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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
59/135

17 生徒会元会長と副会長




 施設での合宿二日目。午前中から特訓に励んでいたヨウたち生徒会メンバーに管理人から来客が告げられた。その後全員がロビーに集められる。

 メンバーの正面に立つタイキの隣に並んでいたのは、まだ若い一組の男女だった。自分たちより少しだけ年上といった所だろうか。

 メンバーがそろった事を確認し、タイキが二人の紹介を始める。

「一、二年生は今回が初めてなので紹介します。こちらは帝国軍第三師団精霊術士隊所属のタケル・カツモト先輩とナツミ・トヨダ先輩。僕の二代前の生徒会長と副会長です。わざわざこの合宿に合わせて訪ねて下さいました。現役の精霊術士と間近で触れ合える貴重な機会ですので、質問などあれば積極的に聞いて下さい」

「おいおい、しれっと俺たちの仕事を増やすなよ」

「そうだよ、私たちもせっかくの休みなんだから」

 そう言って先輩たちが笑う。二代前という事は、タイキたちが一年生の頃の三年生という事か。本物の精霊術士を前に、ヨウも憧れの眼差しを向ける。


 その後、補佐たちは訓練の方に戻り、役員たちが集められる。ロビーのソファに座りきれる人数ではないので、そのまま立ち話が始まる。

 何やら興味津々といった様子で、タケルがタイキに聞く。

「ところで、噂のノリコ・ミナヅキちゃんはどの子なんだい? かわいい子が三人いるけど?」

「ああ、彼女です」

「は、初めまして、ノリコ・ミナヅキです」

 緊張気味にノリコが言う。今が今なのですっかり忘れていたが、基本的にノリコは顔見知りで初対面の人間が苦手なのをヨウは思い出した。おそらく生徒会に入った当初もこんな感じだったのだろう。今のノリコからは想像もつかないが。

 やや表情の硬いノリコに、タケルが笑顔で言う。

「やあ、君がノリコちゃんか。初めまして。君の噂は俺たちも聞いてるよ。一年にして副会長に就任した逸材だってね。何でもダントツの成績で入学して、それ以降首席の座を譲らないそうじゃないか。生徒会の試験でもただ一人課題をクリアし、去年の対抗戦ではタイキをボコボコにしたってね」

「そ、それは言わないで下さいよ、先輩」

 タイキが困ったようにタケルに言う。この人のこんな顔を見るのは初めてだ。ノリコも顔を赤くしてうつむいている。

「私の時も久しぶりの女性副会長って少し話題になったけどさ。ノリコちゃんはレベルが違うよね」

「き、恐縮です……」

 ナツミの言葉に、ノリコがますます縮こまる。見知らぬ年上の人間には慣れていないのだ。チアキなどはそんなノリコの姿が意外らしく、驚いた目で見つめている。

 ノリコから視線をはずすと、タケルは笑いながら言う。

「それにしてもこのノリコちゃんといい、ここ二、三年は豊作だな、学院も! 今年はあのクジョウの息子も入ってきたんだろ?」

「ええ。残念ながら生徒会には来てもらえませんでしたが」

「そうみたいだな。残念だけど仕方ないな」

 少しがっかりした調子で言うタケルに、マサトとカツヤがニヤリと笑みを浮かべながら言う。

「そのかわり、今年は超弩級の大型新人が入ってくれましたぜ」

「そうそう、誰もがノーマークの超大物が、ね」

 そのセリフに嫌な予感を抱きながら、ヨウはおそるおそるタケルたちの方を見た。案の定、二人ともその言葉に食いついてくる。

「ほお、そりゃまたどいつだい。あのクジョウと比べても遜色ない感じかね?」

「クジョウはどうか知りませんが、少なくともこのノリコは自分と同等以上って言ってますね」

「へえ、そりゃ凄いじゃん! どの子なのさ?」

「こいつっすよ。ほら、ヨウ」

 カツヤに肩を叩かれ、予感が的中した事に内心でうなだれながら自己紹介をする。

「ヨウ・マサムラです。初めまして、よろしくお願いします」

 ナツミが嬉しそうな声を上げる。

「何この子、かわいい! え、何? ホントにこの子がその超大物なの?」

「そうっすよ。とぼけた顔して、その実、鬼のように強いんすから」

「なんせ今年は試験でカツヤが守る箱をぶっ壊しましたからね」

「ウソ!? この子、あの試験クリアしたの!? カツヤ、あんた真面目にやってたの?」

「マジかよ!? それってカツヤがボケッとしてたとかじゃなくか?」

「ひどいっすよ二人とも! 真面目も真面目、大真面目にやりましたって! まあ、だからショックもひとしおなんすけどね……」

「信じられんな……。一年と三年じゃその力には天と地ほどの差があるんだ。それを覆すとは、これは本物だな……」

「私らの頃は、箱を壊したなんて都市伝説としか思ってなかったもんね……。しかも話によれば壊したのって帝国大学のテラダ教授でしょ? そんなの絶対ウソじゃん、てね」

 二人が驚きの目でヨウを見る。あまりの気恥ずかしさに、ついうつむいてしまう。

 さらに火に油を注ぐような事をタイキが言う。

「お二人とも、夕食まではこちらにいるんでしょう? でしたら見ていって下さいよ、ノリコとヨウの生徒会頂上決戦を」

「ちょっ!?」

「か、会長!?」

 ヨウのみならずノリコまでもが、思わず声を上げる。いたずらっぽく笑うと、タイキが言葉を続けた。

「実は僕もヨウ君の力はまだこの目で見た事がないんですよ。ここにいる中で見た事があるのはノリコとカツヤ、それとチアキ君だけかな? ノリコの力の方は僕も去年身をもって体験済みなんですけどね。せっかくですから、みんなでじっくりと見物しましょうよ」

「なあるほどな。そりゃ楽しみだ! ナツミも見ていくだろ?」

「もっちろん! でもノリコちゃんとヨウ君と、どっちを応援しようか迷っちゃうね」

 楽しそうに話す二人に、会計のヒサシ・イトウが口を挟む。

「マサムラ君の凄さはその力だけではありません。頭脳の方も抜群なんですよ」

「ほお? そんなに凄いのか?」

「スゲえってモンじゃないっすよ。聞いたらビビりますよ?」

「そうですね。僕も初めは驚きました」

 三年生の言葉に、二人も興味をそそられる。

「お前らがそこまで言うくらいだから、よっぽど凄いんだろうな」

「そりゃもう。この前の試験、何点だったと思います?」

「そうだね……800点くらいかな?」

「バーカ、いつも800点近く取ってるヒサシとタイキが驚くくらいだぞ? 95%、860点くらいだろ」

「そんなに取れるわけないじゃん! そんなの答え見ながらでもムリだって!」

 ああだこうだと言い合う二人に、タイキが実に愉快といった顔で言う。

「ヨウ君の点数は、894点です」

「894点!?」

 あまりの驚きに目を丸くして、異口同音に二人が叫ぶ。

「何だよ894点って!? 900点満点なんだぞ!? 人間の取れる点数じゃないだろ!」

「ほとんど満点じゃん! どんな脳ミソしてんのさ!」

「俺なんか800点超えた事だって一度もないんだぞ!? さっきの860点だって冗談で言ったのに!」

「ね? 驚いたでしょう? ちなみに860点は、ノリコがいつも取っている点数です」

「マジかよ!? 二人そろって帝国大学の教授にでもなるつもりか!?」

 そう言うと、脱帽したとばかりにタケルが天を仰ぐ。ヨウとノリコは恥ずかしさに終始うつむきっぱなしだ。

「ウソだろ……せっかく先輩風吹かせにやってきたのに、そんな凄い奴らばっかそろってるなんて……」

 頭を抱えてぶつぶつつぶやくタケルに、カツヤが実に楽しそうな顔で近づいてその耳元にささやく。

「大丈夫っすよ、タケル先輩。ヨウには一つだけ決定的に欠けてるものがありますから」

「欠けているもの?」

「あいつ、精霊力の容量だけはからっきしなんです。先輩、今日はビシビシしごいてやって下さいよ」

「精霊力の容量……? そんなまさか……いや、でも確かに……」

 カツヤの言葉に、タケルの目にもみるみる生気が宿っていく。

 そして、次の瞬間には笑顔でヨウの肩を叩いてきた。

「そうかそうか! なるほどな! よーしヨウ君、今日はお兄さんがみっちりと鍛えてあげよう! がははは!」

「え……? よ、よろしくお願いします……」

 戸惑いながらも、ヨウが言葉を返す。それから二人は、他のメンバーとも言葉を交わす。しばらくして、午前の訓練は再開された。


 ヨウは、タケルの下で昨日とは比較にならないほどハードな訓練を受ける事になった。これでもかとヨウをしごくタケルが妙に嬉しそうな顔をしていたのは、一体なぜだったのだろうか……。





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