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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
120/135

35 それぞれの決勝

 



 戦いの熱気もまだ冷めやらぬ中、ヨウたちは観客席へと戻ってきた。

 周囲からは、クラスメイトだけでなく見知らぬ生徒たちからの声援も飛んできた。

「すげえぞお前ら! 奇跡の逆転だ!」

「クジョウを倒すなんて、さすが生徒会だ!」

「マサムラ君、カッコいい!」

「チアキ様ー!」

 気恥ずかしさを抑えながら歩いていると、目の前に見慣れた顔が見えてくる。

「おっしゃー! ヨウ、やりやがったな! お前、あんなこと考えてたんならオレにも教えてくれよ!」

「みんな、おめでとう。僕たちがかなわなかったクジョウ組を、まさかあんな風に倒すとはね」

「何たる智謀! それがしも感服しましたぞ!」

「みんなおつかれさま~。ホントにスゴかったよ~」

「皆さん、おめでとうございます!」

 フィルたち生徒会メンバーが、口々に祝いの言葉をかけてくる。

 笑顔でそれに応えていると、中心にいた人物が一際まぶしい笑顔を見せた。

「皆さん、おめでとうございます。本当に素晴らしい戦いでした」

 まるで桜が花開くかのようなその笑顔に、ヨウの鼓動が思わず速くなる。

「マサムラ君、約束を果たしてくれましたね。午後の特別戦、戦えることを楽しみにしています」

「ありがとうございます。全力で挑みたいと思います」

 ヨウは心の中で苦笑した。ノリコが次の戦いで負ける可能性など、自分もノリコもこれっぽっちも考えていない。

「シキシマさん、最後はよく耐えてくれました。ミナトさんがとどめを刺せたのも、あなたのがんばりのおかげです」

「きょ、恐縮です! ありがとうございます!」

 思い切り声をひっくり返しながらチアキが声を張り上げる。

 そんなチアキに微笑すると、ノリコはシズカへと視線を移した。

「ミナトさん。この勝利、あなたがいなければありえませんでした。あたしからも深くお礼申し上げます」

「え、えっ!? そんな、みんなががんばってくれたおかげです!」

 深く頭を下げるノリコに、シズカは半ばパニック気味におろおろととまどう。

 そんなシズカに、ヨウがほほえむ。

「そのとおりだよ、ミナトさん。君があの短期間で『凍氷の騎士槍アイス・ランス』を習得してくれたからこそ今回の作戦が成立したんだ。ミナトさんの制御能力の高さと、何よりその実直さ、がんばりが僕らを勝利に導いてくれたんだよ」

 その言葉に、シズカの顔が、耳まで赤くなる。

 頭を上げたノリコは、シズカにこれ以上ないほどの微笑を見せた。

「二人が自信を持って仲間にしたというだけのことはあります。ミナトさん、これからも二人をよろしくお願いしますね」

 そう言いながら、ノリコが右手を差し出す。

「は、はい! 喜んで!」

 慌ててシズカがその手をぎゅっと握りしめる。

 しばらく握手を交わした後、ノリコは名残惜しそうにその手を離した。

「そろそろあたしも試合のようです。皆さん、午後の戦い、楽しみにしています」

 それから、ヨウに向かって人さし指を突きつける。

「マサムラ君、あたしの戦い、よく見ておきなさい。絶対ですよ?」

「はい、しかと拝見させていただきます」

 ヨウの返答ににこりと笑うと、ノリコはその場を離れていった。

 アキホもその後に続く。

「それじゃ私もこの辺で。みんな、午後はよろしくね~」

 立ち去る二人の前にいた生徒たちが、次々に道を開けていく。

 二人の後姿を見送りながら、ヨウは思った。

 ノリコの最期の言葉、あれは自分にいいところを見せたいということだろう。証拠に、瞳の奥が子供のようにきらきらと輝いていた。

 決勝の対戦相手、大丈夫かなあ。ノリコがやりすぎてけがしないといいんだけど。ヨウはつい相手の心配をしてしまうのであった。


 決勝第二試合、戦いはあまりに一方的なものであった。

 すでに事実上の決勝戦と目されていた二回戦でノリコとタチバナとの戦いが終わっていたこともあり、決勝は誰もがノリコの必勝を信じて疑わない状況ではあった。

 だが、二回戦ほど盛り上がることはないだろうと言われていた決勝戦で、ノリコは全生徒の度肝を抜いてみせた。

 戦いが始まるや、ノリコは二回戦では見せなかった上位精霊ペガサスを呼び出しその背にまたがる。

 空高く飛翔したノリコは、ためらうことなく『精霊乱舞ダンシング・エレメンツ』を放った。生徒会の対抗戦でノリコが見せた、あの極大精霊術だ。

 天から降り注ぐ七色の帯は、対戦相手たちの周囲を囲うように落ちてくる。その一撃一撃が、並みの放射撃ブラスト級をも超える絶望的な破壊力をはらんでいる。

 結局、帯は一度も対戦相手に命中することはなく、その余波だけで相手の生徒全員の指輪が警告音を鳴らした。その圧倒的な威力に、観客は呆然となる。

 だが、真に恐るべきは、あれほどまでに精霊力が荒れ狂っていたにもかかわらず、味方には傷一つつけることのなかったノリコの精霊力制御技術であるのかもしれなかった。

 こうして、ヨウたちの次の対戦相手が決定した。


 午前最後の試合となった三年生の決勝戦は、前生徒会長のタイキ・オオクマ率いるチームが、前期美化委員会副委員長にして学年首席のシュウイチ・タチバナ率いるチームを下し、前生徒会長の意地を見せた。

 ライバル対決に勝利したのは喜ばしいことではあったが、観客からはすでに同情の声も上がりつつあった。それももっともであろう。ほぼ間違いなく、彼らはあのノリコ・ミナヅキと対戦するはめになるのだから……。





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