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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
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16 対抗戦前夜




「それでお前ら、そんなツラで帰ってきたってわけか!」

「初日からやってくれるな! 今年の一年は!」

 浴場で女性陣に袋叩きにされたヨウたち四人は、一階のロビーでくつろぐカツヤ・マサト・ミチルの三年生三人組に声をかけられた。露天風呂での顛末を話すと、案の定爆笑の嵐に見舞われる。

「すまんすまん、風呂は最初は女子が入るって伝えに行かせたんだが、まさかお前らがすでにいないとは思わなくてな」

 マサトが悪いと頭を下げる。そういう大事な事はもっと早く伝えてくれればいいのに。頭のたんこぶをさすりながらヨウが非難がましい目でマサトを睨みつける。

「まあまあ、そう怒りなさんなって。おかげでお前らもいいものが拝めたんだろ? 何ならオレも一緒に行きたかったぜ」

 胸のあたりを手で持ち上げながら、カツヤがニヤリと笑みを浮かべる。意識が遠のく中垣間見えた女の子たちの胸を思い出し、ヨウが顔を赤く染める。見ればカナメも耳まで真っ赤だ。

「ウブだね、あんたたち。でも残念だったねぇ、あたしの裸を見る事ができなくて」

「はい、そりゃあもう……」

 ちらりと浴衣をはだけさせるミチルに、弾かれたかのようにフィルが即答する。

 その様子に、カツヤが不穏な笑顔で言う。

「おいおい、懲りないヤツだな。もしミチルの裸なんか見た日にゃ、お前らオレの風の刃で切り刻んでなますにしてやるぞ」

「ひぃぃ、それは勘弁……」

 一瞬見せた凶悪な顔に、フィルとマナブががたがたと震え出す。それを見て三年生が笑い出す。

「いやいや、ホントおもしろいなお前ら! 次から次と話題に事かかねえ!」

「ヨウなんか今日一日でどれだけ伝説を作るつもりなんだ? カツヤ、お前もたまらんな。箱を壊された次は自分の女に手を出されるなんてな」

「そ、それは誤解ですって!」

 マサトの言葉に、目の色を変えてヨウが否定する。そんなヨウに、ミチルが艶めいた声をかける。

「でも、ヨウったら日焼け止めの塗り方が本当にうまいんだよ……。あの指使い、クセになりそうだね……。今度またお願いしようかねぇ」

「ちょ、ちょっと! 誤解されるような事言うのやめてくださいよ!」

「諦めろヨウ、こいつはこういうヤツなんだ。悪いが適当に流してやってくれ」

「カツヤ先輩も大変なんすね……」

 ため息混じりに言うカツヤに、ぼこぼこの顔でフィルが同情の弁を漏らす。

「あの、僕たちみんなに嫌われちゃったりしないでしょうか……?」

 心配そうな顔でカナメが聞く。それはヨウも懸念していた。今日から自分たちは「変態四人組」として後ろ指差されながら生きる事になるのだろうか……。

 少し涙目なヨウとカナメに、マサトが笑って答える。

「嫌われる? ははは、ないない! お前たちに知らせなかった俺たち上級生の責任だからな! って、笑ってる場合じゃないな。俺たちの監督不行き届きだ。本当にすまなかった」

 そう言って、マサトとカツヤが頭を下げる。ミチルも笑顔で言う。

「まあ、そう心配しなさんな。後でノリコとイヨたちも謝りに来るさ。あの子たちも先輩なのに不注意だったんだしね」

 その言葉に、ヨウたちは一様に安堵のため息を漏らしたのだった。




 ヨウたちはそのまま三年生たちと話し込む。一階のロビー中ほどのコの字に配置されたソファに、牛乳びんを持ってヨウたちが座る。

「そういや明日は対抗戦か。今年はどうなるか楽しみだな」

「俺は二年生の三勝一敗に賭けるかな」

「あたしは全勝に一票だね」

 三年生が対抗戦の話で盛り上がる。ヨウは一つ聞いてみた。

「対抗戦って、いつもは二年生が全勝する事が多いそうですね」

「ああ。オレたちが一年の時は全敗だったな」

「そして二年の時は三勝一敗だった。俺たちは残念ながら負け越しだ」

 カツヤとマサトが苦笑する。

「去年先輩たちに勝ったのって……」

「もちろんノリコだ。去年はタイキと当たったんだがな。正直絶句したぞ。俺たちのエースが一蹴されたんだからな」

「ヘタしたら死んでたぜ。『それじゃ、いっきまーす!』とか言った直後にいろんな属性の槍が降り注いでくるんだからな。地面にのびてるタイキを見て言った一言が『あれ? もう終わり?』だぜ? あいつと当たらなくて、心底ホッとしたもんだよ」

「あはは……」

 ヨウも苦笑いするよりなかった。ノリコの事だ、きっといい所を見せようと張り切っていたのだろう。彼女が人を殺めるようなヘマを犯す事はありえなかったが、骨の一本や二本持っていかれる可能性はないとは言えない。そんなノリコの攻撃に耐えたというだけでも、タイキの実力は賞賛に値するものであった。

「笑ってる場合じゃねえぞヨウ。明日はお前があの爆弾娘とやり合うんだからな」

「あ……」

 カツヤの指摘に、ヨウの額から汗が一滴流れ落ちる。

「ヨウは昔からノリコと一緒だったんだろう? そういう実戦形式の訓練はよくやってたのかい?」

「ええ、ノリコがせがんでくるので何度かつき合わされました……。大体いつも引き分けだったんですけど」

「そうなのか? 俺が聞いた話じゃノリコはいつもお前に負けてたって言ってたぞ?」

「違うんです。と言うか、いつも負けてるのは僕なんです。でも、そう言ってもノリコが全然聞いてくれなくて……。で、仕方ないので最後は引き分けって形で終わるんですよ」

「まあ、言われてみればありそうな話ではあるな……」

 三年生が腕組みしながらうなずく。そしてヨウを見て、

「でも、こいつも謙遜が過ぎるヤツだしなあ……」

 と、そろって首を横に振る。やがて、カツヤが口を開いた。

「さて、今の情報を加味すると……」

「俺はやはり三勝一敗だ。明日の戦い、ヨウが勝つ」

「オレもヨウが勝つと思うぜ。てか、オレに勝った男に負けてほしくはないな」

「あたしは女子を代表して、ノリコに勝ってほしいね」

 三人が再び明日の勝敗について激論を交わす。

「ただ、オレはカナメが番狂わせする可能性もあると思ってるんだよな」

 そう言ってカツヤがカナメの方を見る。急に名前を挙げられ、腫れた頬をさすっていたカナメがびくりと反応する。

「僕、ですか?」

 不思議そうに聞くカナメに、マサトが納得した顔でうなずく。

「なるほどな。確かにカナメなら一発があるし、ありえるかもな」

「だろ? イヨはそこまで精霊力が大きくはないし、これは予想が難しいぜ」

「そ、そんな事……」

「確かにカナメ君なら勝てるかも! がんばって!」

 恥ずかしそうにうつむくカナメに、ヨウが声援を送る。そんなヨウに、カナメが恨めしそうにつぶやく。

「それを言うならヨウ君もだよ。一年生の星なんだから、明日は絶対勝ってよ?」

「え、ええ? やぶへびだったかな……。うん、がんばるよ」

「ははは! その意気だ! 俺の財布のためにも、ぜひとも勝ってくれよ!」

「だ、駄目ですよマサト先輩! 本当にお金を賭けちゃ!」

 二人のやり取りに、周りから笑いが起こる。チアキと早く仲直りするんだぞ、チームワークが乱れるからな、などとありがたいアドバイスを受けながら、ヨウとカナメは二年生の戦闘スタイルの特徴をマサトたちから聞きだしていく。せっかく戦うからには、できる事はやっておきたい。


 その後しばらく先輩たちと談笑して、ヨウたちは一年生の部屋へと戻った。





 ノリコたち女性陣がヨウたちの部屋へとやってきたのは、夜もふけてきた頃であった。すっかり冷静さを取り戻したノリコたちに「さっきはごめんね」と頭を下げられ、ヨウは恥ずかしいやら何やらでまともに彼女たちの顔を見る事ができなかった。もっとも、チアキは不満げな顔であったが。



 その夜は露天風呂での一件が頭をよぎり続け、ヨウはなかなか寝付くことができなかった。せっかく眠れたかと思えば、ノリコがあのリボンのような水着で襲いかかってくる夢を見て、一人真夜中に目を覚ます。


 結局、ヨウが眠りに就いたのは空がわずかに白み始める頃であった。




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