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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
118/135

33 決着




 戦況が、ついに動いた。

 チアキとシズカの連携が相手に読まれ始め、徐々にこちらの攻撃が通じなくなってくる。

 そればかりか、こちらの防御の癖も読まれ、次第に防戦一方になっていく。

 さすがのチアキも、単独で二人の敵の攻撃を防ぎ続けることはできない。彼女の負担を減らそうとしたのか、意を決した様子でシズカがチアキの盾の陰から飛び出す。

 もちろん、それを見逃すような生やさしい敵ではない。

 シズカの飛び出しに、キムラがいち早く対応して彼女の方へと向かっていく。それを阻止しようとしたチアキを、シミズが大地の矢を連射して妨害する。

「残念だったな。食らえっ!」

 勝ち誇ると、キムラがシズカ目がけて無数の氷の矢を放ってくる。

 腕の盾で必死に矢を振り払うシズカの眼前に、一本の氷の槍が飛びこんできた。

 とっさに盾で防ぐ。が、防ぎ切れない。

「きゃあぁぁぁっ!」

 盾が砕かれ、悲鳴と共にシズカの身体が宙を舞う。

 ちょうどクジョウの後方あたりに落下したシズカは、息が詰まったのかそのまま動く気配がない。

 やや遠くまで飛び過ぎたからか、それともシズカの無力化に成功したからか、キムラは振り返るとシミズと二人がかりでチアキに襲いかかる。

 もはや、誰の目にもクジョウたちの勝利は明らかなもののように思われた。


「ミナトさん!」

 シズカの悲鳴に、ヨウは思わず叫んだ。視界の中に、吹き飛ばされたシズカの姿が入りこんでくる。

 次の瞬間、異様な気配を察知してヨウは攻めの手を引きしめた。クジョウが精霊術の隙をうかがっていたのだ。

 ヨウの左側からは、二人の敵を相手にしているチアキの激しい戦闘音が聞こえてくる。その音が、刻一刻と激しくなっていく。

 クジョウはもはや勝利を確信したと言わんばかりの落ち着きで、ヨウの攻撃を冷静に、そして確実にさばいていく。もちろん、手を緩めたならばその瞬間、ヨウの身体は彼の精霊術によって焼かれることだろう。

 そして、ついにチアキが限界を迎える。

「ああああっ!」

 破裂音と共に、チアキの悲鳴が聞こえてくる。いよいよ相手の攻撃をしのぎ切れなくなってきたようだ。

「チアキっ!」

 焦りからか、ヨウの攻撃が空回りする。チアキの方に意識が向かったからか、そこには今まで見せなかったような一瞬の隙が生まれていた。

 クジョウは、その隙を見逃さない。

「しまった!」

 思わずヨウが口走る。

「……私の、勝ちだ」

 一瞬にして精霊術が構築され、クジョウの右手には巨大な炎の槍が握られていた。中位精霊術『炎熱の投槍ファイア・スピア』のはずであるが、クジョウのそれは中上位精霊術『炎熱の騎士槍ファイア・ランス』かと見まごうほどに大きい。

 その巨槍を今まさに振り下ろさんとしたその時、ヨウはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「……なんてね」

 その言葉に躊躇することなく、クジョウは槍を振り下ろす。ヨウの言葉にも惑わされないその精神力は賞賛に値するものであった。同時に、万が一に備え全身を炎の結界で覆う。これで投槍スピア級の精霊術を受けても倒されることはない。

 刹那、クジョウの身体が虹色に輝いた。同時に、けたたましい警告音が鳴り響く。

 ヨウの胸まであとわずかというところで、炎の槍は止まっていた。否、クジョウが止めたのだ。撃破された者が攻撃を続行した場合、反則を取られ無条件に敗北が確定する。

 クジョウの背中には、一本の大きな槍が突き立っていた。その大きさは、今クジョウが手にしている槍と同じくらいだろう。

 そして、クジョウの後ろには――腕を突き出して構えたままのシズカの姿があった。


 まさかの光景に、観客たちが一瞬しんと静まり返る。皆、今いったい何が起きたのか、にわかにはわからないのだ。

 それは、最前列に陣取った生徒会メンバーたちとて例外ではなかった。アキホはカナメたち同様、呆然と会場を見つめている。

「こ、これってどういうこと……?」

「クジョウ君が、ヨウ君にとどめを刺そうとしていたはずですが……?」

「でも、光ってるのはクジョウの方だぜ……?」

 皆が困惑する中、ただ一人ノリコだけが満足げな笑みを浮かべている。

 直後、ヨウがチアキの方へと駆け出しクジョウが会場を後にするに至り、観客はクジョウが撃破されたことを理解する。そして、これまでにないほどの歓声が会場を席巻した。

「ク、クジョウがやられた!」

「ウソだろ!? いったい何が起こったんだ!?」

「あ、あの子がやっつけたの?」

「信じられない! あの子、クジョウ君を倒せるほど強力な精霊術を使えたの!?」

 怒号、あるいは悲鳴にも似た声が上がる中、ヨウはチアキを襲っていたキムラに突貫すると高速の拳打であっという間にこれを撃破する。

 何が起こったのかわからない、といった顔のシミズに手刀を叩きこむと、彼は力なく座りこみ、指輪がけたたましい音を上げる。

「そこまで! 勝者、C組Bチーム!」

 審判が高らかに宣言する。

 観客の大歓声の中、決勝戦はヨウたちの勝利に終わった。




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