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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
66/135

24 激闘の果てに





 空間に満ちていた精霊力と魔力の残り香が散っていく中、鳴り響いていた警告音がようやく止まる。

 その場に立ち尽くしていたヨウの頭が、少しずつ回転し始めていた。

 ノリコの攻撃は防御魔法で全て防いでいた。にもかかわらず指輪が反応したのは、おそらく弾いたはずの精霊術の余波があまりに強力だったからだろう。ヨウが問題ないと判断したその余波は、指輪にとっては危険域だったというわけだ。思わぬ事態に、ヨウは思わず天を仰ぐ。まさかそんな落とし穴があったとは。ノリコの精霊術はそれほどの威力だったという事か……。

 思いを巡らせているヨウの頭上から、激しい鈴の鳴り響く音が降り注いだのはその時だった。

「ずっるーい! ヨウちゃん、手ぇ抜いたでしょぉぉーっ!」

「え、ええええっ!?」

 慌てて声の方を見ると、顔を真っ赤にしたノリコがペガサスにまたがり地上へと降りてくるところだった。その目は実に不服そうに燃えている。

 ヨウの目の前にペガサスが降り立つと、その背から飛び降りたノリコがヨウにずかずかと迫る。

「ヨウちゃん、本気でやろうって約束したじゃない! どうして最後、わざと負けちゃったの!?」

「わ、わざとじゃない! わざとじゃないよ! あれをしのぎきったら反撃するつもりだったんだ! 証拠に、あの時ノリコは一瞬無防備だったでしょ?」

「ごまかしたって無駄だよヨウちゃん。どうせまたあたしがケガするといけないからーとか言ってそういう状況作ったんでしょ? 他のみんなはごまかせても、あたしの目はごまかせません!」

「ほ、本当なのに……」

 猛然とまくしたてるノリコに、反論を半ば諦めたヨウはがっくりと肩を落とす。

 そんな二人に、観客から拍手が送られる。

「さすがだよ、お前ら! 来年の生徒会もこれで安泰だ!」

「副会長、素敵でした!」

「ヨウ、お前ってホントスゴい奴だったんだな!」

 そんな言葉に二人が照れていると、マサトが遠慮のない声を投げつける。

「ヨウ、お前いよいよノリコに頭が上がらないな! たまにはガツンとやっておかないと、本格的に尻に敷かれちまうぞ!」

「なっ、先輩何を言って!?」

「そ、そうですよ! あたし尻になんて敷きません!」

 二人は一時休戦し、顔を赤く染めながらマサトに反論する。

 だが、それがさらに油を注ぐ結果になってしまった。

「いやあ、あの二人は息もピッタリだな!」

「そりゃそうですよ、幼なじみなんですから」

「文句なしのベストカップルだな!」

 ギャラリーの好き勝手な発言に耐えきれなくなったのか、ノリコがヨウを指さして叫ぶ。

「と、とにかくヨウちゃん! この屈辱はいつか晴らさせてもらうからね! 覚悟してなさい!」

「えっ、ええ!?」

 捨て台詞を吐くと、ノリコは二年生の方へと走り去っていく。

 その場に一人取り残されたヨウも、冷やかしの言葉を浴びながら仲間たちの下へと戻っていった。




「やれやれ、結局勝ったのは私だけね。まったく、みんなだらしないんだから」

「面目ない……」

 ヨウが戻るや開口一番、チアキがそんな事を口にする。苦笑するヨウに、チアキも笑みを返した。

「冗談よ。あなたが無事でよかったわ。あの副会長が相手なんですもの、ケガがないだけでも賞賛に値するわよ」

「ありがとう、チアキ」

「べ、別に……」

 少し顔を赤らめて、チアキがそっぽを向く。その横で、一際悔しそうな声が上がった。

「し、しまったぁぁぁぁっ! バトルがあまりにスゴすぎて、副会長のパンチラ見るの忘れてたぁぁぁぁあ!」

「そっ、それがしもですぞぉ! な、何たる不覚!」

 フィルとマナブの悲痛な叫びが無駄にこだまする。そんな二人に、ヨウの胸にふといたずら心が湧き上がる。

「ちょっと二人とも、ノリコの下着ばっかり気にして僕の事は心配してなかったの?」

「え!? い、いや!? つーか言っただろ? お前が心配でそれどころじゃなかったんだって!」

「何でそんなに慌ててるの?」

「あ、慌ててねーよ! な、マナブ!」

「そ、そそそそうですぞ!? ヨウ殿の事は片時も忘れておりませぬ!」

 必死に弁解する二人に、ヨウも思わず吹き出してしまった。

「あっはは、ごめんごめん! 冗談だよ! だって二人ともあんまり悔しそうにしてるからさ!」

「そ、そうか? よかった……。つーか、ヨウも人が悪くなってきたな」

「まったくですな。ヨウ殿とカナメ殿は純粋なままでいてくれないと。お二人は生徒会の良心なのですぞ?」

 ほっと一息つくと、フィルがぼそりと言う。

「ヨウもだんだん毒されてきたよな……。やっぱり近くに性格の悪い女がいると、それがうつっちまうのかね……。クラスメイトで生徒会とか、逃げ道ないもんな」

「それは誰の事なのかしら?」

「ひっ!? チ、チアキ!?」

 いつの間にかそばに立っていたチアキの視線に、フィルが冷や汗を流す。

「や、やだなあチアキさん! 誰もお前の話なんかしてないですって!」

「ふーん……。ヨウのクラスメイトの生徒会メンバーの女って、私以外に誰がいるのかしら……?」

「ちっ、聞こえてやがったのかよ。相変わらず地獄耳だな」

「何ですって!?」

 フィルとチアキが開戦したその脇で、カナメがヨウに声をかけてきた。

「ヨウ君、おつかれさま。凄かったよ、さっきの戦い」

「あ、カナメ君。うん、ありがとう」

「惜しかったね、あと少しだったのに」

「仕方ないよ、ノリコは強かったしね」

「うん、さすが副会長だよね……。でも、その副会長にあそこまで迫るなんて、やっぱりヨウ君は凄いや」

「そ、そんな事……ありがとう」

 気恥ずかしくて少しもじもじしながらうなずく。もしかすると、今自分の顔はかなり赤くなっているかもしれない。

「いや、ホントお前は凄い奴だぜ」

 二人の頭の上から声がかけられる。ヨウとカナメが見上げると、そこにはタケルの顔があった。カツヤとミチルの姿もある。

「ヨウ、お前オレとの戦いは凄い手加減してたんだな……。さすがのオレも、自信失くしちまいそうだぜ……」

「何情けない事言ってんのさ。でもホント大したモンだよ。これもあたしに日焼け止め塗ったおかげかねぇ……」

「そ、それは関係ありませんよ! 絶対!」

 顔を真っ赤にしてヨウが反論する。そんなヨウを見て、「かわいい子だねえ」とミチルが笑う。

 と、タケルがヨウの首に腕をかける。何事かと戸惑うヨウの耳元に、タケルが小さくささやく。

「お前、さっきのは本当は勝てたんだろ?」

 どうやら彼はあの時何が起こったか気づいているようだ。

「は、はい、多分……。攻撃は防ぎ切ったと思ったんですが、指輪の方が反応しちゃって……」

「そんなところだろうな。でもみんなはヨウが素で負けたと思ってるみたいだぜ?」

「そ、それはその、別にそれでいいんです。むしろその方が、ノリコもあきらめがつくでしょうから」

「ああ、なるほど」

 そう言ってタケルが二年生の方を見る。向こうではノリコがチームメイトやタイキ、ヒサシに、ヨウが直前で手加減したと主張していた。

「あの子も、ずい分とお前さんを立てるよな。もはや崇拝に近くないか?」

「僕もそう思います……」

 たははと笑うヨウに、タケルも何やら憐みのこもった目を向ける。

 そんな調子でわいわいとやっていると、ミチルが笑いながらマサトに話しかけた。

「それにしても、今年の対抗戦はおもしろかったねえ。最後にいいものも見れたしさ。」

「そうだな、あの二人が別次元の強さだって事がよくわかった」

「ホントだね。しっかし痛快だね、結局女子は三人とも勝ったわけじゃないか。こりゃ来年の生徒会はかかあ天下だろうねえ」

「ははは、違いない! 男どもは女の尻に敷かれないようくれぐれも気をつけるんだな! もっとも、エースのヨウがこの調子じゃそれは難しいか!」

「いいじゃないか。来年はノリコが会長だろうし、そのくらいの方がやりやすいさ。まあ、あんたは嫁のフォローをしっかりやるんだよ!」

「だから、僕たちそんなんじゃないですって!」

 ヨウの叫びに、仲間たちから笑いが湧き上がった。


 こうして、今年の対抗戦はその幕を下ろした。







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