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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第一部
16/135

16 伝説

 

 


 生徒会メンバーの選考試験が行われている、武道室の室内。試験中の者以外の全員の視線が今、一人の受験者へと集まっている。

 その受験者――ヨウは、魔法を試験で使用可能だという確認が取れると、ならばそれではと人差し指を箱へと向ける。その指先に、精霊力とは別種の、しかし明らかに強力な何らかの力が集まっていく。

「それでは、遠慮なくいかせてもらいます」

 そう言うや、ヨウの指先からまばゆい光の矢が一つ、二つと放たれた。そのそれぞれが、台座の上の箱へと向かい光の軌跡を描きながら突き進んでいく。

 風の障壁を軽々と突き破った合計三つの光の矢は、しかし側面から飛んできた風の槍に貫かれ、光の粒へとはかなく還っていく。台座の隣では、カツヤが風の渦を右腕にまとわせながら冷や汗を流していた。

「まったく、何て威力なんだ……」

 苦笑しながら、一言ぼやく。

「あの矢の一つ一つが、俺の『疾風の投槍ウィンド・スピア』と同等の威力を持っているなんてな。お前、本当に新入生か?」

「お世辞は結構ですよ、先輩。結果として僕が放った『古魔法の矢ルーン・アロー』は完全に防御され、肝心の箱には傷一つつける事もできていないんですから」

 柔和な笑顔で返すヨウに、カツヤが呆れたような表情を浮かべる。それは周りで試験の様子を見守っている生徒会のメンバーも同様だった。

「さて、次はどうしようかな……」

 あごに手を当てながら、ヨウがうつむいて少し考え込む。そして、

「そうですね。ここはシンプルにいきましょう」

 頭を上げると、満面の笑みで再び箱を指差した。

「それでは、いきますよ」

 ヨウの指先に再び力が集まり、闇夜を照らすともしびのように明るく発光していく。そしてその指先から、先ほど同様に光の矢が放たれた――ただし今度は、幾十もの矢が、途切れる事もなく。

「なっ……!?」

 視界を焼く光にひるむ事なく、カツヤは次々に飛来してくる光の矢を『疾風の投槍ウィンド・スピア』で迎撃していく。そのまま互いに無数の攻撃を放ち続けていたが、徐々にカツヤが押され始めた。

「くっ、何て連射速度だ……! これじゃらちがあかねぇ!」

 このままではいずれ押し切られると判断したのか、右手で『疾風の投槍ウィンド・スピア』を放ち続けながらも、カツヤが左手に新たな精霊術を発動させる。複数の精霊術の同時制御。目の前の生徒会役員がただ者ではない事の証左であった。

「これでどうだ! 『疾風の騎士槍ウィンド・ランス』ぅぅぅ――ッ!」

 気合と共に、カツヤが左腕をヨウへ向かって突き出す。するとその左腕から、うなりを上げて大出力の風の精霊力が放たれる。風は周囲の大気を巻き込みながら柱状に収束し、『疾風の投槍ウィンド・スピア』の五倍ほどの太さがあろうかという巨大な槍となって光の矢の群れの中へと放たれた。ヨウ目がけて直進する大槍は、圧倒的な破壊力をもって光の矢を次々に粒子へと還元していく。

 だが、無数に飛びかう光の矢の前にその力はみるみる相殺されていき、ヨウの下に届く頃にはその大きさは元の半分以下にまで削られていた。ヨウが槍を一睨みすると、槍の行く手を阻むかのごとく光り輝く円陣が現れる。その円陣に衝突すると、槍は瞬く間に一陣の風となって霧散していった。

「冗談だろ……? 俺の『疾風の騎士槍ウィンド・ランス』が、まるで通じないってのかよ……」

 渾身の一撃であったのだろうか、カツヤが苦しげに肩で息をする。対するヨウはと言えば、疲労の色を見せるどころか、いまだ汗一つ流していない。

「いいえ、まるで力が通じていないのは僕の方です。連射で押し切るつもりだったんですが、あの槍に片っ端から打ち落とされてしまいました。やはり生徒会メンバーの精霊力は半端じゃありません」

「お前、この場面でそのコメントは、もはや嫌味の域に突入してるってモンだぜ……?」

 真面目な顔で答えるヨウに呆れた顔で、頭を掻きながらカツヤが言う。

「お前の力は十分わかった。ここで試験を終わりにしてもいいんだが、どうする?」

 その言葉に、青天の霹靂だとでも言わんばかりにヨウは首を横に振る。

「とんでもない! 僕はまだ箱にまるで触れられていません! ただでさえ僕には精霊力がないって欠点があるんだから、せめてここでくらい、少しはいい所を見せないと!」

「あ、いや、わかった……」

 これは困ったとばかりに、カツヤがため息をつく。そして周りに聞こえないように小声で、

「いい所なんて、もう十分見せつけてくれてんだろが。まったく、これじゃまるで俺が試されてるみたいだぜ……。史上四人目の『箱を破壊された試験員』なんて、俺はごめんだぞ?」

「先輩、さっきから何を言ってるんですか?」

「いや、こっちの話だ。気にするな」

 腹をくくったカツヤが、精霊力を両腕に集中させていく。先ほどの『疾風の騎士槍ウィンド・ランス』で相当精霊力を消費したはずであるが、まだこれほどの余力を残しているとは。このあたり、さすがは生徒会の三年というべきか。

「それでは、いきます」

 気を引き締めて、ヨウが何やら呪文のようなものを詠唱し始める。すると、箱の周りを取り囲むかのように、空中にいくつもの円陣が現れた。360度、箱の上下左右を取り囲むように現れたそれは、そのどれもが銀色に輝きながら右回り、左回りとぐるぐる回転している。その円陣のそれぞれに強い力を感じ取り、カツヤは思わずうめいた。

「おいおい、こいつはまさか……」

「はい、その円陣のそれぞれが、先ほどの『古魔法の矢ルーン・アロー』を放つための装置になっています。先ほどは一方向からの連射だったので『疾風の騎士槍ウィンド・ランス』に一掃されてしまいましたが、全方位からの一斉掃射ならどうかと思いまして」

「じょ、冗談だろおぉぉぉぉっ!?」

 思わずカツヤが絶叫する。しかし彼の叫びも空しく、円陣はその輝きを増すと、無慈悲にも箱に向かい一斉に光の矢を打ち出し始めた。流れ星を彷彿とさせる無数の矢が、文字通り雨あられと降り注いでくる。

「うおおぉぉお、やってやる!」

 あらゆる方向から飛んでくる光の矢に、カツヤも決死の形相で両手から『疾風の投槍ウィンド・スピア』を発射して迎撃する。どの方向を見ても砕かれた矢が光の粒となって飛び散り、視界が光で覆いつくされていく。

「くそったれええぇぇぇぇっ!」

 咆哮と共に、あらん限りの力を振りしぼり槍を打ち出していく。だが無情にも、そんな彼の耳にヨウのつぶやきが聞こえてきた。

「さすが先輩……。では、各円陣からの射出間隔を三割縮め、射出初速を四割ほど増してみましょう」

 いまいち緊張感に欠けたその声と共に、密度を一層増した光の矢の嵐が、台座の上の箱へと一切の容赦なく降り注ぐ。

「マ、マジかああぁぁぁぁあああぁっ!」

 次の瞬間、台座のあたりがひときわまばゆい光に包まれた。




 かくして、ヨウ・マサムラは史上四人目の『箱を破壊した生徒』となったのであった。無論、それにともなう形でカツヤ・マエジマも生徒会の歴史にその名を刻まれる事になる……。




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