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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
122/135

37 クラスメイト




 三日にわたる対抗戦も、無事に終了した。

 夕日があたりを赤く染める中、先ほどまで数々の激闘が繰り広げられていた会場の中央で表彰式が執り行われていた。

 各学年の優勝クラスの表彰が終わり、最後に実行委員長が総評を行っているところだ。

 結局、今年最後の試合となった特別戦の決勝は、ノリコたち二年生がタイキ率いる三年生を圧倒して幕を閉じた。新旧生徒会長対決は、大方の予想通りノリコに軍配が上がった。

 この後は、各クラスがそれぞれ集まって打ち上げを行うのが通例だ。ヨウも今日ばかりは生徒会よりもクラスを優先する。もっとも、今日生徒会室に行ったところで誰もいないのだろうが。

 ほどなくして、実行委員長が対抗戦の終わりを宣言した。生徒たちの間から一斉に拍手と歓声が上がる。ヨウもまた、クラスメイトたちと共に懸命に手を叩き続けた。


 教室に戻ると、さっそく生徒たちに料理と飲みものがふるまわれた。あらかじめクラスメイトたちが準備していたのだ。

 全員に飲みものが回ったことを確認すると、学級委員の生徒が音頭をとる。

「それでは、学年総合優勝を祝して……乾杯!」

「かんぱーい!」

 皆器をかかげると、一斉にそれを飲み干していく。直後、歓声が部屋中にあふれる。

 フィルやチアキと一緒にいたヨウのまわりにも、多くの生徒が詰めかけてきた。

「マサムラ! お前本当に凄いんだな! 優勝した上に会長とも互角に渡り合うなんて!」

「マサムラ君、凄くカッコよかったよ!」

「頭がいいだけじゃなく、強さも一番だなんて! マサムラ君、素敵!」

「あ、ありがとう」

 皆に褒め称えられ、ヨウは少々困惑する。こういうことには慣れていないのだ。それに、この頃は特に女子に褒められることが増えてきたような気がする。

 照れくさく思いながらもお礼を言っていると、また女子の一団がやってきた。

 だが、その中につい先ほどまで共に肩を並べていた仲間の顔を見出し、ヨウの頬が緩む。シズカたちのグループだ。

「マサムラ君、お疲れさま!」

「うん、ミナトさんもお疲れさま」

「ホ、ホントに勝っちゃったね……」

「そうだね、これもミナトさんのおかげだよ」

「そ、そんなこと……」

 ヨウの言葉にシズカがうつむくと、友達が黄色い声を上げる。

「キャー! シズカのおかげだって!」

「ねえマサムラ君、シズカ、ちゃんとお役に立てた?」

「もちろんだよ。みんなも見たでしょう? あのクジョウ君を倒したのはミナトさんなんだよ」

「そうよね! よかったわねシズカ! マサムラ君が認めてくれてるよ!」

「も、もう、やめてってば」

 顔を真っ赤にしてシズカが友達を睨む。きっと彼女も、自分と同じでこんな風に褒められることに慣れていないのだろう。

 ヨウの言葉が耳に入ったのか、周りの生徒たちもシズカに声をかける。

「そうそう! ミナト、あれは凄かったぜ! まさかマサムラ以外の奴がクジョウを倒すなんてな!」

「あの技、どうやって使ったんだ?」

「そうそう、シズカってあんなに強力な精霊術使えたっけ?」

「あ、あれは、密かに練習してて、あとチアキちゃんの力も借りてたんだよ……」

「へえ、さすがだな、全員が仕事してたのか」

「正直ミナトで大丈夫かと思ってたけど、終わってみれば一番の武勲をあげてるんだもんな」

 たくさんのクラスメイトが集まり、シズカがますます顔を赤くする。

 その様子を見て、フィルが感慨深げにうなずく。

「いやホント、よくやったよシズカちゃんは。チアキの鬼のシゴキにも耐えて、しっかりと結果を残したんだからな」

「そうだね、ミナトさんには本当に助けられたよ」

 それを聞いて、再びシズカの友達が黄色い声を上げる。いったい、何がそんなに気になるのだろう。

「それよりヨウ、チアキのところがちょっとおもしろいことになってるぜ」

「チアキが?」

 フィルの言葉に、ヨウが後ろを振り返る。

 その視線の先では、クラスメイトに囲まれたチアキが困惑の表情を浮かべていた。

 チアキに向かい、一人の女子生徒が瞳を輝かせながら訴える。

「チアキ様! 対抗戦での戦いぶり、私感動しました! これからは私もチアキ様を盛り立てていきたいと思っております!」

「い、いや、気持ちはありがたいけど、『チアキ様』って何なのよ!」

「私もルリと同じ気持ちです、チアキ様! 強敵相手に一歩も引くことのないお姿、今思い出しても震えが止まりません!」

「どうですチアキ様! 我が組にも崇拝者が着々と増えております! このままいけば、いずれはミナヅキ会長の親衛隊にも比肩する規模になること間違いなしです!」

「誰もそんなこと望んじゃいないわよ! というか、え? 会長のファンクラブがあるの? むしろ私もそれに入りたいんだけど!」

「おお! チアキ様、さては敵の懐に潜りこんで、内部から信者を増やしていく作戦ですね!」

「違うわよ!」

 どうやら噂の『チアキ様を崇める会』のメンバーがこの組にも存在していたようだ。しかも、対抗戦でのチアキの雄姿を前に、会員が増えているらしい。

 フィルが腹を抱え、涙を流しながら笑い転げる。

「ひゃははは! 見ろよあれ! ついに女の子の信者まで現れ始めたぜ? ここまで来ると、オレもいっちょ『崇める会』を応援してやろうかって気になってくるぜ!」

「ま、まあ、ほどほどにね?」

 苦笑しながらヨウはフィルをたしなめる。ヨウから見ても、チアキを取り巻く少女たちの瞳の奥には憧れとは異なるどこか危険なものが潜んでいるような気がする。するのだが、それはヨウがうかつに近づいていいような生やさしいものではない気もする。

 ま、まあ、チアキのことだし、大丈夫だよね? 自分に言い聞かせるように、ヨウはチアキたちから視線を外す。

 すると、一人の少年がこちらへと近づいてきた。

 ヨウの側まで来ると、少年は笑顔を見せる。

「やあ、マサムラ君。今日はいい試合ができてよかったよ」

「こちらこそ、クジョウ君。君との戦い、とっても楽しかったよ」

 ヒロキ・クジョウとヨウ・マサムラ。今日の対抗戦の主役とも言うべき二人がそろい、クラスメイトたちも大いに盛り上がる。

「いよっ! クラス優勝の立役者!」

「二人とも、カッコよかったわよ!」

「本当にワンツー決めるとか、お前ら鬼か!」

「ねえねえ、あの二人、どっちが受けなのかしら! 意外にクジョウ君?」

「ああ見えてマサムラ君が激しいとか? ヤダー!」

 クラスメイトたちから、口々に賞賛の言葉が浴びせられる。……中には妙な会話も混じっていた気がするが。

「マサムラ君、まずは感想戦といこうじゃないか。今日の戦い、始まるずっと前から緻密に計算されていたんだろう?」

「緻密かどうかはわからないけど……いいよ! 僕もクジョウ君にはいろいろ聞いてみたいことがあるんだ!」

「ああ、私が答えられることならば喜んで」

 お互い笑うと、近くの椅子に座って話しこむ。今までなかなかじっくり話す機会がなかったが、今日は心行くまで語り合うことができそうだ。

 こうして、クラスメイトたちとの楽しいひとときは過ぎていった。





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