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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
62/135

20 カナメ対イヨ




 緒戦を見事勝利で飾った一年生チーム。士気も高く第二戦に臨んだが、二番手のアキヒコ・セリザワは二年生のショウタ・ヨシダの前にあえなく敗北を喫した。

「アキヒコ君、お疲れ様!」

「惜しかったわね」

「ケガはない?」

 ヨウたちの声に、アキヒコが無言でうなずく。顔には出さないが、こう見えて案外悔しいのかもしれない。

 カナメも同じ事を思ったのか、一つ気合を入れた。

「よーし、アキヒコ君のかたき、取るぞぉ!」」

「頑張ってね、カナメ君!」

「期待してるわよ、カナメ!」

「カナメ殿! 先輩たちに目にもの見せて下され!」

 ヨウたちの声援を受け、カナメがグラウンドの中央へと出る。

 ほぼ同時に、二年生の側からは書記のイヨ・タチカワが前に出た。水の精霊使いという事もあり、火の精霊使いであるカナメにとっては本来相性の悪い相手だ。

「だけど、カナメ君はグロウサラマンダーの使い手だからね」

「そうね、精霊力だけならカナメの方が上かもしれないわ」

 ヨウの声に、チアキもうなずく。

 そんな二人の会話に、割って入る声があった。

「カナメはまだまだグロウサラマンダーを使いこなせてはいないけど、それでも一発の威力はあるからな。これはひょっとしたら、一年生の勝ち越しなんて事もありうるかもな」

 二人が振り向くと、そこにはカツヤとミチルの顔があった。二人とも実に楽しそうにグラウンドのカナメとイヨを見つめている。

「先輩もそう思いますか」

「ああ。澄ました顔してるが、イヨも内心冷や汗ものだろうな。もっとも、あいつが何も対策を練っていないとも思えないがな」

「イヨはあれで負けず嫌いだからねえ」

 そう言いながら、ミチルは二人にウィンクしてみせた。

「百聞は一見にしかず、ってね。まあ、まずはじっくり見てみるといいよ」

「はい」

 ミチルの言葉に、二人はそろってうなずいた。



 生徒会メンバーが見守る中、審判がカナメとイヨの下に歩み寄っていく。

 二人が指輪をはめている事を確認すると、彼はその場から離れて、それから腕を上げた。

「始め!」

 その声と共に、カナメは横方向に駆け出す。

「遠慮はしませんよ! 先輩!」

 そう言って、カナメが精霊を召喚する。彼の背後に現れたのは、カナメよりも大きいであろう巨大な火トカゲ。火の中級精霊グロウサラマンダーの出現に、観客からも歓声が上がる。

「おお、あれがカナメのグロウサラマンダーか。どれどれ」

 ヨウの後ろから、タケルが前の方へと身を乗り出す。生徒会のOBとして、どうやら見逃せないようだ。

「あの大物をどのくらい使いこなせるか、お手並み拝見といくか」

「カナメ君は凄いですよ! 彼の精霊術は、それはもう凄いんです!」

「……お前、ホントに894点なのか……? 何言ってるのか全然わからんぞ……?」

「すみません先輩、ヨウは興奮すると、だいたいこんな感じなんです」

 力説するヨウに代わり、チアキが詫びる。

 そんなやり取りをしている間に、グラウンドではカナメが仕掛けていた。

「行きます!」

 気合と共に、カナメの手からいくつもの炎が放たれる。相手を焼き尽くす炎の矢、『炎熱の矢ファイア・アロー』だ。

 自身へと迫りくる炎の矢を、しかしイヨは慌てずに正面から受け止める。左手をかざした彼女の目の前に、水鏡のごとき水の壁が現れ、激突した矢が水を蒸発させながら消えていく。カナメの手から放たれた矢は、そのことごとくが水の壁によって阻まれてしまった。

「さすがね、カナメ君。でも、その程度では私は隙なんて見せないわよ」

 壁の向こうでイヨが笑う。水面が揺れてその笑顔が波打っていくのは、何とも不思議な光景であるようにヨウには思われた。

「もちろん、まだまだこれからですよ」

 そう言うと、カナメは再び駆け出しながら炎の矢を繰り出し、あるいは中位精霊術『炎熱の投槍ファイア・スピア』を繰り出す。

 眼前の戦いを固唾を飲んで見守っているヨウの後ろで、カツヤがつぶやいた。

「イヨの奴、さすがだな。ヘタに動かずに、カナメの攻撃に冷静に対処してやがる。守りに徹した時のあいつはホントにしぶといな」

 ミチルもその言葉に同意する。

「カナメはああやってイヨの隙を作って、ベストな形で『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』を打ち込もうとしてるんだろうけど、イヨはそれを許さないだろうね。時々カウンターで『氷晶の投槍アイス・スピア』なんかを放ってるだろ? うっかりもらったら痛いからね。カナメが焦れるのを待ってるんだよ」

「なるほど。でも、カナメ君が痺れを切らしたら、わざわざ『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』を呼び込んじゃう事につながりませんか?」

「そうさね、という事は、何か『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』への対策があるって事さ」

 楽しそうに言うミチルに、ヨウもうなずく。ミチルに聞くまでもなく、彼もその結論に達していた。カナメ君、気を付けた方がいい。イヨ先輩は、きっと何かを狙っている。

 ミチルの指摘通り、カナメの顔には徐々に疲労と苛立ちの色が見え始めていた。対するイヨは平然とした顔でカナメの攻撃を処理し続けている。


 そして、ついにカナメが動いた。足を止めると、周囲に精霊力の流れを巡らせ始める。その力は炎へと姿を変えて、カナメの周囲を取り巻いていく。

 対するイヨもまた、その場でカナメと正対して精霊力を高めていく。まさか、真正面から受け止める気か。

 二年生の側からも、驚きの声が上がる。

「うそ!? 無茶だよイヨちゃん、正面から受けるなんて!?」

 ノリコが叫ぶ。生徒会の選考試験でこの技を受けているだけに、その威力と危険性は誰よりもよくわかっているのだろう。上級生たちも、驚きの展開にうめき声を漏らす。

 カナメの前に出たグロウサラマンダーに、彼の精霊力が集まっていく。精霊がゆっくりと口を開くと、その奥では赤い炎がちろちろと燃え盛っていた。

「おおおおおオオオッ!」

 普段の彼からは想像もつかないような低い雄叫びと共に、グロウサラマンダーの口から炎が激しく噴き出す。火の上位精霊術、『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』。いまだ技としては不完全ながらも必殺の威力を秘めたその炎は、赤い柱となってイヨ目がけ宙を割いていく。

 その炎の柱に向かい、イヨは突き出した手から水を噴き出した。勢いよく飛び出した水流は、しかし真っ直ぐに炎の柱へと向かうのではなく、手元から渦を巻くように放たれた。それはカナメの『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』を包み込むように円錐状に広がっていく。

「な、何だあの形は!?」

 誰かが思わず叫んだ。ヨウも驚きに声が出ない。あれだけの勢いの水流を渦巻き状に制御するには相当の修練が必要なはずである。イヨは二年生の中では精霊力の高さで見劣りすると言われていたが、それを補って余りある制御・運用能力、そして戦闘センスを持ち合わせているようであった。

 水の渦と炎の柱が衝突し、激しい蒸発音がグラウンドに鳴り響く。激しく燃え盛る炎は目の前の水の円錐を内側からえぐり取っていくも、なかなか前へと進めないようであった。

 徐々にその大きさを減じつつも、水の円錐は『炎熱の放射撃ファイア・ブラスト』をしのぎ続ける。カナメの顔にも、焦りの色が見え始める。

「うおおおおぉぉっ!」

 カナメの絶叫と共に、ついにイヨの水の障壁が消し飛ばされる。熱風にあおられ、イヨの上体が大きく揺れる。


 だが、同時に精霊の口からも、炎の噴射が止まった。


「いけない、カナメ君!」

 渾身の必殺技をしのぎ切られ、その場に呆然と立ち尽くすカナメに、ヨウが思わず叫ぶ。

 だが、カナメが正気を取り戻した時には、すでに眼前に氷の槍が迫っていた。

「うわああああぁぁぁ!」

 二本の槍の直撃を受け、カナメががっくりと膝をつく。同時に、けたたましい音がその場に響き渡る。



 一勝二敗。この瞬間、一年生の勝ち越しの可能性は消滅した。









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