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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
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26 先輩との別れ







 夕食を終え、ヨウたち生徒会メンバーは施設の玄関へと集まっていた。タケルとナツミを見送るためである。

 外はすっかり暗くなり、潮の音と匂いが遠くから流れてくる。帝都のように街路灯が灯っているわけでもないので、二人は手元の灯籠を頼りに夜道を歩く事になる。町まではそれほどの距離があるわけではないが、いささか心細い道のりであることは間違いない。

 せっかく遊びに来たのだから、今日は泊まって明日早くに戻ればいいのではとヨウなどは思うのだが、彼らもそういうわけにはいかないらしい。もしかすると、こうしてここに来る事自体、かなり無理をして予定に組み込んだのかもしれなかった。

 そして、その推測は当たらずとも遠からずといったところだったようだ。

「まったく、今日のうちに戻らなきゃならないなんて、働くってのは大変だよ。俺もひとっ風呂浴びてここでゆっくり寝ていきたいんだけどな」

「せめて露天風呂くらい入っていけばよかったよね。対抗戦が盛り上がりすぎて、ついつい忘れちゃってたよ」

「ははは、休暇が取れたら改めてこちらに遊びに来ればいいでしょう」

「わかってないなタイキ、俺はお前らと裸の付き合いをしたかったって言ってるんだよ」

 そう言って、タケルはヨウの方を見る。

「お前らみたいなかわいい後輩もいる事だしな。ああ、でも」

「でも?」

 聞き返すヨウに、タケルがニヤリと笑いながら言う。

「ヨウ、お前は見た目は華奢だしな。ナニの方もそうなのか確かめてやりたかったぜ。先輩の偉大さってのを教えてやるいい機会だったのにな」

「えっと、それは……」

 ニヤニヤ笑うタケルに、ヨウは赤くなりながらうつむく。その様子をどう解釈したのやら、タケルがヨウの肩に腕を回してばしばしと叩く。

「いやいや、冗談だよ冗談! 男の魅力ってのは、それだけで決まるもんじゃないからな! 気にするな!」

 大層気分良さそうにがははと笑うタケルであったが、カナメが思い出したかのようにつぶやいた。

「あ、でもヨウ君は凄い立派なモノを持ってるよね。僕らの中じゃ断トツだったし、そっちの方もとっても男らしくて羨ましいよ」

「な、何だと!?」

「ちょっと、カナメ君!?」

 友人の不意打ちに、ヨウの声が裏返りかける。どうかした? という顔をするカナメに、タケルは慌てた様子で問いただす。

「おいカナメ、その言葉、本当か!?」

「え? ほ、本当ですよ?」

「どのくらいだ! 一体どのくらいのデカさなんだ!」

「えっと……ざっとこのくらいはあったと思います」

 我に返ったヨウが止めようとするが、時すでに遅し。カナメが両手のひらで大きさを示すと、タケルのみならず、おもしろがって聞いていたマサトやカツヤたちからも驚きの声が上がる。

「なっ!? そんな、まさか、いやしかし……」

「ウソだろ!? うちにそんな巨砲の持ち主なんていたか!?」

「認めたくはないが、カナメが嘘をつくとも思えん……」

 そんな声に、ヨウは恥ずかしさのあまりこの場から消え去りたい気持ちでいっぱいになってしまう。

 ふと見れば、ノリコが「何の事?」といった顔で不思議そうにこちらを見ている。よかった、わかってないみたい……。

 しかし、少し安心したヨウの目に飛び込んできたのは耳まで赤くして顔を伏せるチアキの姿だった。ど、どうしよう、こっちも気まずくて顔を合わせられない……。

 隣では、カナメが無邪気に話し続けている。

「ですから、ヨウ君とお風呂に入ったら先輩もきっと自信なくしちゃいますよ。ヨウ君は強いだけじゃなくて男としても立派なんです。僕も見習わないと」

「マ、マジか……。頭はいいわ、腕は立つわ、おまけにナニも超ド級だわ……」

 帝国海軍が誇る最新鋭の超巨大戦艦、土玉どぎょくに自分の一物を例えられ、ヨウはいよいよ顔から火を噴き出しそうになる。一体どうしてこうなってしまったのか。

 それからしばらくの間、ヨウは呆然自失気味に立ち尽くしていた。タケルとナツミはタイキたちと何やら話をしているようだが、ろくに耳に入ってこない。

 そのままぼうっとしていると、タケルに声をかけられた。

「ヨウ、おい、ヨウ」

「あ……はい、すみません」

「どうしたんだ、ぼーっとして。俺たちそろそろ行くぞ」

 タケルの言葉に、ヨウが我に返る。

「先輩にはお世話になりました。ありがとうございます」

「いや何、かわいい後輩のためだからな。精霊術の事ならお前にも教えられるから、気にせず聞いてくれるといい」

「はい、とっても参考になりました」

 笑顔で答えるヨウのまなざしに、タケルが少し目をそらす。

「お、お前、相変わらず素直な奴だな……。そんな純粋な瞳で俺を見るな、何だか凄く申し訳ない気分になってくる」

「ええっ? 何ですか、それ」

 不服そうに言うヨウに、タケルはふいに顔を近づける。

「ところでな、ヨウ。お前さんに、最後に聞いておきたい事があるんだが」

「はい? 何でしょう」

 いぶかしむヨウの耳元で、タケルが囁いた。

「お前、結局のところノリコちゃんとチアキちゃんのどっちが本命なのよ?」

「は、はあ?」

 うろたえるヨウに、タケルが人の悪い笑みを浮かべる。

「今さらとぼけるなって。いやな、さっき夕食の時ノリコちゃんが怒ってあっちいったろ? あの時チアキちゃんがずっと複雑そうな顔で見てたからさ」

 あの状況で、そんなところまで見ていたのか。何と言うべきか、現役の精霊術師の視野の広さと観察眼には頭が下がる。

 そんな事を思いつつ、ヨウは反論を試みた。

「それはきっと、ノリコが僕を持ち上げるのが不服だっただけですよ。彼女はあの通りのノリコ信奉者ですから」

「いいや違うね。あれは心惹かれる異性と崇拝する先輩が仲睦まじくやってる様子を目の当たりにして、内なる葛藤にさいなまれている顔だったぜ。お前も罪な奴だな」

「そうかなぁ……」

 首をかしげるヨウに、タケルは笑いながら肩を叩く。

「まああれだ、男と女っていうのはいろいろあるからな。時間はあるんだろうから、じっくりと選べや。先輩からのささやかなアドバイスだ」

「は、はあ……」

 どう反応していいかわからず戸惑っていると、タケルは一際強くヨウの背中を叩いて言った。

「まずは学院生活、がんばれ! 俺たちも軍で待ってるからよ。また会える日を楽しみにしてるぜ!」

「は、はい! 僕も楽しみです! がんばります!」

 笑ってうなずくと、タケルはナツミと並んで生徒会メンバーに別れの挨拶を述べる。そしてメンバーに見送られながら、手元の灯りだけを頼りに闇夜の道へと消えていった。

 灯りはみるみる小さくなり、やがて闇に飲まれて見えなくなる。見渡す限りの闇の中、にわかに強まってきた風が海辺からの潮の音と混じりあい、不気味な音色を響かせていた。





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