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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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2 新年度の挨拶




 その日は午後からの入学式に先立ち、在校生の始業式が行われた。

 学院長とノリコ・ミナヅキ生徒会長による挨拶の後、生徒は各教室へと戻っていった。

 ヨウも教室に戻った後、フィルたちと談笑していた。

「結局、二年になってもそれほどメンツに変化はなかったな」

 フィルがつぶやく。

 ヨウとフィル、チアキ、そしてシズカは今年も同じクラスになった。今年はそれに加えて、チアキの補佐のスミレ・ハナゾノが同じ組になっている。

 二年生の組分けは成績や委員会・部活等への参加状況を考慮して決められるらしく、生徒会役員とその補佐はある程度同じ組に集められる傾向にあるそうだ。

「でも、クジョウ君は別の組に変わったみたいね」

「うん、残念だね」

 チアキの言葉にヨウが同意する。彼は生徒会役員がいないA組に移ったそうだ。

「オレはスミレちゃんが同じクラスになってくれて嬉しいぜ。まあ、スミレちゃんは教室でもこいつと一緒になってたまったもんじゃないだろうけどな」

「ちょっと、あなた私にけんか売ってるの!? あなたこそ、スミレに迷惑かけるんじゃないわよ?」

「あはは……」

 二人のやり取りに、スミレが困ったように笑う。

「ミナトさんもよかったね、あの二人が同じ組のままで」

「そうだね。あの子たち、また変なこと言ってくるかもしれないけど気にしないでね?」

「うん? うん、仲よくさせてもらうよ」

 ヨウが笑うと、シズカもはにかんだ。

「ま、クラスは正直変わり映えしないし、新入生に期待ってとこだな」

「今まで何も起こらなかった人間には、新入生が入ってきたからって何も起きやしないと思うのだけれど?」

「はっ、知らないのかお前? 男ってのはな、先輩ってだけで魅力が五割増しになるんだよ」

「……フィル、あなた、それ自分で言ってて空しくない?」

 いつもの漫才に、ヨウの頬も思わず緩む。

 見れば、シズカとスミレの補佐コンビも楽しげに話している。

 今年はこの仲間たちと楽しくやれるといいな。ヨウはそんなことを思いながら、友人たちを見つめていた。


 その日の午後、帝国精霊術士学院の大講堂において入学式が行われた。

 学院長、各学部長の話に続き、生徒会副会長のイヨ、そして生徒会長であるノリコが登壇する。

 その姿を見ただけで、新入生のほとんどは心を奪われてしまったようであった。さらに、その桜色の唇から紡がれる言葉に、全生徒が引きこまれていく。

「……学院での生活を通じ、皆さんはかけがえのないものを見つけ、あるいは手に入れることでしょう。それが何であるかは人それぞれだと思います。私たちもそのお手伝いをできれば幸いです。皆さん、これから私たちと一緒に大切なものを探していきましょう!」

 力強いノリコのメッセージに、生徒の間から割れんばかりの拍手と歓声が湧き起る。こんなことは学院史上初めてなのではないだろうか。

 興奮のるつぼと化した会場の中、ヨウは席へと戻ったノリコの後ろから新入生の顔を見回す。

 彼らの間でも、ノリコのことは広く知られているようであった。学院史上最高の天才とも噂される逸材。新入生たちはそんな彼女に圧倒され、そして心奪われているように思われた。

 少し誇らしい気持ちになりながら、ヨウは頼もしく成長した幼なじみの背中を見つめていた。


「やっぱりノリコは凄いね」

 入学式も無事終わり、生徒会室へと戻る途中、ヨウはノリコに話しかけた。

「凄いって、何が? あたし、そんなに凄かった?」

 ノリコが嬉しそうに聞いてくる。

「もちろんだよ。新入生、みんなノリコの話に釘づけだったよ。本当に生徒会長らしくなったなと思って」

「へへーん、そうでしょう! あたしだって日々成長してるんだから!

 そう言いながらノリコが胸をそらす。

 その胸のふくらみが以前より大きくなっているような気がして、ヨウは思わず目を伏せた。

 イヨがぼやいてみせる。

「まったく、私の挨拶が先でよかったわよ。ノリコの後だったらと思うとぞっとするわ。あの雰囲気の中でなんて、話せるわけないじゃない」

「あはは……」

 確かに、自分もあの後に何か話せと言われたら全力で拒否するだろう。こればかりは、ノリコには到底かないそうにない。

「でも、楽しみだね。あの中から、今年はどんな子が選考試験に来てくれるんだろうね」

「そうだね、僕も楽しみだ」

「強い子はもちろんだけど、あたしは仲よくやれる子がいいな」

 そう言ってから、ノリコは訂正した。

「ちょっと違うかな。何かこう、思いつめ過ぎてたり、気負い過ぎてたり、そういう子も楽しく暮らせるようお手伝いしてあげたいな」

「経験者は語る、だね~」

 横からアキホが首を突っこんでくる。経験者とはいったいどういうことだろう。

「アキホ先輩、それってどういう……」

「べ、別にいいじゃない!」

 ヨウの質問をノリコが遮る。どうやらあまり触れてほしくない話題のようだ。

 そう思い、ヨウはノリコに笑いかける。

「そうだね。それじゃ、僕たちはみんなの手助けができるようにがんばろう」

「うん! ヨウちゃん、よろしくね!」

 弾けそうなノリコの笑顔がまぶしい。

 そうだ、自分も新入生の、そしてノリコの力になれるようがんばろう。ヨウは一人密かにそう決意するのだった。






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