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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第一部
28/135

28 仲間




 新メンバーも加わり、放課後の生徒会室は日に日に賑やかしさを増している。各委員会・部活動も新入生を迎えて新体制での活動を本格的に開始しつつあり、生徒会には各所から手続き等の書類、申請などが飛び込んでくる。日を追うごとに忙しさが増す中、ヨウたち四人は、生徒会室の一角で資料とにらめっこしていた。

「しっかし、まだ実感がわかないなぁ」

 ヨウの隣で、感慨深そうにフィルがつぶやく。結局ヨウの補佐になる事を承諾した彼は、先日生徒会の面接を受け、昨日から晴れて生徒会メンバーの一員として働き始めたのだった。

「そうですね、私も正直、まだ信じられない気持ちです」

「お、スミレちゃんも? そうだよな、生徒会なんて雲の上って感じだよな……」

 向かいに座るスミレが、フィルの言葉に同意する。ヨウたちに救い出されて以来彼らと親しくしていた彼女もまた、チアキの補佐として三日前から生徒会の活動に参加していた。

「ほら、二人ともムダ口叩いてないでテキパキ働くの」

「は、はい、すみません」

「おーこわっ。そんなにいつもカリカリしてたら、あっという間にシワが増えるぞ?」

「なんですってぇ!」

 その大声に部屋の何人かがこちらを振り向いたのに気づき、チアキが慌ててすみませんと頭を下げる。クスリと笑ったヨウの顔を、チアキがじろりと睨む。ごめんと謝るヨウに、まったくもう、とチアキがため息をつく。

 今ヨウたちは、各委員会・部活動の新入生の資料を整理していた。この時期、各クラスからの委員会メンバーの選出はすでに終わり、部活動には新入部員も続々と入っている。各所から上がってきた新メンバーの名簿などの情報を、生徒会が持っている入試順位などの情報と結びつけている所だった。

 手際よく書類を処理しながら、チアキが感心したようにつぶやく。

「こういうのを見ると、生徒会の優位性を改めて実感するわね」

「どういう事?」

「ほら、この名簿にしてもそうだけど、生徒会って陳情とか申請とか、いろんな情報がどんどん集まってくるじゃない? 他の所なら、きっと名簿一つ作るだけでも一苦労よ」

「ああ、確かにそうだね」

「各組織の予算にもある程度口出しできるし、お金の使い道は会計で把握しているし。生徒会が絶大な力を持つというのも納得だわ」

「うんうん、本当だね」

 さっきあんな事言ってたのに、チアキもよくしゃべるなあ。そんな事を思いながらチアキの話を聞いていると、再びフィルが口を開いた。

「でもあれだよな、委員会って、希望者多数の場合は入試の成績順で決まるんだな。てっきりじゃんけんか何かで決めるもんだとばっかり思ってたぜ」

「あ、それ、私もびっくりしました……」

「あら、それなら校則にも書いてあるじゃない。ま、私はどの委員会にでも問題なく入れたんだけど?」

「あー、へいへい。どうせオレたちは落ちこぼれですよーだ。ま、こいつは何か違う気もするけど……」

 そう言いながらヨウを見て、フィルが何とも言えない表情になる。

「でも、その仕組みだとヨウはどの委員会にも入れないのよね……。入試で測れない才能をみすみす取りこぼしちゃうって言うのも、何だかもったいない話だわ」

「僕がどうかは知らないけど、生徒会の実力主義はそういう弊害を避けるって意味もあるのかもね」

 会話しながらも次々に書類を片づけていくヨウやチアキとは対照的に、しゃべり始めるとすぐに手が止まるフィルであったが、何かを思い出したのか、ヨウに向かって話しかける。

「才能と言えばよ、クジョウの奴、結局委員会にも入らなかったな」

「ああ、確かに。部活に入るつもりなのかな? まだ資料には上がってきてないみたいだけど」

「クジョウって、クラスメイトの方ですか?」

 クラスの違うスミレが尋ねてくる。

「あら、スミレは知らないの? ヒロキ・クジョウ。今年の入試の首席合格者よ」

「首席ですか……!? す、凄いですね……」

「正直、彼が生徒会を受験していたら、今私はこの場にはいなかったかもしれないわね」

「そ、そんな事は……」

「あー困る、それは困る。お前はともかく、スミレちゃんがいなくなるのは心底困る」

「あ、あなたねえ……」

 一触即発の空気に、まあまあとヨウが二人をなだめる。しかし、クラスでもクジョウが部活に入ったという話はまだ聞かない。一体彼はどうするつもりなのだろう。


 ヨウがクジョウの事を考えていると、フィルが嫌なものを引き当ててしまったとばかりに一枚の書類をつまみあげた。

「まさかこいつが美化委員とはねえ……」

 げんなりした顔で彼が示したのは、美化委員の名簿にあるクラスメイトの名であった。

「ハヤセね……。あれでも入試の成績は良かったそうだから、仕方ないわね……」

「けっ、何が美化委員だよ。まずは自分の心をキレイにしろっての」

「あの、皆さんはその方と何かあったんですか?」

「まあ、入学以来いろいろとね……」

「この前もヨウに因縁つけてきやがったんだよ。何かとヨウにからみやがるんだ、あいつ」

 その後もひとしきり毒づくと、チアキの方を見ながらフィルが言う。

「やっぱあれかね、成績いい奴って性格が捻じ曲がっちまうんじゃねーの? どっかの誰かさんみたいにさ」

「ちょっと! それ、誰の事言ってんのよ!」

 再びフィルとチアキが睨み合う。相変わらず仲がいいなあ、とその様子をのん気に眺めていると、ヨウとフィルの背中から鈴のような綺麗な声が聞こえてきた。

「ふふふ。その理屈だと、あたしは学院一性格の悪い女の子って事になりそうだね」

「ふっ、副会長ぉぉぉ!?」

 突然現れたノリコに、二人が異口同音に叫び声を上げる。狼狽も露わに、フィルが必死に弁解を試みる。

「こっ、これは違うんです、決して副会長の事を言っているわけではなくて……」

「ふ~ん……。でも、意外とその通りかもよ?」

 ノリコの口の端が吊りあがり、愛らしい顔に不釣合いな悪人顔になる。その顔に、ヨウ以外の三人の表情が凍りつく。

「え……?」

「あたし、本当はと~っても性格の悪い子なの。だから、さっきの言葉もず~っと根に持っちゃうかも……」

「そっ、そんな……」

 ノリコの低い声に、顔が真っ青になるフィル。小刻みに震えだす彼に、一転してノリコが笑顔を見せる。

「ごめんね、うそうそ! みんな何だかあたしに妙なイメージ持ってるみたいだから、それをちょっと崩そうと思って! フィル君、本当にごめんね?」

「そ、そうなんすか? よ、よかったぁ……」

「ノリコ、やり過ぎだってば。まだみんな緊張してるんだから、あんまり驚かさないでよ」

「ごめんごめん、早くみんなに打ち解けてもらいたかったんだよ」

 ぺろりと桜色の舌先を出すと、みんなお仕事がんばってねと言い残してノリコは会長席の方へと去っていった。嵐が過ぎ去り、フィルたちが心底ホッとした様子でため息をつく。

「副会長って、いつもあんななのか……?」

「うん……。みんなも、呆れないで仲良くしてあげてね? 特にチアキ」

「なっ、何で私なのよ!?」

 ヨウに名指しされ、あからさまに動揺する。

「いや、チアキが一番ノリコに憧れを持ってるから、ひょっとしたら幻滅するんじゃないかと思って……」

「そ、そそそ、そんな事あるわけないじゃない! ほんの少しイメージと違ったから驚いただけよ!」

「本当? あんなだけど、大丈夫?」

「も、もちろんよ! むしろ私も、副会長を見習ってあのくらい茶目っ気を出すべきかもしれないわ!」

 脂汗を流しながら右拳を握りしめるチアキに、あんまり無理はしないでよねと釘を刺す。ノリコの幼なじみとして言わせてもらえば、あまり彼女の影響を受け過ぎると言うのも勘弁してもらいたい。ノリコのような子は一人で十分だ。少なくとも、ヨウはそう思う。

 生徒会室がその慌しさを増していく中、四人は再び書類へと目を通し始めた。






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