1 今年の目玉
帝都にも、桜が咲く季節になった。
学院の桜並木も見事に咲き誇る。
三年生が卒業し、ヨウたちも四月からは二年生として後輩たちを引っぱっていく立場になる。
学院もつかの間の春休みとなる中、各組織は新入生を迎え入れるための準備に追われていた。
それは、生徒会とて例外ではない。
ヨウたちも、生徒会室で学院から生徒会に配布された新入生名簿を見つめていた。
「すごいねこの子、小学馬術大会で優勝だって! この子が入ったら、馬術部の連覇記録、また伸びるかもね!」
ノリコがそんなことを口にする。
もちろん、ただ遊んでいるわけではない。こうして名簿に目を通し、有望そうな生徒を事前に確認しているのだ。
特に、進級して新二年生になるメンバーは、自分の補佐をもう一人増やすことができる。シズカを補佐に選んだヨウや、同じく同級生を補佐に選んだチアキはともかく、これからもう一人の補佐を選ぶカナメやアキヒコにとっては、新入生の情報は候補選びの検討材料として重要なものであった。
アキホが楽しそうに笑う。
「去年は大変だったよね。ノリコが『今年は凄い子が入るんです!』って言い続けてさ」
「あれには先輩たちもかなり緊張してたよな。あのノリコが自分よりずっと凄いなんていうもんだから、どんな化け物が入学してくるのかと戦々恐々だったぜ」
会計のイッペイ・キノシタがうんうんとうなずく。
「で、実際に会ってみたらこんなかわいい男の子だもんね。肩透かしを食らった気分だったよ」
「でも、かわいい顔してカツヤ先輩をのしちまったからな。それに、入試成績見た時は目を疑ったぞ? 学科試験がほとんど満点なんて、いったいどんなガリ勉野郎なんだと思ったもんだぜ」
「そのくせ精霊術はホントにギリギリのラインだったから、不思議で仕方なかったよね。何か力を出せない事情でもあるのかとみんなで謎解きしたものだよね」
「そうそう、最初はノリコが教えてくれなかったんだよな。で、実は精霊力の制御ができなくて、ひとたび力を解放したら周囲が灰になっちまうとか、いろいろ説が出たんだよな」
「僕の話はもういいですよ……」
顔を少し赤くして、ヨウはうつむいた。
そんなヨウに助け船を出すように、副会長のイヨ・タチカワが一年生たちの顔を見回す。
「もちろん、他の生徒たちにも目は通していたのよ。カナメ君やチアキちゃんは初めから目をつけていたから、来てくれて嬉しかったわね」
「あ、ありがとうございます」
カナメがぺこりと頭を下げる。
「去年の目玉はやはりヒロキ・クジョウだったんですか?」
チアキが問う。その目には、クジョウに対する若干の対抗心があるようにも見える。
「そうだね~、何といっても去年の首席合格者だし、あのクジョウ家の嫡男だしね。成績も、ノリコをのぞけばここ十年、いや二十年で一番の出来だったみたいだし」
「ま、生徒会ではそのクジョウよりも注目を集めてた奴がいたわけだがな」
生徒指導担当のショウタ・ヨシダがちらりとヨウを見る。
「だから、僕の話はいいですってば……」
「おっと、すまんすまん」
そう言ってショウタが頭をかいていると、フィルが先輩たちにたずねた。
「てことは、今年も目玉がいるんすかね?」
「もちろんだよ。今年は何といってもこの子かな」
アキホが名簿の最初の方のページを指さして得意げに言う。
「ユウリ・アキヤマ。軍人の家としてはあのクガ家と並ぶ名門、アキヤマ家の出身だよ。お兄さんは何代か前の生徒会長を務めて、今は軍の幹部候補だね」
「今年の首席だし、成績も凄いもんな。クジョウに迫るレベルだぜ。ここ三年間は本当に当たり年が続くな」
「僕も見ましたけど、本当に凄いですよね」
ヨウもあいづちを打つ。
と、突然ノリコが勢いよく立ち上がった。
「そんなことでどうするの、ヨウちゃん!」
「ええっ!? いきなり何?」
「あたしたちはこれから先輩として新入生を引っぱっていかなきゃいけないんだから! ね、シズカちゃん!」
「え!? あ、はい! がんばります!」
急に話を振られ、ヨウの補佐が内定しているシズカがよくわからない返事をする。
「あの、僕、アキヤマさんを褒めただけなんだけど……」
「弱気は損気! ヨウちゃんには、もっと自分に自信を持ってもらわないと!」
「は、はあ……」
それを言うなら短気は損気では、とヨウは思ったが、またややこしくなりそうなので黙っておくことにする。
「でも楽しみですね、どんな生徒が入ってくるか」
「ホントだよね。ノリコ、新入生への挨拶、ちゃんと考えておくんだよ」
「まかせてよ! ヨウちゃん、また相談よろしくね!」
「う、うん」
去年の会長就任時の挨拶を手伝ったことを思い出し、ヨウの返事に幾分苦笑いが混じる。あの時は大変だった。
「今年は生徒会としても、少し勧誘に力を入れてみようかと思うんだ。他の委員会や部活に負けてられないしね。みんな、がんばろう!」
「はい、会長!」
ノリコの言葉に、チアキが力強く返事する。
二人とも、その気合が空回りしなければいいんだけれど……。
そんなことを思いながらも、ヨウもまた新入生に期待を寄せるのだった。
いよいよ第四部となりました。
新入生も交えての学院生活、今後もご愛読いただけると嬉しいです。




