをつかんだはずなのに疲労が尋常ではない。訓練を終えて昼食に向かう頃には、さすがのヨウも疲労困憊といったありさまであった。

「さすがのヨウ君も、今日ばかりはお疲れのようだね」

 昼食を終え、一度部屋へと戻ろうとしていると、アキホが声をかけてきた。

「あ、アキホ先輩。ええ、やっぱり僕疲れてたみたいです」

 ヨウの言葉に、アキホは不満そうに頬を膨らませた。

「だーめ。今は二人っきりなんだから、アキホ、でしょ?」

「あ、はい……」

「はい、じゃなくて、うん。もー、どうしてノリコとのようにいかないかなあ」

「すみませ……ごめん」

 ほとんど口から出きった言葉を飲みこむようにして、無理やり発言を訂正する。アキホはそう言うが、こちらだって大変なのだ。ノリコと三人のときは比較的うまく話せるのだが、二人きりとなるとなかなか調子がつかめない。

 そんなヨウの苦労など露知らず、アキホは健康的な笑顔を見せながら言った。

「ノリコも今日はクタクタだったみたい。後でしっかりなぐさめてあげないとダメだよ?」

「は……うん、でもどうすればいいんだろう?」

「そんなの決まってるよ」

 いたずらっぽく笑うと、アキホはヨウの後ろに回り、肩に手を置いた。

「こうやって、優しく肩もみしてあげれば喜ぶよ」

「あ、確かにいいかも……」

 意外にも巧みなアキホの指使いに、思わずヨウもうっとりする。アキホも気をよくしたようだ。

「それで、ノリコの身体から力が抜けたところで……わしっと!」

「うわっ!?」

 そんなことを言いながら、アキホはヨウの胸のあたりに手をかけて一気にすくい上げるようにつかみかかってきた。慌てて彼女の身体を引きはがす。

「な、何するんですか!」

「きゃは、ヨウ君女の子みたい! こうすればノリコもイチコロだって!」

「僕はノリコにくつろいでもらう方法を聞いていたはずなんですけど!?」

「固いこと言わないの。ノリコが喜ぶなら、それでオッケーじゃない」

 ぺろりと舌を出しながら言うアキホに、ヨウは(まったく、この人は……)とがっくりと肩を落とす。自分はノリコに振り回されがちだと思っていたが、この人はその比ではない。いや、よく考えてみればチアキも結構つかみどころがないし……。ひょっとすると、女の子というのはそもそもそういう存在なのかもしれない。

 そんなことを思っていると、アキホがさらに続けてきた。

「それともヨウ君、いきなりは緊張する? よし、だったらノリコの前にまず私で練習しなよ、ほら!」

 そんなことを言いながら、形の良い胸を突き出してくるのだ。赤面しながらヨウが返す。

「しませんよ! と言うか、どうして肩もみの話からそういう話になるんですか!」

「ほら、興奮するとすぐ口調が戻っちゃう。そういうの、よくないぞ?」

「誰のせいですか!」

 ひとしきり言い終えると、ヨウは一つため息をつく。この人、絶対僕をからかって楽しんでるよね。まったくもう。

 そんなヨウに、アキホはごめんごめんと笑う。

「そう怒らないでよ。ヨウ君がお疲れのようだから、気を紛らわせてあげようと思っただけなんだってば」

「本当に……?」

「ホントホント。この通り、信じてよ。ね?」

 両手を合わせてウィンクしてみせるアキホに、ヨウも「わかったよ」とため息混じりにうなずく。先輩に対する態度ではないなと思うが、このくらいはしないとわかってくれそうにもない。いや、このくらいではきっと気にも留めないであろうが。

 そんなヨウの予想通り、アキホはまるで気にした様子もなく隣に並ぶ。

「でも私、ちょっと安心したよ」

「安心?」

「うん。ヨウ君でもやっぱり疲れるんだなあって」

「それはそうだよ。僕、人間だよ?」

「でも、今朝はケロリとしてたじゃない。ノリコはあんなだったのに。君って底なしなのかと思ったけど、ちゃんと疲れも知ってるんだね」

「そりゃ、相手がノリコだったんだもん。僕だって、あれだけ力を使ったのにこうしていられるのが不思議なくらいだよ」

 実際その通りだと思う。ノリコの成長は想像以上だった。昨日、もし最後の一撃を放つことができていたら、きっと今頃はここまで動けはしなかっただろう。

「ノリコの話って、惚れた弱みで盛ってるのかと思ってたけど、こうして見るとやっぱり本当だったのかなって思えてくるよ。昨日もずっと『ヨウちゃんに手加減された!』って言ってたし」

「そんなこと言ってたんだ……って、何ですか、惚れた弱みって!」

「ヤだなあヨウ君、すっとぼけちゃって。わかってるくせに~」

「だから僕たちそういう関係じゃないですって!」

 これで何度目かというやり取りに、つい声を荒げてしまう。

 そんな彼に、アキホはウィンクしながら言う。

「はいはい、それじゃ午後もがんばろうね。ノリコの方は私が見てるから、安心して訓練に専念してね」

「はい、それはよろしくお願いします。昼食のときも彼女フラフラでしたから」

「そうだね、思い人のことは私にまっかせなさい! それじゃ、また後でね!」

「はい……って、だ~か~ら~……」

 ヨウの抗議には取り合わず、アキホはすたすたと女子部屋の方へ行ってしまった。一人取り残されたヨウは、やれやれとため息をつきながら部屋へと戻っていく。

 事実上の最終日ということもあり、一、二年の午後の訓練は調整程度になるそうだ。疲れはあるけれど、とりあえず無事に合宿を終えることができそうかな。そんなことを思いながら、ヨウはフィルとマナブの激論が漏れ聞こえてくる一年生部屋へと入っていった。

 



 


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