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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第一部
34/135

34 見回り




 新メンバーも加わった生徒会室は、各組織から新学期体制の書類が集まってきたり先輩が後輩に仕事を教えたりと、この時期特有のせわしなさのただ中にある。そんな中、ヨウ、チアキ、フィルの三人は少々緊張した面持ちで二年生のシュンタ・ヨシダから説明を受けていた。

「そんな緊張すんな。何かあったら無理せずオレたちに連絡してくれればいいんだ。なに、そうそう揉め事なんて起きないって」

「何だか、事件が起こる前フリみたいなセリフっすね……」

「不吉な事言わないでよ……私たち、もうすでに遭遇してるんだし」

 ヨウたちはこれから見回りに出発する所であった。先輩についていった事はあるが、一年生だけで見回りするのはこれが初めてである。

 通常、一年生が生徒会への入会早々見回りを任される事はそうはない。補佐であればなおさらである。だが、時節がら生徒会の仕事も忙しい事に加え、例の事件で警戒態勢を強めている事もあり、ヨウとチアキのみならずフィルまで駆り出される事になった。

 ちなみにスミレは、一年生の女子でしかも補佐という事で、今の所見回りには組み込まれていない。そのかわりとばかりに、今スミレは向こうの机で先輩から大量の仕事を仕込まれているところであった。

「それでは、いってきます」

「おう、気をつけてな」

「いってらっしゃい」

 ショウタと部屋のメンバーがヨウたちを送り出す。少し照れながら、ヨウたちは生徒会室を出た。






 放課後の南棟はすでに部活が始まっているからか、廊下に人通りはほとんど見られない。

「でも私の扱い、ちょっとひどくないかしら? どうして私が見回りで、スミレがデスクワークなのよ? 私だって女の子なのよ?」

 南棟の二階を歩きながら、納得いかないといった顔でチアキがぼやいた。

「それはそれだけチアキの強さが認められているって事だよ」

「つーか、別にいいじゃん。お前バケモノみたいに強いんだから」

「誰がバケモノよ!」

 人影もまばらな廊下に、チアキの怒声がこだまする。何事かとこちらを振り向いたり部室から顔を出す生徒に、すみませんと頭を下げる。

「ほら、怒られたじゃねえか。仕事なんだからマジメにやれよ」

「言ってくれるわね……。覚えておきなさい」

 殺意のこもった目でフィルを睨むチアキを、苦笑いしながらまあまあとなだめる。

「ほら、ノリコだって一年の早い時期から見回りやってたそうだし」

「副会長が!?」

「そうそう。その時に生徒のみんなとふれあえたのが、その後の副会長就任につながったって言ってたよ」

「そ、そうなの!?」

 ノリコの話題を口にするや、チアキの顔が一転して生き生きと輝き出す。ヨウの話に、そうね、こうして地道に信頼を得ていく事が大事なのよね、としきりにうなずく。

「あーあ、副会長って言えばすぐにこれだよ。憧れるのもほどほどにしないと、かえってうとましがられるぜ?」

「そ、そんな事ないわよ! ……多分」

 若干自信なさげに答えながら、チアキが三階への階段を上る。大丈夫大丈夫とヨウがフォローしながら、三人は三階へと向かう。




「あいかわらず、ここは活気がないわねえ……」

人気ひとけがないのは二階と同じはずなんだけど……」

 南棟の三階。弱小部活が集まるこの階には、いつものように独特の哀愁が漂っている。

「授業の時はこんなに寂しげじゃないのになぁ。なんでこうなっちまうんだ?」

「なぜって、それはほら、このあたりに入ってる部活があれだから……」

 フィルに説明していたチアキが、一つの部室の前で立ち止まる。

「あ! ここ、この前の部じゃない?」

「本当だ! 確か、戦史研究会だったね」

 あの、入部希望者らしき生徒が入っていった部室だ。ヨウも思わず興奮気味に声を上げる。

「あの後、無事に入部したみたいだよ。生徒会に名簿が来てたの見たんだ」

「そうなの! ちゃんと部員が増えてよかったわね!」

「何だよ、知り合いでもいるのか?」

「あ、いや、ちょっとね」

 何の事やら首をかしげるフィルに、ヨウがあいまいな笑みを返す。

「それより、このあたりなんだろ? この前の騒ぎがあった所って」

「そうそう、あの部屋だね」

 ヨウが奥の部屋を指差すと、フィルが興味深そうにその部屋を見つめる。

「あの部活は結局廃部になったんだよね」

「当然よ。あの子、陰でずっといじめられてたって話だから。あの後、部員全員から聞き取りしたそうよ」

「あの子も、そんな事がなければあの指輪に頼る事もなかったのかな……」

「そうね……」

 例の事件を思い出しているうちに何とも言えない気持ちになり、チアキと二人ため息をつく。後味の悪さだけが残る、嫌な事件であった。

 あの時マサトが押収した指輪には小さな精霊石が埋め込まれており、そこから精霊力を引き出す仕組みになっていたらしい。精霊石の大きさは以前の事件で押収したものとほぼ同じだったそうだが、その能力は格段に向上しているとマサトは言っていた。テラダ教授を筆頭に、精霊力の効率的な回収は帝国中の研究者によって盛んに研究されており、あの指輪にもその技術が応用されているとの事であった。

「マサト先輩が全部片づけたってヤツだろ? やっぱ強かったか?」

「強いなんてものじゃないわよ。あのエノモトとかいう不良より強い相手をあっさり取り押さえちゃったんだから」

「へえ、やっぱあのおっさんスゲえんだな。ヨウとどっちが強いかな?」

「そりゃ、先輩の方が強いに決まってるよ」

「さて、どうだか……」

 疑わしげな目を向けるフィルとチアキに苦笑すると、ヨウは東棟へ続く連絡路へと歩を進めた。






 ヨウたち一年生とノリコたち二年生の教室が集まる東棟。こちらの棟も放課後は小規模な部活や同好会が利用しているとあって、南棟の三階に似た寂しげな空気が漂う。

 もっとも、今の時間はまだ下校前や部活前の生徒たちが残っているという事もあり、そこまで悲壮感にあふれてはいない。

 その東棟の三階には、二年生の教室が集まっている。廊下の中ほどにはちょっとした生徒たちの人だかりもできている。副会長は二年A組だったわよね、とチアキが浮かれた声でヨウに聞く。ああ、あのあたりじゃない? と人だかりの手前付近を指差した時、ヨウはどうも様子がおかしい事に気づいた。


 前方に見える人だかりの中心では、二人の男子生徒が何やら口論している。その様子がどうも穏やかではない。放っておけば、今にもつかみ合いが始まりそうな雰囲気である。相当興奮しているのか、向かい合う二人の怒声がこちらまで聞こえてくる。

「どうやら、何事もなくとはいかないようだね……」

「私たち、もしかして揉め事を呼び込む体質なのかしら……?」

「いや、きっとショウタ先輩があんな事言ったからだぜ……」

 三人、顔を見合わせると一つうなずいて、人だかりへ向かい駆け出した。




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