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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第一部
24/135

24 難癖





「お前ら、よくあの講義続けられるよなあ。オレだけじゃなかったろ? 今日来なかった奴」

「うん、大分減ってたよ。やっぱりみんなには難しいのかな?」

「そうだよ、さんざん言ったろうが。あんなのわかるのはお前らだけだって」

 午後の講義も全て終わり、チアキと別れたヨウとフィルは寮へと戻る所であった。今週から部活動の勧誘も解禁され、廊下から玄関まで新入生の勧誘で上級生たちがひしめきあい、学院は祭りのような熱気に包まれている。

 どの部活も新入生の獲得にあれやこれやと知恵をしぼり、趣向を凝らし、あるいは玉砕覚悟で猪突猛進する。そんな部活動の勧誘の波をかき分けながら、二人は例の人気ひとけが少ない倉庫脇の道へと出た。


 倉庫脇はあいかわらず静かで、ヨウたち二人以外に人通りはない。いずれ他の生徒もこの道に気づくのかもしれないが、少なくともこの時間帯に通るのは今の所ヨウたちくらいのものなのだろう。

 二人は、例のテラダ教授の講義について話しながら帰り道を歩いていた。

「あーあ、返す返すも残念だぜ。せっかく副会長と同じ講義だったのになぁ」

「フィルももう少しがんばってみればいいのに」

「冗談じゃねえ、オレはお前らと違って単位を取りこぼす余裕なんてないんだ」

 恨めしそうにヨウを睨む。確かにあの講義は内容が難しすぎるかもしれない。そう思うと、ヨウとしてもさすがに無理には誘えなかった。

 もうあの講義の事は思い出したくないのか、倉庫のあたりに差しかかった所でフィルが話題を変える。

「はぁ~、それにしてもヨウが生徒会とは、今日はめでたいぜ」

「ははっ、ありがとう」

 笑って礼を言う。生徒会選考試験の合格を素直に喜んでくれるフィルの気持ちが、ヨウには嬉しい。そんなヨウの心中を知ってか知らずか、鬼の居ぬ間にと言わんばかりにフィルがヨウの肩に手をかける。

「これからはお前も大変だな。なんせあのチアキと四六時中一緒なんだろ? うるさくてしょうがないんじゃないか?」

「あはは、それはチアキに悪いよ」

「何が悪いもんか。ほら、あいつ、ボヤボヤしてるとこーんな顔して怒るからさ」

 フィルが自分の顔の両側に手を当てて上へと引っ張る。目と口の端が吊り上がったその顔に、ヨウも思わず吹き出す。確かにチアキはやや吊り目気味ではあるが、いくら何でもその顔マネは、彼女もさぞ心外であろう。

「でもあれだな、生徒会ってやっぱチアキみたいなタイプのお姉さんばっかりなのか? それは何て言うか、息がつまりそうだな……」

「そ、そんな事はないと思うけど……」

 否定するヨウに、フィルが妙に自信ありげに首を横に振る。

「いや、わかんないって。ヨウみたいにポヤッとしたタイプは、生徒会に入ったら怒られっぱなしかもしれないぜ?」

「それは注意しないとね」

 そんなに自分はぼうっとしているように見えるのか。そう思いながらヨウが頭をかく。もっともチアキからは頻繁にお小言を頂戴しているわけだから、フィルの言う事もあながち的外れとは言えないのかもしれない。

 と、生徒会には一人ぼうっとしている知り合いがいる事をふいに思い出す。

「そっか、でもそれじゃあノリコは苦労しただろうなぁ」

「え、副会長が?」

「ほら、ノリコって昔からあんな調子だからさ。ぼんやりというか、ぽーっとしてるんだよ。フィルも今度会ったらちょっと注意してあげてよ」

「ア、アホかお前! 副会長に向かってそんな事言えるわけないだろ!」

「あ、そっか、上級生だもんね」

「そういう問題じゃねーよ!」

 思わずフィルが突っ込む。そういう問題でなければどういう問題なのだろう。

「大体、副会長に会う機会なんてそんなにないっつーの。あの講義も結局あきらめちまったし」

 残念そうにつぶやくフィルに向かって、思い出したようにヨウが言う。

「あ、でも、僕の補佐になればすぐ会えるよ。その時にでも……」

「言わねーよ! つーか、言えねーよ!」

 ひとしきり突っ込むと、頭を押さえながらフィルが首を振る。

「大体、オレまだ補佐になるか決めてないし。つーか、オレはムリだろ。普通に考えて」

「いや、ノリコは大丈夫だって言ってたよ。また会うのが楽しみだってさ」

「マジで!?」

 驚いたフィルがヨウの方を振り返る。そんなに驚く事かなあと思うが、あのチアキがあそこまで憧れていたのだ。フィルにしてみれば、生徒会というのは本当に雲の上の存在なのかもしれない。

「ホントホント。だから、補佐の話、頼んだよ?」

「う~ん、オレにはとても務まりそうにないと思うんだけどな……」

「簡単な面接があるって言ってたけど、ノリコはちゃんとほめてたよ、フィルの事」

「そ、そうか……。何だかおそれ多いな……」

 不安そうな顔のフィル。

「フィルなら大丈夫だって、僕も信頼してるし」

「そ、そうか? って、そういう事を面と向かって言うなよ! 照れくさいな!」

 少し居心地が悪そうにフィルが頬をかく。

「補佐を決めるまでにはしばらく時間があるから、フィルもゆっくり考えてよ」

「あ、ああ……そうさせてもらうぜ」

 フィルにもいろいろと都合があるだろうしね。彼の都合を斟酌しながらも、期待を込めた目でよろしくとフィルに微笑む。

 その時、彼らの背後でがさりと物音がなった。背中に向けられる悪意を感じ、ヨウは思わず足を止めた。





「何か面白そうな話をしてやがるな、お前ら」

 声に振り返ると、そこには見知った顔があった。ハヤセとその取り巻きだ。嘲るような笑みを浮かべながら、三人が近寄ってくる。

「補佐を選ぶとか、こいつ何様のつもりなんだ?」

「そっちの青目も青目だぜ。その気になっちまってよ」

「けっ、昼に因縁つけて生徒会に引っ張られたってのに、懲りずにまた来たのかよ。毎度ヒマな連中だな」

 うんざりとばかりにフィルが毒づく。ハヤセのこめかみに青筋が走る。

「そうだよ、お前らのせいでオレは生徒会にこってりしぼられちまったんだよ」

「そんなの自業自得だろ。あんな事言ってタダですむとでも思ってたのかよ」

「黙れ! オレはこいつが生徒会に受かったなんて認めてねえんだよ! テメエの化けの皮、ここで剥がしてやる!」

 ドスの利いた声でハヤセが叫ぶ。ヨウは困り顔で首をかしげた。

「化けの皮って、僕特別な事なんて何もしてないんだけど?」

「るせぇ! どうせコネでも使ったんだろ! おいお前ら、さっき逃げやがったんだからちゃんと手伝えよ!」

「わ、わかってるよ」

 左右の取り巻きにハヤセが怒鳴る。昼休みにハヤセを見捨てた後ろめたさもあるのだろうか、渋々といった様子で二人がうなずく。

「おい、ヨウ! 今からオレたちが、お前が生徒会にふさわしい奴かどうか品定めしてやる!」

 再びハヤセがヨウを憎々しげに睨みつけると、その顔に向かい人差し指を突きつけた。




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