44 ノリコとシズカ
シズカに補佐の件を頼んだその日の午後、ヨウはさっそくシズカを連れて生徒会室へと向かった。
一緒に生徒会室へと向かうチアキが、シズカにあれこれと話しかける。
「でもよかったわ、あなたが補佐を引き受けてくれて」
「ホ、ホントに私なんかが引き受けてよかったのかな……」
「当たり前じゃない。あなたでだめなら、そこのだめ人間はいったいどうなっちゃうのよ」
「失礼な奴だな、だめ人間とは何だよ」
ヨウの隣を歩くフィルがチアキを睨む。
「でも、本当に私がついていけるのかな……」
「だから心配ないわよ、フィルでさえ一応何とかやっていけてるんだから」
「そうそう、こいつに言われるのはシャクだけど、オレでも大丈夫なんだから心配すんなよ」
「あ、ありがとう……」
「安心してよミナトさん、わからないことがあれば僕が手伝うから。最初は少しずつ慣れていってくれればいいよ」
ヨウが柔らかく微笑む。
チアキがシズカに近づき、耳元でささやく。
「ところでシズカ、生徒会室に入る時なんだけど、少し心の準備をしておいた方がいいわよ」
「こ、心の準備!? やっぱり、私が軽々しく入っていい場所じゃ……」
「違うのよ。そうじゃなくて、何というか、その、会長がね……」
「ミナヅキ会長が!? ど、どうしよう! そんなに厳しい人なの!?」
「いや、そうじゃないのよ。そうじゃなくて、何というかね……」
「ど、どうしよう……」
シズカが小刻みに震え始める。
ヨウが慌てて声をかける。
「だ、大丈夫、大丈夫だよ。ミナトさんが思ってるようなことじゃないから。ただちょっと、びっくりしないでね?」
「びっくり?」
「うん。何というか、とにかく驚かないであげてもらえると嬉しいというか……」
不思議そうにシズカが首をかしげる。
間もなく生徒会室が見えてくる。
大丈夫かなあ、と思いながら、ヨウは扉に手をかけた。
扉を開くや、正面の会長席から鈴の音が鳴り響いた。
「あっ、ヨウちゃん! その子だね!」
「っ!?」
思わずシズカがびくりと身をすくませる。それに気づいていないのか、ノリコが続ける。
「よかったねヨウちゃん、引き受けてもらえたんだね! ほら、早く早く!」
「そんなに急かさなくても、ちゃんと行くってば」
チアキがシズカの肩に手を置き、中へと入るよう促す。
シズカを会長席まで連れてくると、ノリコは勢いよく立ち上がった。
「こんにちは、シズカちゃん! 対抗戦以来だね!」
「え!? は、はい! お久しぶりです!」
「ヨウちゃんの話、受けてくれたんだね! 正式には四月からになるけど、さっそくよろしくね!」
「はい、がんばります!」
元気よく返事するシズカだったが、その目は驚きで白黒している。
「ごめんねミナトさん、ノリコはここじゃいつもこんな感じなんだ」
「ちょっと、ごめんねって何よヨウちゃん、あたし何かした?」
「い、いえ、とんでもない!」
慌ててシズカが首を振る。
ノリコもシズカが緊張していることに気づいたのか、柔らかな笑みを浮かべるとやさしく声をかけた。
「初めてで驚いてるよね、シズカちゃん。あたしも少し休もうと思ってたところだし、少しそこでお茶でもしよっか」
「は、はい!」
ノリコに誘われ、入り口前の休憩スペースに腰をかける。
戸惑うシズカに、チアキがお茶をつぐ。
「ね、だから言ったでしょ? 心の準備をするようにって。私も初めは本当にびっくりしたものよ」
「う、うん……」
ノリコがお茶を手に取りながらシズカに話しかける。
「それではあらためて。あたしはノリコ・ミナヅキ。学院の生徒会長を務めています。よろしくね!」
「は、はい! わ、私、シズカ・ミナトと申します! 未熟者ですが、どうかよろしくお願いいたします!」
「大丈夫! シズカちゃんの力は、あたしも対抗戦でとくと見せてもらったから! 君みたいな子が生徒会に来てくれて、あたしたちも心強いよ!」
「きょ、恐縮です……」
照れなのか緊張なのか、シズカが視線を下へと向ける。
その様子に、ノリコがつぶやいた。
「ヨウちゃんが言ってた通りかもね。シズカちゃん、確かに昔のあたしに似てるかも」
「か、会長にですか!? とんでもない! 私なんて、会長にかなうところなんか一つもないです!」
「シズカちゃん、そういう言い方はあんまりよくないよ? もっと自分に自信を持たなくちゃ」
「す、すみません」
「そうよシズカ。確かに私もあなたも、会長には学科でも精霊術でも何一つ勝てるところなんてないけれど、それでもどこかすぐれたところはあるはず、それを常に探し続けなさいと会長はおっしゃっているのよ」
「その通り! チアキちゃん、いいこと言う!」
ノリコがビシッとチアキを指さす。我が意を得たりと言わんばかりの顔だ。
「あ、もちろん何一つ勝てるところがないとかは思ってないよ? そうじゃなくて、ちゃんと自分のいいところを見つける努力をしよう、ってことね?」
「は、はい」
「第一、シズカちゃんはヨウちゃんが選んだ補佐なんだから。そんなこと言ったら、ヨウちゃんがかわいそうだよ」
ノリコの言葉に慌てて立ち上がると、シズカがヨウに頭を下げる。
「そ、そうでした! マサムラ君、ごめんなさい!」
「いいよミナトさん、僕のことなんかは気にしなくても」
「ヨウちゃん!」
「は、はい!」
「何ですか、その言い方は! あたしをはじめ、みんなヨウちゃんのことを信頼してるんだよ? そのヨウちゃんが『僕のことなんか』とは何ごとですか! シズカちゃんだって不安に思っちゃうでしょう!」
「ご、ごめんなさい」
頭を下げるヨウに、ノリコは満足気にうなずいた。
「よろしい。じゃあ今日は、シズカちゃんに仕事を教えてあげてね?」
「うん、まかせてよ」
「その前に、みんなにシズカちゃんを紹介しないとね。はいみんな注目ー! 新しい仲間を紹介するよー!」
ノリコの声に、生徒会のメンバーが休憩スペースへと集まってくる。
もう大丈夫かな、と、ヨウはシズカの顔をのぞいてみる。
それに気づいたのか、シズカはかすかに笑みを返した。どうやらもう心配ないようだ。
その後ノリコによってシズカが紹介される。新しい仲間を、生徒会のメンバーも皆歓迎した。
ヨウもその様子に安心しながら、これからはより一層がんばらないと、と決意を新たにするのであった。




