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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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41 変化




 学院に、ヨウ・マサムラの名を知らぬ者はいなくなった。

 すでに一年生の間ではその名を知られつつあったが、先の対抗戦における彼の活躍は、学園中に衝撃を与えるに十分なものであった。

 ヨウが生徒会会長補佐に就任した際は多くの生徒が首をかしげたものであったが、ヨウの実力が全生徒に知れ渡った今、ヨウを見出したノリコ・ミナヅキ生徒会会長の慧眼ぶりが大いに評価されることもある意味で必然とも言えた。

 そして、当然ながらヨウの生活もまた変化を強いられる。

 夏休みを終えて以来、特にクラスの女子から声をかけられる機会は増えていたが、対抗戦以降、同級生のみならず上級生からの視線も確実に増えた。正直、気が休まる時がない。

 同じ講義を受講している先輩の女子生徒たちから講義の解説をお願いされたことも一度や二度ではない。どこから聞きつけたのかわからないが、ヨウの座学の成績が抜群に良いことを知って講義の解説を口実に彼に迫ってくるのだ。

 男子の反応は大きく二つに分けることができた。一方はヨウの強さに惹かれ、尊敬の念を抱く者たち。そしてもう一方は、女子の人気を一身に集める彼に対し敵愾心を燃やす者たちだ。

 何でもフィルによれば、『ヨウ・マサムラ滅殺同盟』なる物騒な名前の非公認組織まで存在するらしい。その活動内容は聞くまでもあるまい。僕が望んだわけじゃないのに、と理不尽に思いつつも、さりとて彼に何ができるわけでもない。

 どうにも不自由さを感じなくもないのだが、他方で喜ばしい変化もあった。対抗戦を通じて深まったシズカとの絆などは、その最たるものである。

 今では、昼食にシズカが加わることも多くなった。フィルやチアキだけでなく、スミレやカナメと同席することもしばしばである。

 今日も、ヨウはシズカとチアキ、そしてフィルの四人で食堂に席を取っていた。

 料理にはしを伸ばしながら、フィルがあきれたような顔で言う。

「まーた増えたみたいだぜ、『チアキ様を崇める会』。ヨウのファンクラブが乱立するのはわかるんだけどよ、何でお前の信者が増えるんだ?」

「知らないわよ! 私が聞きたいくらいよ!」

「あ、あいつこっち見てにやけてる。絶対『崇める会』のメンバーだぜ」

「うるさいわね、関係ないわよ!」

 フィルもこりないなあ、とヨウが苦笑する。シズカを見れば、彼女も二人のやり取りにすっかり慣れた様子でくすくすと笑っていた。

「でも、シズカちゃんだって結構有名になってるんだぜ?」

「え、私?」

「そうさ、何てったって、あのクジョウにとどめを刺したんだからな。それがシズカちゃんみたいな美少女とくれば、野郎どもが放っておかないさ」

「び、美少女だなんて……」

「いやいや、シズカちゃんは間違いなくカワいいからな。もう結構いろんな奴に言い寄られてるだろ?」

「そ、それは……」

「え、シズカ、本当にそうなの?」

 チアキが少し驚いた顔でシズカを見る。無言のままうつむくその姿が、彼女の問いを肯定していた。

「そりゃそうさ。その様子だと、もうだいぶフりまくってんじゃないか?」

「ふ、振ってなんかないよ!」

 やや大きな声で否定する。

「フィル、シズカをからかうのはやめなさいよ。シズカはあなたの下らない冗談に慣れてないんだから」

「けっ、だったらお前のありがたい話とやらを、『崇める会』の連中にでも聞かせてやればいいじゃねーか。連中、きっと泣いて喜ぶぜ」

「何でそんな話になるのよ」

 睨み合う二人に苦笑しながら、ヨウは話題を変えた。

「ところで、対抗戦が終わったらそろそろ定期考査だね。僕もしっかり勉強しなくちゃ」

「お前、それイヤミか? お前が勉強しなきゃならないテストとか、オレはおろかシズカちゃんやそこの冷血女ですら単位落とすだろ」

「何ですって!?」

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないよ。でも、僕も生徒会の一員だし、がんばらなきゃなあ、って」

「お前はもうがんばらない方がいいんじゃないか? そうしないと、そいつが惨めな思いするだけだぜ?」

「惨めとは何よ! 今度は勝つ……とまでは言わなくとも、少しでも点差を縮めてやるわ」

「あー、それ完全にフラグだから。お前とヨウの点差がさらに開くのが目に見えるようだぜ」

「何ですってぇ!? だいたいあなた、今度赤点なんか取ったらただじゃおかないわよ? 生徒会に泥を塗らせるわけにはいかないのだから!」

「そ、それは補佐に指名した僕の責任だから……」

「そうよ! だからヨウ、あなたはそこの馬鹿がまた恥をさらさないよう、みっちりとしごいておくのよ! いいわね!」

「は、はい……」

 監督責任を問われ、ヨウがとほほと肩を落とす。

「マ、マサムラ君、何だか大変そうだね。私も教えてもらおうかと思ったけど、遠慮した方がいいかな……?」

「あ、シズカが遠慮する必要なんてないのよ? フィルなんてどうせヨウの話を聞いたって右から左へ抜けていくだけなんだから」

「お前、オレを何だと思ってんだよ!」

「そういう口はまともな成績を取ってから言いなさいよ!」

「あはは……」

 おとなしく食事に口をつけていると、シズカが聞いてくる。

「あの、それじゃ、また教えてもらってもいいかな……?」

「もちろんだよ。一緒にがんばろうね」

「うん! がんばる!」

 シズカが笑う。初夏の太陽を思わせる明るい笑顔だ。

 自分ももっとがんばらなきゃ、と気を引き締めると、ヨウは友人たちとの楽しいひとときを過ごした。





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