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一年遅れの精霊術士  作者: 因幡 縁
第三部
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26 二回戦第二試合



 二回戦第二試合。ヨウたちC組Bチームは、会場でアキヒコ率いるD組Bチームと対峙していた。

 アキヒコとは生徒会でいつも顔を合わせているが、ほとんど会話らしい会話を交わしたことがない。別に彼と仲が悪いというわけではなく、そもそも彼が応答以外で口を開いているところを目にする機会がそうそうないのであった。

 そのアキヒコに、試合前の握手を交わしながらヨウが声をかける。

「アキヒコ君、お互いがんばろうね」

 無言でうなずくと、アキヒコはすっと手を差し出し軽く握ってくる。

 他の二人とも握手を交わすと、両チームは互いに距離を取り試合の開始を待った。

 審判が間に入り、ゆっくりと腕を前に突き出す。

「二回戦第二試合、始め!」

 かけ声と共に、両陣営が動き出した。

 アキヒコを狙おうとしたチアキの前に、相手チームの風使いが立ちふさがる。

 そして、右方向へと展開したヨウを追うように、アキヒコが一人迫ってきた。

「なるほどね。あちらの二人が倒される前に、僕を即退場させるつもりか」

 ヨウのつぶやきに、アキヒコは無言で精霊術の構築を始める。

 アキヒコがヨウに向けて放った炎の矢は、しかし横から飛びこんできた人影によって遮られた。

 その人物――シズカの手には、円形に集められた水の小盾があった。盾は炎の矢を完全に防ぎ、表面から白い湯気を上らせている。

 意外そうな目でシズカを見つめるアキヒコに、ヨウは飛びこむ構えを見せながら言った。

「悪いけど、君の相手は僕たち二人だ」


「なるほど、チアキちゃんがやられる前にヨウ君とあの子でアキヒコ君を倒そうっていう作戦かあ」

 観客席では、アキホが感心したといった様子でフィルに話しかけていた。

「あの子、シズカちゃんだっけ? そんなに精霊力は高くなさそうだけど、防御に徹すれば相性の関係でアキヒコ君の攻撃をしばらくはしのげそうだしね。チアキちゃんもあの様子ならすぐにはやられないだろうし」

 アキホの視線の先には、大きな鉱物の盾を構えるチアキの姿があった。左右から襲いかかってくる対戦相手の二人の攻撃を盾で防ぎつつ、自身も『大地の投槍アース・スピア』を放って応戦している。

「そうっすね、あいつなら殺しても死なないんじゃないっすか?」

「問題は攻撃だね。ヨウ君、アキヒコ君にどうやって一撃を入れるつもりかな?」

「ああ、そっか。いくらシズカちゃんが守ってくれても、こっちから攻撃できないんじゃ倒しようがないっすもんね」

 フィルの言葉に、アキホは会場を見つめながらうなずいた。


 そのヨウは、アキヒコの懐へと飛びこむタイミングをはかっていた。

 早く彼を倒さないと、いつまでもチアキ一人で持ちこたえられるものでもない。どうにかして彼に接近して拳を叩きこむ必要がある。

 と、アキヒコの周囲に一つ、二つと火の玉が出現した。その数はどんどん増え、あっという間に無数の火の玉がアキヒコを取り囲む。

「これは……」

 ヨウはわずかに眉を動かした。あれはおそらく、アキヒコの意思一つで自在に動くのだろう。あるいは、近づくものに反応して動くのかもしれない。

 いずれにせよ、彼に接近しようとすれば即座にあの火の玉が襲いかかってくるはずだ。そのまま飛ばせばこちらを攻撃することも可能な、まさに攻防一体の技。

 だが、だからといって指をくわえて待っているわけにはいかない。

 意を決して、ヨウはアキヒコへと向かい走り出す。

 予想した通り、宙に浮かぶ火の玉は接近してくるヨウ目がけて突進してくる。

 対するヨウも精霊術を発動させる。すると彼の両拳が茶色い土に覆われた。この土のグローブが、微弱ながら精霊力を帯びているのだ。

 次々と襲いかかってくるそれをひらりとかわし、かわし切れないものは拳で叩き落としていく。拳と火の玉がぶつかるたびに激しい熱がヨウの身体をく。

 文字通り身を焦がす熱風に耐え、アキヒコまであと数歩というところまで迫ったその時、ヨウは一際強い精霊力の流れを感じ取った。

 反射的に地を蹴って後ずさったヨウの目の前に、突如として炎の壁が現れた。先ほどより遥かに強い熱がヨウを襲う。

 ヨウの額を、熱によるものとは違う汗が伝っていく。もしこのまま突進していれば、おそらくは退場を余儀なくされていたに違いない。

 しばらくして炎の壁が消え去ると、アキヒコの姿はすでにヨウの間合いから遠く離れていた。確認するまでもなく、アキヒコは断固としてヨウの接近を拒否する構えであるようだった。

 これはまいったな。ヨウは苦笑いを浮かべながらチアキの方へと視線を動かす。

 チアキも今は何とか二人を相手に善戦しているようだが、いつまでも続くとも思えない。やはり自分たちがアキヒコを倒すしかない。

 再び無数の火の玉を周囲に浮かべるアキヒコに、ヨウは強く拳を握りしめた。





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