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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
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19 対抗戦 初戦




 午後の訓練も終わり、グラウンドでは生徒会名物、一・二年生対抗戦が始まろうとしていた。ヨウたち一年生役員の面々はマサトから対抗戦の概要を聞いているところだった。

 マサトが懐から指輪を取り出し、一年生に示す。

「これが『対精霊術防護の指輪エレメンタル・ガード・リング』だ。こいつは優れものだぞ。ある程度まで精霊術を防いでくれる。しかも一定ダメージで警報がなるってオマケつきだ」

「へえ、凄いですね」

「どのくらいまで耐えられるんですか?」

「ああ、去年ノリコがタイキを叩きのめした時も持ちこたえたからな。まず大丈夫だろ」

 そう言ってマサトが笑う。そんな彼に、ヨウが手を挙げる。

「あの、僕も聞きたいんですけど」

「おう、何だ?」

「精霊術を防ぐって話ですけど、僕の魔法は防げるんでしょうか」

「あ、ああ、どうだろな? なあ、ヒサシ、わかるか?」

 戸惑ったマサトが、近くにいたヒサシに聞く。

「ああ、それなら問題ないんじゃないかな。魔法は精霊を介さずに力を行使する技術だから、力の性質としては同じはずだからね。気になるなら、少し試してみるといい。マサムラ君、指輪をつけたヤマガタ君に軽く魔法を放ってみなさい」

「ええ!? 俺で試すのか!?」

「それが一番安全だろう?」

「ま、まあそうだけどよ……」

 少しためらいながらも、覚悟を決めたかのようにマサトが言った。

「よ、ようし! ヨウ、かかってきやがれ! お前の力、俺が見極めてやる!」

「あの、軽くでいいんですよね……?」

「そりゃそうだ! ノリコの話が本当なら、ヘタしたら死にかねんからな!」

 念を押すようにマサトが言う。指輪をつけたマサトに、ヨウが恐る恐る聞く。

「用意はいいですか?」

「ああ、どんと来い! いや、軽くだぞ?」

「わかってますよ。それじゃ、行きますね」

 そう言って、ヨウが右手を前に出す。その手のひらの前に銀色の円盤が出現し、次の瞬間マサト目がけて光の矢が放たれた。

「うおおっ!?」

 マサトが腕を十字に交差してその矢を防ぐ。と、矢が激突する寸前、腕と矢の間の空間に虹色の膜のようなものが生じ、光の矢はそのまま輝きを放って四散した。

「……どうやら問題ないようだね」

 ヒサシがつぶやく。その顔には、ヨウの魔法に対する驚きの表情が浮かんでいた。それはマサトも同様だ。

「これが魔法か……。ヨウ、今のは軽く、だったんだよな?」

「はい、『古魔法の矢ルーン・アロー』です。これ以上弱めると逆に実験の意味がないかなと思って……」

「ああ、いや、ちょうどいい塩梅だったさ。しかし、これがカツヤに雨あられと降り注いだのか……。つくづくとんでもない奴だよ、お前は」

「いえ、とんでもないです」

「まあ、指輪の方は問題ないようだし、これで心おきなくノリコとやりあえるだろ。楽しみにしてるぞ」

「は、はい……」

 マサトの笑いに、ヨウがあいまいに返事する。その後も、対抗戦について簡単な説明が続いた。







 真夏の太陽も少しずつ水平線に近づきつつある中、会館の正面に向かって左手側にあるグラウンドの中央では対抗戦の一番手が対峙していた。一年生のチアキ・シキシマと二年生の会計補、イッペイ・キノシタである。二人とも、その手には『対精霊術防護の指輪エレメンタル・ガード・リング』を装着している。

 少し離れた所では、制服に着替えたヨウたち生徒会メンバーが二人の戦いを見守っている。審判役の三年生が二人に近づくと、先輩たちの間から待ってましたといわんばかりの歓声が沸き起こった。

「そう言えば、僕チアキさんが戦うところ初めて見るなあ」

「僕は一緒に戦った事あるけど、強かったよ」

「へえ、さすがだね。この試合、勝てるかな?」

「少なくともチアキは勝つつもり満々なんじゃないかな」

 カナメと話していると、審判が第一試合の開始を宣言する。いよいよ始まるようだ。ヨウたちは声を振り絞って応援する。

「がんばれ、チアキ!」

「チアキさん、がんばって!」

「いつもエラそうにしてるんだ、負けるんじゃねーぞ!」

「チアキさん、がんばって下さい!」

 応援とは言えないような声も交じっている気がするが、とにもかくにも声援はチアキの耳にも届いたらしい。こちらを振り返ると、不敵な笑みを見せる。

「チアキ、先輩だからって遠慮しなくていいからな。本気でかかってこい」

 テッペイがチアキに声をかける。チアキは笑みを浮かべながらうなずいた。

「もちろんです。申し訳ないですが、この試合、勝たせてもらいます」

「相変わらずいい性格してるよ。それじゃ、行くぞ!」

 気合と共に、テッペイが精霊を召喚する。炎の精霊、サラマンダーだ。テッペイの周囲を、炎の帯が駆け巡る。

 それに呼応するように、チアキも自身の精霊を召喚する。チアキの周囲の地面がわずかに揺れ、大地を流れる地脈が噴き出す。

 そのエネルギーの奔騰の中から現れたのは、白い毛に覆われた一匹の凛々しい狼であった。

「な、何だあの狼は!?」

 ヨウの近くにいたタケルが驚きの声を上げる。学院の教官も珍しがっていたが、やはりそんなに珍しい精霊なのか。

 チアキと向かい合うイッペイもまた、感心したような声を漏らす。

「何度か見てはいるが、珍しいな、その狼。今日はその力、見せてもらうぞ?」

「望むところです!」

 そう言うや、チアキと白狼がイッペイに向かい駆け出す。虚を突かれたイッペイが、彼女の足を止めるべくその手から数本の炎の矢を放つ。

「『大地の大盾アース・シールド』!」

 叫ぶチアキの左腕に、土と鉱物の盾が現れてイッペイが放った矢をことごとく受け止める。あっという間にチアキとイッペイの間合いは詰まっていた。

「ハッ!」

 意外にも、チアキはイッペイに素手による格闘戦を挑んできた。女子が男子に肉弾戦を仕掛けるはずがないと思っていたのだろう、チアキの蹴りにイッペイは判断が遅れてガードが中途半端な形になる。チアキのすらりとした脚がイッペイの左腕を弾き飛ばして身体をかすめていく。プリーツのスカートがひらりとはためく。

 防御が崩れたイッペイは、チアキの追撃を恐れて後ろへと飛び去る。そのイッペイの真後ろに――チアキが放った白狼がいた。彼女の攻撃は、白狼が回り込む時間稼ぎとイッペイの注意を自分に引きつけるためのものだったのだ。

「『大地の投槍アース・スピア』ァァ!」

 チアキが叫ぶ。それに応えるかのように白狼が吠え、その口から地脈の力を帯びた土の槍が放たれる。その攻撃に、完全に背後を取られたイッペイはひとたまりもなかった。

「うがあぁぁぁあ!」

 叫び声と同時に、ビィィィィとけたたましい音が鳴る。『対精霊術防護の指輪エレメンタル・ガード・リング』が反応したのだろう。そこまで、と審判が叫び、勝敗は決した。

「や、やったああぁぁぁぁっ!」

 格上である生徒会役員二年生相手の勝利に、チアキが喜びを爆発させる。その向こうでは、イッペイがやっちまったとばかりに天を仰いでいた。

 がっくりとうなだれるイッペイに、チアキが手を差し伸べる。

「先輩、ありがとうございました」

「いや、完敗だよ。お前がいきなり飛び込んでくるとは思っていなかった。女だと思ってその可能性を考えていなかったよ」

「距離を取っていたのでは、精霊力の差で負けてしまいますから。私が男だったら通用しなかったかもですね。でも、私だって恐かったんですよ?」

「まったく、その度胸には感服するよ。ノリコといい、ミチル先輩といい、生徒会には凄い女ばっかり集まってくるな」

「ふふっ、それ、最高の褒め言葉です」

 二人はそんな会話をしながら、こちらへと戻ってくる。ヨウがチアキに何と声をかけようか考えていると、隣のタケルがつぶやいた。

「あの狼、ただの精霊じゃないぜ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。お前も見たろ? あたかも飼い犬かのように独立した動きで敵の後ろに回りこんでいったのを。普通精霊ってのは術者の側に寄り添って精霊術を行使するものなんだが、ああやって使い魔みたいに動かすとなると相当な技量が必要になるんだ。彼女がもの凄い天才ならともかく、一年生であれだけ使いこなせるとは思えない。と言う事は、あの精霊の方が特別って事だな」

「なるほど、言われてみればそうですね。その話なら僕も本で読みました」

「お、さすが894点」

「やめて下さいよ、変なあだ名」

 タケルに抗議しながら、ヨウはチアキの精霊について考えていた。確かに学生が契約するような地の精霊と言えば普通は地精ノーム木精ドリアードが多いが、白狼と言うのは聞いた事がない。あの狼には、まだヨウの知らない力が秘められているのかもしれなかった。


 考え事をしているヨウのところに、意気揚々とチアキが戻ってくる。上級生相手の貴重な一勝に、一年生たちが大いに湧く。ヨウもチアキを祝福すべく、意識をそちらへと戻した。






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