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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第一部
36/135

36 勘違い




 校内の見回りを終え、生徒会室へと戻るヨウたち。すでに西棟の三階、生徒会室の扉が見える所まで来ているが、三人の足取りはなぜか少々重かった。

「やっぱり、私少しやり過ぎたんじゃないかしら……」

 チアキが不安げに言う。先ほどからずっとこの調子である。初めのうちこそ自分が暴れる生徒たちを取り押さえたのだと鼻高々だったが、次第にただのケンカであそこまでする必要があったのかと不安を口にし始めたのである。

「いくら興奮していたとはいえ、あんなにがんじがらめに縛らなくてもよかったのかも……。どうしよう、私、生徒会の名に泥を塗ってないかしら」

「だから大丈夫だよ、チアキ。もし問題があるとしたら、先輩たちをきちんと説得できなかった僕の責任だよ。チアキが心配する事はないって」

 このセリフをヨウが言うのもこれで何度目だろうか。生徒会室の扉が近づくにつれ、チアキの歩幅が少しずつ狭まっていく。

「ほら、怒られたら僕がちゃんと謝るから。そんなに怯えないでよ」

「まあ、ぐるぐる巻きに縛ったのはチアキだけどな」

「フィル!」

 ヨウの厳しい声に、思わずフィルが身をすくめる。

 生徒会室の扉の前で、三人が立ち止まる。

「それじゃ、入るよ」

「え、ええ……」

 緊張でがちがちのチアキに一言断ると、三人は扉を開けた。





「ただいま戻りました」

「あ、おかえりー」

「おつかれさま」

 生徒会室に戻ったヨウたちに、部屋にいたメンバーたちがねぎらいの声をかける。そんな中、マサトとタイキ・オオクマ生徒会長が駆け寄ってきた。

「おう、戻ってきたか」

「みんな、おかえりなさい」

 その慌しい様子に、チアキが身を固くする。うつむいたままの彼女にマサトとタイキがとまどっていると、突然チアキが大声で頭を下げた。

「す、すみませんっ!」

「は、はぁ?」

「見回りなのに、私やり過ぎてしまいました! これで生徒会の悪評が立ったりしたら、私……」

「おいおい、ちょっと待て、落ち着けよ」

 今にも泣き出しそうなチアキの声に、二人がおろおろとなだめながら困った顔でヨウを見る。これはいけないと、チアキをかばうようにヨウが口を開く。

「あの、僕がいけないんです。きちんと先輩たちのケンカを止められなかったからあんな事になっちゃって」

「お前まで何言ってるんだ……。いけないって、何の話だ?」

「どうやら二人は、さっきの揉め事の件で僕たちに怒られると思っていたみたいだね」

 状況を把握したという顔で、タイキが一つうなずいてみせる。そして、笑顔でヨウたちに言った。

「安心しなさい。君たちは何も問題なんて起こしていない。気にしなくていいよ」

「で、でも、私たちが揉め事を起こしちゃったのは事実ですし……」

「それを言うなら、見回りの順番を決めた僕たちにこそ責任がある。初めからマサトが出ていれば、彼らもおとなしく従っただろうからね」

「でも、マサト先輩が忙しいから僕たちが見回りに出ていたわけで……」

「そう、そしてそれはこちらの都合だ。マサトの仕事を優先したいがために君たちに出てもらったのだから、君たちが気に病む事など何もないんだよ」

「あの荒っぽい連中の事だ、放っておけばあいつらだけじゃなく野次馬にもケガ人が出たかもしれん。ケガ人出さずに事を収めたんだから、むしろほめてやりたいくらいだ」

 二人の言葉に、ヨウたちからもようやく安堵の息が漏れる。

「よ、よかったぁ~」

 ハラハラしながら見守っていたフィルが、大きくため息をつく。それを見て、マサトとタイキが笑い声を上げた。

「はははは! お前ら、どれだけ心配してたんだよ!」

「そう言えば、以前もこんな事があったね。初めて君たちに会った時だったかな? あの時はチアキさんとフィル君が先走ってたけど、今回はヨウ君まで勘違いするとはね」

 二人にからかわれ、ヨウたちが恥ずかしそうに顔を赤くする。

「何だかまた揉め事に遇わせてしまってごめんね。でも、これで君たちにも安心して見回りを任せられるという事がはっきりしたよ。これからもよろしく頼めるかな?」

「は、はい! それはもう、喜んで!」

 勢いよくチアキが返事をする。汚名返上、というわけではないだろうが、少しでも生徒会の役に立っていい所を見せたいと思っているのだろう。友人の意気込みに、ヨウも強くうなずく。

「僕も、微力ながらがんばりたいと思います」

「オ、オレも!」

「あっはは、みんな、期待しているよ。さあ、そこの席が空いてるから、少し休憩でもしていなさい」

「は、はい!」

「ありがとうございます」

 タイキの言葉に甘えて、ヨウたちはしばし休憩を取る事にした。







「あらためて、みんなおつかれさま」

 ヨウたちが息をついていると、タイキがお茶を持ってきた。慌ててチアキが立ち上がる。

「か、会長! お、お茶なら私が!」

「いやいや、君たちは休んでいなさい。もう持ってきたしね」

「じゃ、じゃあ、せめて私が注ぎます!」

 そう言ってやや強引に会長から道具を受け取ると、チアキがお茶を注ぎ始める。空いている席に座ると、タイキもチアキから茶を受け取る。

「さっきの二人だけど」

 カップの紅茶をすすりながら、タイキが話し始める。

「二年生の話だと、あの二人の仲の悪さは有名だったそうでね。いつかは何かあると噂されていたそうだよ」

「そうなんですか」

「でも、マサトにこってりとしぼられてたから多分もう大丈夫だよ。これからは二年生のメンバーにも彼らの様子をチェックさせておくから、安心して」

「ありがとうございます」

 一言礼を言うと、ヨウは少し気になっていた事を聞いてみた。

「実は僕、例の指輪のようなもので正気を失っていたのかとも思っていたんです。そういう事はなかったんですね」

「ああ、僕たちも調べてみたけど、特に何か身につけているって事はなかったね。本人たちに聞いてもその手の話は出てこなかったから、今回は一連の事件とは無関係と思っていいよ」

「それを聞いて安心しました。でも、だったらなおさら僕はちゃんと二人を説得するべきでしたね」

「あまり気にするものじゃないよ。大抵の人間は、目下年下の者の話を素直に聞けるものじゃないさ。ヨウ君はやれる範囲で最善を尽くしてくれたと思っているよ。もちろん、チアキ君にフィル君もね」

「あ、ありがとうございます……」

 会長の言葉に、二人が恥ずかしそうにお礼を言う。ヨウも照れくさくなって、カップに口をつける。

「さてと、僕はまだ仕事があるのでこの辺で。君たちも、一息ついたら手伝ってもらうよ」

 そう言うと、タイキは立ち上がって会長席へと戻っていく。自分たちもあまりのんびりしてはいられないと、残った茶を飲み干すとヨウたちは先輩の仕事を手伝いにそれぞれ散っていった。




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