42 別れのとき
年も替わり、帝都も桜が咲き始める季節になった。
そして、それは別れと出会いの季節でもある。
卒業式を終え、学院の正門には多くの生徒が集まっていた。
生徒会のメンバーも、正門付近の一角で先輩を送り出そうとしている。
「せんぱあぁぁい……びええぇぇん……」
「ほらほらノリコ、そんな顔したら、他の生徒が驚くよ」
子供のように顔をくしゃくしゃにして泣くノリコにタイキが微笑む。
「だって、だってぇ……」
「まったく、ノリコは去年もこうだったな」
「こりゃ来年自分が卒業する時にはどうなっちまうんだろうな。心配でおちおち卒業もできやしねえ」
マサトとカツヤも顔を見合わせて笑う。
「ヨウ君、ノリコのことは頼んだよ」
「はい、もちろんです。まかせてください」
「俺たちも安心だ。卒業したらノリコも大変だろうと思っていたが、お前たちみたいな後輩がいれば大丈夫だろう」
「オレらの期は最強なんて言われてたけど、ヨウがいる今期の方が上を行きそうだな」
「が、がんばります」
頭をかくヨウの背中に、何やら柔らかいものが押し当てられる。
「ヨウ、あんたノリコを泣かせるんじゃないよ? これから新入生が入ってきたら、きっとみんなあんたにベタ惚れだよ?」
「そ、そんなことはないですって」
「ないわけあるもんか。上級生ってだけでも、下級生の女子はときめいちまうもんさ。タイキだって一、二年生にそこそこ人気あったろ? ましてあんたはもうすでに大人気だからね。ほら、あの子らだって卒業前にあんたに声をかけたいんだよ、きっと」
「そんなことありませんってば」
とは言ったものの、ここに来るまでにすでに何人かの卒業生に告白されているヨウなのだった。
「それより、離れてくださいよミチル先輩、そ、その、当たってますから……」
「あたしももうヨウとこうしていられなくのはさみしいね。あたしがいなくなってもさびしがるんじゃないよ?」
「さ、さびしがりませんってば!」
ようやくミチルから解放されたヨウは、周りに目を向ける。
少し離れたところで、チアキが会計のイッペイ・キノシタと共にヒサシ・イトウと話していた。
「キノシタ君、シキシマ君、二人とも立派になったね。これで安心して卒業できる」
「せ、先輩が俺たちを鍛えてくれたからです!」
「イッペイ先輩の言う通りです、ご指導ありがとうございます!」
「会計は実質的に学院の活動を取り仕切る役割を担っているからね。大変な仕事だが、君たちなら大丈夫だと信じているよ」
「先輩……」
会計組は単独で他の組織と接触する機会が多いこともあり、生徒会の中でもとりわけ結束力が強い。あのチアキの目尻にも、きらりと光るものがあった。
「ほらノリコ、いつまでもそんな顔をしてるんじゃないよ」
「びえぇ……ぐすっ……」
目をごしごしこすると、ノリコが先輩たちに頭を下げる。
「先輩方、今まで大変お世話になりました。これからのご活躍、心よりお祈りしています……」
「何だかノリコらしからぬ挨拶だね」
「だ、だって、こうでもしないと……びええ……」
「ああ、ごめんごめん」
そんなノリコに、ヨウも思わず笑みをもらす。
「まったく、ノリコは変わらないね」
「おや、ノリコは昔からこうだったのかい?」
「そうですね、仲のいい人とお別れする時はいつも泣いてました」
「ちょっとヨウちゃん、余計なこと言わないで!」
今度は怒りに顔を赤く染めたノリコが、ヨウにずずいと詰め寄ってくる。
その様子に、卒業生たちからも笑いが起こった。
「はははは! この調子なら大丈夫そうだな!」
「ヨウ君、ノリコのことは頼んだよ」
「もちろん生徒会もよろしく頼むぜ!」
「私も君たちの活躍には期待しているよ」
「はい、がんばります!」
お世話になった先輩たちの温かい言葉に、ヨウも思わず目がうるむ。
と、横からアキホがひょいと首を突っこんできた。
「あの~、皆さんせっかく盛り上がってるところ水を差すようで申し訳ないんだけど、この後生徒会室で先輩方の送別会があるんだからね?」
「あ……」
今にも泣きそうになっていたヨウの顔が、恥ずかしさで、かあっと熱くなる。
ノリコも恥ずかしくなったのか、アキホに食ってかかる。
「何さ、別に盛り上がってもいいじゃない、アキホの意地悪ー!」
「はいはい、話は後で聞くから。先輩方、送別会ではプレゼントも用意してますから期待していてくださいね?」
「おお、そいつは嬉しいな。楽しみにしてるぜ」
マサトがにかりと笑う。
こんなに頼もしい先輩たちがいなくなってしまうのは寂しいし心細くもあるが、そんなことばかり言ってはいられない。今度は自分たちがしっかりとしなければ。
それに、自分はノリコをしっかりと助けてあげないといけないし。先輩たちからの激励を胸に、ヨウは決意を新たにするのであった。




