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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第二部
45/135

3 進路




「やあ。ヨウ君、試験はどうだった?」

 四日間の定期考査が終わり、学院も通常時間に戻る。授業を終え放課後の生徒会室に入るヨウたちに、カナメが声をかけてきた。

「相変わらず精霊術はダメだったね。他はよくできたと思うんだけど。カナメ君は?」

「誰にでも得手不得手はあるものだよ。僕は筆記がいまいちだったかな」

「へえ、カナメは筆記が苦手か、意外だぜ。オレと仲間だな」

 嬉しそうにカナメの首に腕を回すフィルに、チアキが冷たい視線を向ける。

「あなたとカナメを一緒にするんじゃないわよ。いまいちの基準が違うわ。もちろん、私はどれもよくできたわよ」

「ほっとけ! そして誰もお前の事なんか聞いてねえ!」

「何ですってぇ!?」

 じゃれ合う二人に苦笑していると、タイキ会長がそばを通りかかる。ヨウたちが口々に挨拶する。

「会長、こんにちは」

「こんにちは、みんな。一年生で何を盛り上がっていたのかな?」

「はい、試験はどうだったか話していたんです」

「そうか、みんな初めての試験だもんね」

 笑ってうなずくと、タイキが楽しそうに言う。

「でも、みんなにとっては定期考査よりも、これから合宿を終えるまでの時期の方が大変かもしれないけどね」

「えっ?」

 異口同音にヨウたちが声を漏らす。試験より大変とはどういう事だろう。

 不思議そうな顔をする彼らに、タイキが説明する。

「後であらためて説明するけど、僕たち三年は君たちの適性を見極めて、合宿でそれを判断するんだ。その時に新三役もだいたい決まる。十月には総会で新三役が就任するからね」

 タイキの言葉に、ヨウたちの顔がやや引き締まる。もっとも、フィルなどは露骨に残念そうな顔をしているが。

「ええ~っ? 合宿って、みんなできゃぴきゃぴ海を楽しむんじゃなかったんすか? そんなあ……」

「ははは、もちろん海も楽しむさ。ただ、あくまで生徒会の強化合宿である事は頭の片隅に置いておいてもらわないとね。特に役員諸君は後の三役も見据えてがんばってもらわないと。書記に会計補、今年はノリコが兼任してるけど会長補佐、これが三役に通じるポストだから覚えておいてね」

「それなら知ってます。書記が副会長候補、会計補が会計候補、そして会長補佐が会長候補なんですよね?」

「その通りだよ、チアキ君。一年生には一通りの仕事を体験してもらっているが、合宿で方向がほぼ決まるからね。もちろん会長補佐以外が会長になったりする例もあるけど」

 そう言って、タイキは一年生たちの肩を順に叩いていく。

「次の生徒会を引っぱっていくのは君たちだからね。期待してるよ」

「は、はい! がんばります!」

 チアキが生真面目に答える。その声に、タイキは満足したように会長席へと戻っていった。


「そっか、合宿にはそう言う意味合いがあったんだね」

 タイキの話に、ヨウが納得してうなずく。

「みんなはどの役になりたいとかあるのかな? チアキはどう?」

「それはもちろん会長補佐よ……と言いたいところだけど、私、会計の仕事が性に合っているみたいなのよね」

「へえ?」

 意外な言葉に、周りから驚きの声が上がる。何よ、とチアキが睨みつける。

「会計の仕事って、結構頭を使っておもしろいのよ。会長って、周りを惹きつける魅力とか、人を動かしていくような所が必要じゃない? 私はどちらかと言えば頭脳職に徹する方が向いている気がするのよ」

「なるほど、チアキさんらしいね」

 カナメが納得したようにうなずく。そこにフィルがすかさず口を出す。

「さすがチアキ、よく自分を分析できてるじゃねーか。自分には人を惹きつける魅力はないし、金勘定してるのが好きって事だろ?」

「だ、誰が魅力がないですってぇ!?」

 拳を握りしめてチアキが腕を振り上げる。逃げ出そうとするフィルの前に、眼鏡の男が立ちはだかった。

「会計の仕事をただの金勘定と思われるのは心外だね、フーバー君」

「イ、イトウ先輩……」

 表情に乏しい顔で見下ろしてくる生徒会会計、ヒサシ・イトウを前に、フィルが石像のように硬直する。脂汗を流しながら、必死に弁解しようとする。

「こ、これはですね、物のはずみといいますか……すいませんでしたぁっ!」

「わかればよろしい。シキシマ君、そろそろ仕事を始めるよ」

「はい! わかりました! それじゃヨウ、また後でね」

 呼ばれたチアキが、会計チームの方へと去っていく。チアキは会計で決まりかな、と思いながら、ヨウはカナメに話しかける。

「カナメ君はなりたい役職ってある?」

「そうだね、僕はやっぱり会長補佐になりたいよ」

「さすがだね」

 微笑むヨウに、カナメが残念そうな顔で返す。

「でも、それは難しそうだけどね」

「え、どうして?」

「だって、本命がいるじゃない」

「本命? チアキ? それともアキヒコ君の事?」

「違う違う。ほら、僕の目の前に」

 カナメが苦笑しながら、ヨウを指差す。きょとんとしながら、ヨウが自分に向けられた指先を見つめる。

「……僕?」

「そうだよ、他に誰がいるんだい?」

「でも僕は……」

「生徒会役員就任直後に腕輪事件を解決し、生徒会に腕輪に関するさまざまな情報をもたらした期待の新人でしょ? デスクワークも一年生の中でダントツ、もしかしたら生徒会でも一、二を争うかもしれない」

 ヨウの言葉をさえぎるようにカナメがたたみかける。そして笑顔でヨウに言う。

「残念だけど、ヨウ君なら会長として申し分ないよ。僕は副会長を目指そうかな。ヨウ君が会長なら、僕もサポートする甲斐があるってものだよ。もっとも、君が会長だと僕たちがやる仕事がなくなっちゃいそうだけどね」

「あはは、そうなるといいね。僕は過労で倒れちゃいそうだけど」

「もう、相変わらずヨウ君は自分の事となると引いちゃうんだから」

 しょうがないなあ、とカナメが肩をすくめる。隣にいたフィルも、カナメの言葉にうんうんとうなずく。

「カナメの言う通りだぜ、ヨウ。お前にチアキの百分の一でも我を通す部分があればいいのにな。お前とチアキを足して二で割ればちょうどいいんじゃないか? ああ、お前らが結婚して子供ができたら最強かもしれないな」

「ちょっ、フィル!? 何変な事言ってるのさ!」

「あ、ヨウ君が赤くなった! 意外と脈ありなのかな?」

「もう、カナメ君まで! 僕、怒るよ!」

「おお、珍しくヨウが怒った! 逃げるぞ、カナメ!」

「ごめんごめん! それじゃ、今日も仕事がんばろうね!」

 そう言いながら二人が持ち場へと散っていく。まったくもう、とヨウも今日の仕事を受け取りに会長席の方へと向かった。





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