43 新しい補佐
「ねえ、ヨウちゃん」
会長席で椅子を並べて仕事をしていると、ノリコが声をかけてきた。
「何?」
「もう一人の補佐、もう決まってる?」
「ああ、もうそんな季節なんだね」
生徒会役員は二年に進級すると、二人目の補佐を任命することができる。ノリコはそのことを言っているのだった。
「そうだなあ、候補なら一人いるよ」
「へえ、誰々、どんな子?」
「ノリコも知ってる人だよ。僕のクラスで、対抗戦を一緒に戦った、シズカ・ミナトさん」
「ああ~、あの子かぁ!」
ノリコが嬉しそうに叫ぶ。
「真面目そうだし、かわいい子だったよね。引き受けてくれるといいね!」
「そうだね、断られないようにがんばるよ」
「あたしもぜひ会いたがってたって伝えてね? 正式には四月から就任することになるけど、引き受けてくれたならさっそく今月から来てもらっていいからね?」
「うん、それじゃがんばるね」
うなずくと、ヨウは手元の書類へと視線を戻した。
「聞いたわよ。あなた、シズカを補佐にするつもりだそうじゃない」
「うん、そのつもりだよ」
チアキは少し残念そうな顔を見せた。
「シズカは私が声をかけようかと思っていたのに。まあいいわ、勧誘がんばってらっしゃい」
「いいの? チアキも誘おうと思ってたなら、遠慮しなくてもいいよ?」
「いいのよ。正直あなたの補佐がシズカなら、私も安心できるし。だって、もう一人の補佐はこれだし……」
「これとは何だ、これとは」
チアキの言葉に、一緒に休憩していたフィルがぎろりと睨む。
「オレは大歓迎だぜ? シズカちゃんが加わってくれれば、オレもずっと楽になるし」
「あなた、調子に乗ってシズカに仕事押しつけるんじゃないわよ? そんなことしたらただじゃおかないから」
「しねーよ。むしろオレがシズカちゃんを助けてやるに決まってんだろ、お前じゃあるまいし」
「何ですってぇ!?」
睨み合うフィルとチアキに、ヨウは苦笑いを浮かべながら茶をすするのだった。
「ミナトさん、話があるんだけど、ちょっといいかな?」
「へえっ!?」
いつもの女友達と談笑していたシズカにヨウが声をかけると、彼女は驚いた顔を見せた。
「二人とも、ちょっとだけいいかな?」
「ええ、ええ、もちろんですとも!」
「マサムラ君、どうぞどうぞ!」
「ちょ、ちょっとちょっと!?」
友達はシズカを無理やり立たせると、その背中をぐいぐいと押す。
「ごめんねミナトさん、急に」
「え、ううん! それは別にいいの、全然!」
「ほら、早く行きなって!」
「わ、わかってるってば!」
二人に押し出されたシズカは、早く行こ、とヨウの袖を引っぱる。
「ひゅーひゅー!」
「シズカ、がんばって!」
「も、もう!」
怒ったように二人を睨むと、シズカは顔を真っ赤にして廊下へと出た。
「ご、ごめんね、迷惑だった?」
「ううん、全然! こっちこそ、あの子たちが変なことばかり言ってごめんなさい!」
人影の少ない廊下で、シズカがぺこりと頭を下げる。
そのままうつむきながら、シズカがもじもじと尋ねてきた。
「それで、その……私に用って何かな?」
「うん、ええとね、生徒会役員は補佐を任命できるのは知ってるよね?」
「うん、フィル君とかがそうなんだよね? 役員のお手伝いする人のことだよね」
「そうそう。それでね、僕も二年生になるからもう一人補佐を任命できるんだ」
「そうなんだ! マサムラ君の補佐だから、きっと凄い人がなるんだろうね!」
「うん、それはもう凄い人だよ。とっても信頼できる人。引き受けてもらえるといいんだけど」
「マサムラ君がそこまで言うなんて、本当に凄いんだね! 大丈夫、きっと引き受けてくれるよ」
「ありがとう、ミナトさん。それじゃあ、引き受けてくれるよね?」
「うん、マサムラ君の頼みなら。で、何を引き受けるの?」
「だから、補佐の仕事だよ。ぜひミナトさんにお願いしたいんだ」
「それくらいお安いご用だよ! 補佐の仕事ね……って、ええええ――ッ!?」
にこにことうなずいていたシズカが、廊下に響き渡るほどの絶叫を放った。思わずヨウが耳をふさぐ。
「ご、ごめん! 大丈夫!?」
「へ、平気……。で、ミナトさん、引き受けてもらえる?」
「む、無理無理、無理だよ、私になんて!」
「そんなことないよ、定期考査の成績だってよかったし、対抗戦でもあんなに活躍したじゃない」
「で、でもでも!」
「それにノリコ……ミナヅキ会長も、ミナトさんにぜひ会いたいって言ってたよ」
「か、会長が!?」
シズカが驚きに目を丸くする。
「だからミナトさん、ぜひ君にお願いしたいんだけど」
「でも、もっと私なんかよりずっといい人がいるはずだよ! 私なんて……」
「君じゃないとだめなんだ」
「ふぇっ!?」
奇声を上げたシズカが目を白黒させる。
「僕、他にお願いできるような人もいないし、頼れるのは君しかいないんだよ。ミナトさんなら性格も実力もわかってるし。どうしても駄目なら諦めるけど、引き受けてもらえないかな?」
「私じゃないと、だめ……」
うわごとのようにつぶやいたかと思うと、正気に戻ったシズカは強くうなずいた。
「わ、わかった! 足手まといになるかもだけど、私がんばる!」
「本当!? ありがとうミナトさん、恩にきるよ!」
嬉しさにヨウが笑みを見せる。
思わずシズカの手を取ろうとしたその時、後ろから女子の声が聞こえた。
「聞ーいちゃったー、聞いちゃった!」
「ちょっ!?」
「えっ!?」
ギクリとそちらに目をやると、そこにはシズカの友達の姿があった。
「君じゃないと、だめなんだ!」
「マサムラ君、やっるぅー! シズカのこと、末永くよろしくね!」
「そ、そんな意味じゃないよ!」
「や、やめてよ! マサムラ君、困ってるじゃない!」
「照れなくてもいいって! お似合いだよ!」
「二人とも、お幸せに~」
そう言い残し、二人はそそくさと教室の中へ戻る。
「ご、ごめんね? あの子たちが変なこと言って」
「う、ううん、気にしてないよ。それより、補佐の件、本当にお願いして大丈夫?」
「うん! 引き受けたからには、一生懸命やらせてもらうよ!」
「ありがとう、恩にきるよ!」
笑顔でうなずくと、シズカも耳まで赤くなりながら笑みを見せる。
こうしてヨウは、また一人心強い仲間を味方につけることができた。




